第110話 魔女の儀式(アレックスside)
「アリス!!」
僕はレオンから落ちて来るアリスとエバンズ団長に風魔法をかけ、すぐさま駆け寄った。
「アリス!! アリス!!!」
エバンズ団長の腕の中で眠る様に目を瞑るアリスの両頬に手を当て呼び続ける。
僕の後ろでは、北の魔女のナリシアがダリアに攻撃を仕掛けている。
父上は神獣様とレオンとで、鴉の姿のセオデンを追い詰め、激しい魔法の光が目の端に見える。
「ア……アリス、さま?」
アリスの名前を呼び続けながら、苦手な治癒魔法を必死で掛け続ける僕に、コレットの声は聞こえなかった。
「アリスさま……! アリス様!!」
コレットの叫びの様な呼び声に、僕は顔を上げる。
「コレット……。ごめん、僕はアリスじゃない。アリスは、この子なんだ。僕の双子の妹だ……」
僕の言葉に、コレットは目を見張った。胸に付けていた陣が破け、アリスはもう本来の姿に戻っていた。コレットが何かを言おうと口を開きかけた時。
「ダリア!! 会いたかったぞ!」
南の魔女ダレーシアンが箒に乗って氷の間に飛び込んで来た。すぐさまナリシアの援護をする様に魔法を放つ。その魔法は拘束魔法だった様で、ダリアに蔦が絡み付きグッと締め上げた。ダリアが言葉にならない言葉でダレーシアンを罵倒する。が、ダレーシアンは箒に乗ったままコレットを呼んだ。
「コレット! 受け取れ!!」
投げられた何かをコレットが慌てて受け取ると「左手中指に嵌めるんだ!」とダレーシアンが叫ぶ。
「ナリシア!」
「ああ!」
「細かい文言は省く!」
ダレーシアンがそう言うと、ダリアが「やめろぉぉぉ!!」と、がなった。が、ダレーシアンとナリシアはそれを無視し声を揃えた。
「「コレット・イリスを西の魔女とし、ここに認める!」」
その瞬間、四人の魔女が指に嵌めている、それぞれの指輪が光を放った。
ダレーシアンの瞳の夕暮れ色、ナリシアの瞳の水色、ダリアの瞳の赤色、そしてコレットの瞳の瑠璃色が、氷の間全体に広がる。
光がコレットの指輪に吸い込まれる様に入り込むと、ダレーシアンが叫ぶ。
「コレット!! お前は浄化と治癒力に長けてる! そのお嬢さんを必ず助けろ!!」
ダレーシアンの言葉に「はい!」と大声で返事をすると、直ぐに鋭い表情で僕の隣に座り込んだ。
「ダレーシアン!!!!! このガキがぁーー!!!」
ダリアがダレーシアンの拘束魔法を自身の魔力で引き千切る。荒れ狂う様にダリアの赤黒い魔力が氷の間に広がっていく。
「ぎゃぁぁぁぁぁああ!!!」
セオデンの奇声が響き渡る。
「セオデン!!!」
ダリアが振り向くと、父上が人間の姿になっているセオデンの胸に剣を突き刺していた。セオデンの身体が黒い塵の様に崩れ消えてゆく。
「おのれぇぇぇ!!!」
ダリアが父上に向かって杖を振るったが「相手はこっちだ!」とダレーシアンがそれを阻止した。火花が散り、バチバチと音を立てる。
そんな中、コレットはアリスの胸に手を当て治療に集中していた。胸に空いた穴が徐々に塞がっていく。さっきまで一緒に居たコレットとは、全く違う魔力が全身から溢れている。これが、【正式な魔女】という事なのか。
「運良く心臓から外れていました。大丈夫。大丈夫……」
コレットが独り言の様に呟いた。僕の呼吸は浅く、はぁはぁと息を切らせアリスの手を両手で握る。その手から、自分の魔力を送り込む。
生きて。アリス。お願いだから……。
祈る様にアリスの手を自分の額に当てる。
すると、何かが僕の耳に囁いた。何かと思い顔をあげると、キラキラと水色の輝きが僕とアリスの周りをクルクルと舞う。
この光は、一体なんだろう。コレットの魔力だろうか。
すると、コレットがアリスを見つめたまま、僕に声を掛けた。
「あなた様を何とお呼びしたらいいか分かりませんが、こちらのアリス様は私が必ず助けます!」
コレットの鋭い声に僕は奥歯を噛み締める。
「だから、ここは大丈夫! 私に任せて!」
ふと顔を上げ僕を見る。力強く頷くコレットに、僕は一瞬顔を歪ませた。だが、この子を信じようと、強く思った。
「アリスを頼む」
「はい!」
僕が立ち上がると、エバンズ団長がハッと息を呑む音が聞こえた。
「アレックス……お前……その目……」
「団長、アリスをお願いします」
そう言い残すと、僕はダレーシアンとナリシアが戦うダリアの元へ向かった。
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