第109話 静かすぎる北の砦(皇太子side→ブライアンside→ズベルフside)

前半リカルド皇太子視点、中間ブライアン視点(と、マーカス視点が少し)、後半ハルロイド騎士団のズベルフ副団長視点


よろしくお願いします。

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 ダレーシアンを連れ、エバンズ団長殿達がフェリズ山脈へと飛び立ってすぐ、私達は先程組んだ隊列ごとに別れ、それぞれ向かうべき場所へ向かった。


 私はカーター副団長殿達と共にルベイの町へ向かった。そこに、ズベルフが居るはずだ。ズベルフがどうバイルンゼル軍を誘導するかを確認する為にも、軍が攻め入る前に何としてでも捕まえて吐かせなければならない。

 国境から一番近いルベイの町へは、恐らく弟のベルナルドが指揮を取り先陣を切るだろう。   

 北の砦へ向かうのはフィンレイ騎士団の三人の騎士達と私の部隊の副隊長率いる兵士達だ。


 弟が率いる軍はある程度魔法が扱えはするが、フィンレイ騎士団の比では無い。寧ろ、ガブレリア王国の平民の方が扱えるかも知れない。魔法合戦になったとしても、ガブレリア王国には魔術師団もあると聞く。ダリアがどの様な魔術でこの魔法王国を落とそうとしているのか、私には想像も付かない。だが、恐れている訳にはいかない。何としても、この不毛な争いを阻止せねば。

 カーター副団長殿はダレーシアンが置いて行った軍馬に乗り、ロブ殿は私の軍馬に乗せた。私の軍馬は他の馬より大柄で逞しい。僅かな距離なら二人乗っても走れる。私はカーター副団長殿に続き軍馬を走らせながら、「必ず止める」と強く心に誓った。



***


 ---北の砦方面---



 俺はレイモンドとマーカス、そしてバイルンゼル帝国軍の少数の兵士達と共に北の砦へ向かった。途中、俺達がバイルンゼル帝国の軍と共に行くことは、俺達が裏切り者と思われる可能性もあると思い、砦より少し手間で一度、副隊長と呼ばれていた壮年の男と話し合いをした。リンド副隊長も俺の考えに頷き、この場で待機する事に同意した。砦に異常があれば、直ぐにマーカスが火魔法で花火を打ち上げ合図する。何事も無くハルロイド騎士団に話を通したら、我々が迎えに来る。で、話が纏まった。


 俺達三人だけで北の砦に到着すると、信じられない程に静かだった。


「ブライアンさん、なんか……気味が悪いくらい静かじゃないですか……?」


 マーカスの言葉に俺は頷く。レイモンドが音魔法で砦内の気配を探る。


「ブライアン、マーカス……。気を引き締めて行こう」

「レイモンドさん?」

「人の呼吸音が、ひとっつも聞こえて来ないって、有り得ないだろ?」


 レイモンドがそう言うと、俺とマーカスはゴクリと生唾を飲み込んだ。


 ひとまず、二手に分かれて砦に侵入することに。


 俺とレイモンドが砦の中へ行く。俺達が入ってから五分経っても、砦の外で待機するマーカスに何の合図もしなかったら、即火魔法で待機しているバイルンゼルの副隊長に知らせる。


 段取りを決めると、早速砦の中へ入る。

 

