第125話 入団


 翌日、ギデオンは宮廷魔術師としての仕事をしていると、上司から呼び出しがあった。


 ルイスの強引な誘いは、いつの間にか確約されていて、ギデオンは次の討伐でルイスが率いる騎士団と共に討伐へ向かう事が決定していた。


 フィンレイ騎士団は、ルイスが自ら国王陛下へ直談判して作った魔獣討伐のための騎士団で、騎士達もルイスが直々に勧誘して集まった者達だ。

 魔力が高く剣術に優れた者ばかりの精鋭部隊で、ルイスを含め七人の小集団だが、志が同じ方向性である者達で人間性にも優れた者達だという事は、触れ合ってすぐにギデオンにも分かった。



 仲間は皆、驚くほどあっさりとギデオンを受け入れ、寧ろ闇の魔術について質問をして来る者やギデオンが考案した魔獣攻撃方法を実践した時、とても効果的であったと感謝された。


 いざ、討伐へ向かうと、魔眼を繰り出したルイスの魔力は膨大で、先頭に立って魔獣へ立ち向かう彼の姿にギデオンは圧倒された。

 普段、明るく清々しい笑顔を見せる男とは、全く異なる顔がそこにある。

 猛々しい表情は、魔眼がギラつくせいか近寄り難い雰囲気を醸し出す。

 よく通る声で的確な指示を出し、騎士達もそれに従い連携して魔獣を次々と倒していく姿は、とても七人で行われているとは思えない。


 そんな中、ギデオンも魔獣攻撃に効果的な陣を次々と繰り出し、それは騎士達の大きな助けとなっていた。



 討伐を無事に終えたその夜。


 緊張の解けた陣地内は戦いによる高揚感がまだ残っており、皆思い思いに今回の戦いで得た攻撃方法やギデオンの魔術を興奮気味に語り合っていた。


 暫く、騎士達の話の輪の中にいたギデオンは、ふとルイスの姿が無いことに気が付いた。


 隣に座っていた一番若い騎士に訊ねると「大丈夫です、いつもの事ですから」と答えた。


「団長は魔眼がまだ収まらないのかも知れないです。団長の魔眼は痺れるほどかっこいいですが、俺たちは一分も見られないくらい強くて。それを分かってて、いつも魔眼が収まるまでは、一人で休んでいる事が多いんですよ。ギデオンさんは、団長の魔眼を見つめていても大丈夫なんですよね! すごいです!」


 若い騎士は、興奮気味にギデオンを褒め出したので気恥ずかしくなり、「ちょっと様子を見て来る」と言って、席を立った。


 ルイスの天幕へ向かい、入り口前で声を掛けると、「ギデオン? どうぞ」と了承の返事があったので、天幕の中へ入った。


「……ルイス、大丈夫か?」


 簡易寝台の上で、目の上に腕を乗せ横になっているルイスに数歩近くと、ルイスは腕を退けてギデオンを見つめた。


 青紫の瞳には金銀色と美しい光が宿っている。

 角度によって色が変わるその瞳に、吸い寄せられる様にして寝台へ近づき、その端に腰掛けた。


「魔眼のままだと、皆が怖がるからな。魔力が強すぎて、数分目を合わせて居ただけで失神する者も居る。だから落ち着くまでは、いつもこんな風に過ごしているんだ」

「私は平気だ」

「ふふ、何故だろうな」

「やはり、ルイスの魔眼は美しい。討伐中も、ついつい見入ってしまったくらいだ」


 と笑いながら言うと、ルイスが僅かに目を見開き止まった。


「ルイス?」

「あ……いや、ギデオンでも、そんな風に笑うんだなと思って。……ところで、初の討伐はどうだった? 僕はやはり、君は向いていると思ったが」


 ギデオンは魔眼を見つめながら、小さく微笑んだ。


「……私は、初めて自分の考案した術を実践して、改善する箇所もわかり、遣りながら新しい事が浮かんだ。……君の言う通り、机の上だけでは分からない事も多くあるのだな……」

「……ギデオン、僕達と一緒仕事をしないか? もちろん、研究は続けてくれて構わない。寧ろ続けてくれ。僕は、君が居てくれると安心して自由に動けると、今回の討伐で実感したんだ。何より、こうして魔眼のままで居ても大丈夫な存在は心強い。僕の力になってはくれないだろうか?」


 ギデオンは膝の上に置いた自分の手を見つめた。


 暫しの沈黙の後、ギデオンが顔を上げ、まだ金銀色の残るルイスの瞳へ目を向けて……。


「……よろしく頼む」


 その答えに、ルイスは顔をくしゃりと歪め、泣きそうな笑顔を見せ「あぁ、こちらこそ、よろしく」と言い少し身体を起こし、ギデオンの膝から手を取って、その手をぎゅっと握り締めた。


 討伐を終え王宮へ帰還すると、ルイスはギデオンの気が変わらない内にギデオンのフィンレイ騎士団入りを国王陛下へ申し出た。


 研究を続けることを条件に、ギデオンはフィンレイ騎士団へ無事に入団を果たしたのだった。




 

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