第108話 合流と……(ナリシアside→アリス→アレックスside)

前半ナリシア視点、中間アリス視点、後半アレックス視点です。

よろしくお願いします。

___________________________________________




 バイルンゼル帝国側にある【氷の間】の前に、転移用の魔法陣がある筈にも関わらず、私とベルは何故か別の場所に転移していた。


 これは、一体どういう事だ。


『ナリシア……』

「……転移陣を描き直されている……?」

『そんな事、可能なのか?』

「……いや、元々は父上が作った陣だ。私が作った陣では無いからな……。父上が書き換えていたとするなら、わからない」


 でも、何のために?


「または、ダリアに破壊されているか、だな。幸い、ここは【氷の間】に一番近い陣でもあるから、急ごう」

『強引に【扉】も壊されてる可能性がありそうだな』

「それは大丈夫だろう。あれは、【菫青石の宝珠】でないと破壊も解除も出来ない」


 魔法で箒を現し跨ると「超高速」と呟き、ベルと箒に術を掛け【氷の間】へと急いだ。



***



 レオンが『いた! アレックスだ!』と叫んだ。


「ダレーシアンさん、私達はアレックスの元へこのまま降り立ちます」

「わかった」


 一言そう言うと、ダレーシアンはいつの間に箒に跨ってレオンと並行飛行した。


「私は裏へ回り込んで行く」

「はい、わかりました。お願いします」


 私が頷くとダレーシアンは私達から離れ、空高く上昇すると、大きく弧を描きながら方向を変えた。


「お父様! 私達は正面から向かいます! ダレーシアンさんは裏から回り込むと言ってました!」

「わかった! では我々は西側から回り込む!」

「はい!」

「アリス! 気を付け!」

「お父様達も!」


 私とレオンは、一気に下降しアレックスの元へ向かった。



***



「やっと【菫青石の宝珠】に変えてくれたな。さぁ、この子が殺されたく無ければ、私の言う事を聞くんだよ」

「誰がお前の言いなりになるものか!」


 剣に魔力を込めてもいないのに、剣を払っただけで鋭利な風が生まれた。

 相変わらず鴉がローシュを襲い、ラッシュはセオデンに喉元を押さえ込まれている。

 僕はサッと鴉に視線を向けると、目の端にレオンの姿を捉えた。

 一瞬、なぜ神獣の姿のレオンがここに居るのかと頭をよぎったが、今はそれを考えている時ではない。僕は念話で今から鴉を一掃するから、少し離れる様にと伝える。

 それから一呼吸置いて、手を振り翳す。


 この周囲一体に結界を張ると同時に、鴉のみに超音波の音魔法を掛ける。耳に衝撃を加える事で、一時的に平衡感覚を失わせる。無碍に殺したくは無い。すまない、また回復するから。と、誰にともなく心の中で謝罪する。上空から襲って来ていた鴉は一斉に地面に落ちて来た。

 セオデンが何か叫んだが、僕は剣を薙ぎ払う。細かな風が鋭い矢になってセオデンの腕に傷を残していく。

 セオデンの腕が緩んだ隙にラッシュが逃げ出す。


 次はコレットだ。


 僕はダリアに向けて術を放とうとした。が、流石、東の魔女。さっきまでの僕への攻撃は、彼女にとっては遊びの様なものだったのかも知れない。

 先程とは比べ物にならない質量の魔術が飛んでくる。僕はそれを躱しつつ、攻撃をする。

 双方の魔法がぶつかり合い、激しく火花が散る。どちらも本気の力であるのは確かだ。ダリアの顔に、先程まであった余裕が消えている。


 ダリアは何を思ったか踵を返すと、山脈の麓に向かい走り出した。僕は慌ててそれを追いかけつつ雷の魔術を放った。ダリアがそれを杖で弾くと地面に雷が落ち、その部分が地割れした。何か魔力の感じる箇所だったが、転移陣のような模様があった。僕は地割れした箇所を飛び越えダリアを追った。

 ダリアが立ち止まった先には、大きな氷の扉が異様な存在感を放ち、そこにあった。

 

 僕が扉に目を向けた瞬間。

 ダリアは何かの呪文を唱えた。僕の瞳が強く圧迫される様な感覚を持ち、痛みが走る。それに耐えながら、僕は再びダリアへ攻撃魔法を放つ。


 コレットが何かを叫んだ。

 その時だった。


 氷の扉が、ゆっくりと開かれる。

 それと同時に。


 東の魔女の真上から、稲妻が一直線に落ちてくる。レオンの放った雷だと瞬時に気がつく。

 僕はすかさずダリアに捕まったままのコレットに防御魔法を施し、レオンの放った雷に更に強固な魔法を乗せた。

 だが、ダリアは魔法陣を足元に現す。結界が張られ雷は吸収される様に収まっていく。


「アレックス!」


 上空からの声に、僕は眼を見張った。


「アリス!」


 アリスは僕とそっくりな姿で、そのままレオンと共に垂直に急下降してきた。


 アリスが魔女に向かって攻撃魔法を繰り広げる。僕もそれに合わせ攻撃をする。上空のアリスと僕からの攻撃にダリアは一瞬の隙を見せた。

 僕はそれを見逃す事なく、コレットを引き寄せの術を使い僕の元へ引き寄せた。

 ダリアは扉の開いた【氷の間】へ走り込む。僕とアリス達もその後へ続く。

 すると、突然ダリアが慌てふためく様な行動をし「ない!」と一言叫んだ。


 僕らは何事かと思いつつ、攻撃を続けようとすると。


「無いだろうな。お前の大切なものは、私が破壊したからな」


 ダリアが素早く振り向いた先に、大きなオオカミと銀色のストレート髪に氷のような水色の瞳を持った色白の少女が立っていた。


「ナリシアーーーーー!!!」


 ダリアの叫換が氷の間に響く。

 

 ダリアの叫びで、僕は少女が北の魔女だと気がつく。

 ダリアは、北の魔女のナリシアに向かって攻撃をするが、ナリシアは氷の膜の様な結界を張り、それを防御する。

 セオデンがすかさずダリアの背に周り、僕とアリスに向かって攻撃魔法を放った。僕らはそれを躱す。レオンがふわりと飛び上がり、アリスが天井からセオデンに攻撃を仕向けると。


「小癪な!」


 セオデンが鴉の姿になり、ダリアがセオデンに魔法を掛けた。

 アリスに向かって飛んで行くセオデンの姿は一本の黒い槍に変わる。


「アリス!!」


 聞き慣れた男の声が響く。僕は視線を声の主に向けると、氷の間に飛び込んで来たレオンより少し大きな躰の神獣様から飛び降りて来るエバンズ団長の姿と、神獣様に乗る父上の姿を捉えた。


 僕は驚きで一瞬思考停止する。そこからは全てが遅緩ちかんして見えた。

 エバンズ団長が叫び、アリスに手を伸ばすのと同時に黒い矢が飛んでいく。


 その矢は、アリスの胸元へと真っ直ぐに突き進み、その胸を貫通したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る