 門番も居なければ、砦内を歩く人の姿すら見えない。

 俺とレイモンドは目配せし、先を急ぐ。

 まず向かった先は、砦の見張り台だ。俺が階段を登って見張り台内へ入ると、男が二人倒れていた。

 急いで二人の脈を確認。


られてる……」


 俺は直ぐにレイモンドに合図を送ると、次はハルロイド騎士団の団長室へ向かう。その間、誰とも出会していない。


 団長室のドアを三度ノックする。耳を澄ますがザッカーサ団長の声は聞こえない。俺はゆっくりドアノブを回し、ドアを開けた。


 部屋には誰一人居ない。窓が開いており、書類が風に舞って部屋中に落ちている。

 どう考えても異常事態だ。


「ブライアン」


 レイモンドが声を潜めて俺を呼んだ。直ぐにレイモンドの側へ行く。


「どうした」

「会議室から、僅かに音がした」

「行こう」

「ああ」


 あと一分。

 俺が何も合図をしなければ、マーカスが動く。急いで会議室へ向かう。途中、ふと気になり会議室の少し奥にある転移陣のある部屋へ向かった。

 レイモンドも俺に合わせ、ついて来る。

 転移陣のある部屋のドアを開ける。


「……!」

「なんだ……これは……!!」


 転移陣の書いてある床に大きな亀裂が入り、割れている。

 陣を壊すだけの魔力がある者は魔術師団長かアレックスぐらいだろう。もしや、あのズベルフがやったと言うのか……。


「会議室へ急ごう」


 俺はレイモンドを促し、会議室へと向かった。


 俺が会議室のドアを開けようとした、その時。

 レイモンドが叫んだ。


「ブライアン! 開けるな!!」


 その声は、一歩遅かった。

 カチャリという音と共に爆音が響き渡った。



***



 砦から爆発音が聞こえた。

 顔を上げると、黒い煙が上がる。


「ブライアンさん! レイモンドさん!!」


 俺は急いで火魔法で花火を打ち上げると、直ぐに砦の中へ駆け込んでいった。




***



「あっはぁ! 誰かなぁー! 会議室のドア、開けちゃったんだぁ!」


 あぁ! 楽しくなってきた!


「会議室の中にいた、ハルロイド騎士団のみんな……。ご愁傷様でした。ザッカーサ団長、俺、あなたのこと嫌いじゃ無かったですよ」


 心にも思っていない事を、大袈裟に悲しみながら言ってみる。そんな自分に思わず吹き出して笑ってしまった。


 バイルンゼル帝国軍が来るから、作戦会議をと、ザッカーサを促し会議室へ全員を集める様に指示した。最初、全員が持ち場を離れる事を渋ったから、仕方ないからランドルフが鳥を送って来たと話をしたら、案外あっさり全員を会議室に集めてくれた。まぁ、見張り台は離れるのはダメって言われたから、俺がサヨナラしてあげたけど。


 全員を拘束魔法で縛り上げた。みんな俺が敵側だなんて思いもしないから、油断しまくってて何とも張り合いも無くチョロいもんだった。


 会議室のドアを開けると爆破する様に仕掛けをしておいた。魔術師団がすぐ来られちゃマズいから、少しでも時間稼ぎの為に転移陣も破壊してきた。あれはちょっと大変だったなぁ。魔力半分くらい使ってしまって。アリス嬢の回復薬、貰っておいてよかったぁ! アリス嬢、ありがとねぇ。


「ドアを開けたのは、フィンレイ騎士団の誰かかなぁ? 転移陣は壊したから、魔術師団では無いだろうし。あははは! フィンレイ騎士団も吹っ飛んだって事だよね!? 俺、なんか褒章もらえるかなぁ! すごいよね、俺! 天才すぎて、自分が怖ーい! あははは!!」


 笑い声が空に響く。


 ああ、今日はいい天気になるなぁ。なんて朝焼けが美しいんだろう。


「いい予感しかない。さぁ、迎えに行こうか。無能なベルナルド様を。あ〜……なぁんか、急に面倒くさくなって来たなぁ。俺の功績が、あのアホな皇子の功績になるとか、あり得ないよねぇ……。でもまぁ……ひとまず、迎えに行くかぁ。ダリア様に褒めてもらいたいからなぁ。あのおっきな胸に顔埋めてさぁ、頭撫でてもらうの。めっちゃ気持ちいいんだよねぇ」


 褒美のために頑張るか。と、溜息を吐いて、ルベイの町方面へ軍馬の向きを変える。「はっ!」と気合いを入れ、俺は軍馬に鞭を打ち、走らせた。

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