第126話 運命
ギデオンが騎士団に加わって一年の月日が経過した。
討伐から数日後、今回は珍しく夜会が開かれる事になった。それにはギデオンも出席する事になってしまった。
何故なら、この夜会はフィンレイ騎士団が先日行った魔獣討伐の労いと礼を兼ねてのものだったからだ。
今回の魔獣討伐は、その当時はまだ良好な関係にあった隣国のバイルンゼル帝国から依頼を受けての討伐だった。突如、フェリズ山脈で大量発生した魔獣。それはガブレリア王国側でも起きた事だったが、帝国軍には魔力がある者が少なく、帝国軍だけでは埒が明かずにいた。そうこうしているうちに、魔獣が山から降りてしまい、民に死者が出始めたとの事で、フィンレイ騎士団が派遣されたのだ。その討伐成功に対し、バイルンゼル帝国側から礼をしたいと申出があり、夜会を行う運びとなった。
当初、バイルンゼル帝国で行うとあったが、フィンレイ騎士団の忙しさもあり、交流も兼ねてガブレリア王国で行うこととなった。
話を聞かされたギデオンは、どうにか逃げようとしたが、ルイスに捕まって出ざるを得なかった。
夜会にはガブレリア王国の上流貴族や騎士団の仲間達、バイルンゼル帝国の王族や上流貴族が招かれている。
騎士団の正装で出席したギデオンは、一際背の高い姿で人目を惹いた。騎士団に入ってから、猫背だった姿も背筋が伸び、騎士団の正装もよく似合っていた。
次々と挨拶をしつつも、場慣れして居ないのは一目瞭然で、寧ろ気遣われる程だった。
多くの人の中に、長い黒髪をハーフアップにした赤い瞳を持つ美しい令嬢が、驚いた表情で見つめ続けていた事にすら、ギデオンは気が付いていなかった。
その美しい令嬢と共に居た連れの令嬢が「どうしたの? そんなに驚いた顔をして」と訊ねると、彼女は囁く様な声で言った。
「見つけたのよ……。ついに……。こんな所に居たのね……」
「え!? もしかして、一目惚れ?! あの男嫌いのあなたが!?」
彼女はそれに答える事なくギデオンを見つめ続けた。連れの令嬢は、「これは大変!」と興奮気味に呟くと、他の仲間たちの所へいそいそとむかって行った。
一人残った彼女は、誰にも聞こえない小さな声で囁いた。
「やっと見つけたわ。……お父様の器に見合う男を……」
喜びから込み上げる笑いを堪え、薄っすらと口角を上げたのだった。
一通り挨拶を終えた頃には、流石にギデオンも人酔いをし、早々にバルコニーへ退散する事にした。
酒を飲む気にはなれなかったので、果実水を手に夜風に当たる。
今夜は雲一つなく星々がよく見えて、ギデオンはその様子を凪いだ心でじっと眺めていた。
「ギデオン・モーリス様、ご一緒しても宜しいかしら?」
少し低めの落ち着いた声がギデオンの背に当たり、振り返る。
そこには、一人の年若く美しい令嬢が立っていた。
ギデオンが戸惑いながら令嬢を見つめると、「失礼致しました」と微笑みながら近づいて隣に立つ。
「申し遅れました。
名乗り淑女の礼をする。
ゆっくりと姿勢を戻したダリアと名乗った相手は、艶やかな黒髪を美しく纏め、夜の闇にも浮かんで見える白い肌と熟れた果実の様な赤い唇、そしてガブレリア王国では見ない赤い瞳を持った美しい娘だった。
瞳の色に合わせた深紅のドレスは、彼女を大人の女性に魅せる妖艶さがある。
ギデオンは彼女に見惚れ、目が離せなくなる。
「今回の討伐成功は、モーガン様の活躍に拠るものだと伺いましたわ。……闇の魔術にお詳しいとか……」
ギデオンはその言葉に、少し身構えた。闇の魔術など、女性が最も嫌がる話題だ。ギデオンの様子もお構い無しに、ダリアは笑みを浮かべつつ話を続けた。
「実は
「……魔女?」
先程も彼女は【魔女】と名乗った。どこかの令嬢がと思っていたが、家名も言わなかったという事は、上流階級の者では無いのだろうとは思ったが、【魔女】という爵位がガブレリア王国には無いため、少々困惑気味にギデオンは呟いた。
そんなギデオンに「あら、魔女をご存知ありませんの?」と、言いながら美しく微笑む。
ギデオンはその微笑みから、再び目が離せなくなる。
「ご存知の様に、バイルンゼル帝国には魔力を持つ者が少ないのですが、東西南北に一人ずつ、強力な魔力を持った【魔女】という存在がおりますの。私は東の地域を任されておりますわ。私も簡単なものであれば、いくつか陣を組めますのよ?」
ダリアは、その魔術の幾つかを語り出し、ギデオンは一気に興味をそそられた。
彼女は「簡単なもの」と言ったが、話を聞く限り、とても高度な魔術であった。
しかも、その殆どが闇の魔術と似通った術だったのだ。
ガブレリア王国には無い独特なものだったが、それを生活魔法として利用しているのだと聞き、ギデオンは酷く驚いたのだ。
ギデオンが恋に落ちるのは、そう時間は掛からなかった。
ダリアはガブレリア王国に滞在中は、ほぼギデオンのタウンハウスで過ごす様になり、二人の噂は瞬く間に王宮内に広がった。
そんなある日、クリストファーの誕生日のため、ランドフル侯爵家へ以前から招待を受けていたギデオンは、ダリアを連れて屋敷へ訪れた。
当初、招待されていたのはギデオン一人であったが、ダリアが行きたがり連れて行く事にした。
前触れもなく連れて行ったにも関わらず、ルイスは気持ち良く招き入れた。
しかし、その日以降、ルイスとギデオンが疎遠となってしまう出来事が起きたのだった---。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます