第119話 闇の空(皇太子side→ガブレリア国王陛下side)


 ルベイの町---


 空はドス黒く染まり、分厚い雲が闇を連れてきた。

 結界が破られ、瞬く間にルベイの町へ入り込んで来たのは、黒髪で異様な白さの肌を持った者達だ。吟遊詩人と同じ容姿のそれらに、私が戸惑い驚いている隙をついて、弟ベルナルドが剣を振り下ろしてきた。すかさずそれを押さえる。剣が火花を散らしながら、キンキンとぶつかり合う音が響く。


「兄上には、分からない! 私がどんな思いで今まで生きてきたか! 陰で何と呼ばれているか、そんな事は、私が一番知っている!」


 時々ベルナルドから放たれる魔法を、どうにか避けながらも、剣で戦っていた。

 ベルナルドの顔色が良くない。それが、戦争をし、結果を残すという重圧からなのか、それとも、例の吟遊詩人の薬によるものなのか……。そう考えていると、ベルナルドからその答えが伝えられた。


「私が魔法を扱える事、驚いてますよね。吟遊詩人が私に処方した栄養剤ですよ。私の内に眠る魔力を高めてくれたのです」


 ベルナルドは私から離れ、片手にバチバチと火花を散らす魔法を集め出した。


「兄上、もう終わりにしますよ。無駄話も、兄上も。もうお終いです」


 そういうと、手に集めた魔法を私に向かって放った。私その眩しさから顔を背け、覚悟した。だが、それが私に届く事は無かった。


「遅くなりました」


 その声に私が顔を上げると、カーター副団長殿の後ろ姿がそこにあった。


「魔力扱いに不慣れの様ですね。そんな無駄に魔力を放出していたら、瞬く間に魔力切れを起こしますよ? 魔力を扱うとは、どういう物か。私がお教えしましょう」


 カーター副団長殿の表情は分からないが、全身に漂う気配は、尋常じゃない怒りを纏っていた。


「リカルド皇太子殿」


 呼ばれ、私はカーター副団長殿の横に並び立った。


「後悔はしませんね?」

「弟とはいえ、私の決心は揺るがない」

「では、遠慮なく行きますよ」

「弟が敗れたら、それが弟の運命」

「なるほど。では、行きます」

「望むところ」


 私の言葉を最後に、カーター副団長殿は高速詠唱をしベルナルドへ術を放った。



***



 王都---



 朝には不釣り合いな暗闇の様な空に、この空を生み出した者が何者か、瞬時に分かった。地底に棲む者達だということに。


 ヒューバートを連れ、知恵の女神の所へ行った後、再度、一人で向かった。

 ヒューバートが見たと言う、八百年前の争いを、私も確認しなくてはと思ったからだ。

 八百年前と同じ空の色。


 この色が、王都まで流れて来ているということは、間も無く地底に棲む者達がここへ来る。


「陛下、準備が整いましたぞ」


 声の方へ目を向ける。

 魔術師団のサミュエル団長だ。


「この闇を晴らす。地底に棲む者は、太陽の光に弱い。ならば、この分厚い雲を散らす。私が自然魔力の制御を緩める。サミュエル、頼めるか?」


 私が何をしたいのか、サミュエルは好好爺よろしく、微笑みながら数回頷く。


「さて、ローガン坊ちゃんが、どのくらい細かな制御が出来るようになったか。やってみるかのぉ」


 緊急事態であるにも関わらず、何とも長閑な雰囲気で言うサミュエルに苦笑いする。

 私が子供の頃に、魔力制御を教えたのは彼だからだ。私は「行くぞ」と言えば、サミュエルは普段は細めている瞳をカッと見開いた。

 私は詠唱をしながら、大地に、木々に、風に、水に……。自然のあらゆる生命に集中した---。


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