第10章 氷の間とルベイの町
第106話 すぐ行くから!
『アリス!!』
レオンが叫ぶ様に私を呼ぶ。
「聞こえた!!」
『アリス! 俺は行かなきゃ! アルは俺の主人だ!!』
「待って! 一緒に行く!!」
「ちょっ! アレックス! どうしたんだ! 行くって何処に!?」
レオンの声は私にしか聞こえていない。私の腕を取ったエバンズ団長を振り返り、小声で伝える。
「アレックスが念話を送って来ました」
「何だって!?」
「私たちはアレックスの元へ向かいます。行かせてください。お願いします」
私の顔を真っ直ぐに見つめるエバンズ団長の表情は、戸惑いと苦しさが入り混じっている。
瞬時に考えを纏めたのか、エバンズ団長が素早く皆を振り返る。
「みんな! 今、神獣様が東の魔女の魔力を感じ取った! 俺とアレックスは神獣様と共に東の魔女の元へ向かう!」
「え!? 待って待って!! 東の魔女はアレックスを狙っているのに、わざわざ行く必要があるのかよ!」
エバンズ団長の言葉に、一番に声を上げたのはマーカスさんだった。
「エバンズ、マーカスの言う通りだ!」とカーター副団長が言う。
「狙っているからこそ、だろ? エバンズ」
お父様がみんなの間に入って言った。お父様の言葉に、エバンズ団長は小さく顎を引く。
「私も共に行く。神獣殿が二頭も居ればアレックスを護る事も出来るだろ」
「なら、私が案内する」
箒で飛び立とうとしていた南の魔女、ダレーシアンが言った。
「行く方角は同じだ。私も入れば、狙われているという騎士殿を護る壁は、より強固となる」
そう言って夕日色の瞳を私に向け、軽くウィンクをしてみせる。
エバンズ団長が「感謝する」と短く言うと、すぐに指示を続けた。
「カーターとロブはリカルド皇太子とルベイの町へ向かってくれ。あそこが一番狙われる場所だ。レイモンドとブライアン、マーカスの三人は北の砦へ向かってくれ。それから……」
「私達がフィンレイ騎士団の者達と共に北の砦行こう」
リカルド皇太子の後ろで待機していた壮年の男が声を上げた。リカルド皇太子は一つ頷くと、素早く隊列を組ませ指示を出す。
誰が何処へ向かうか決まると、レオンは落ち着き無く私の騎士服の裾を喰んで引っ張る。
『アリス! もう行かないと!』
「エバンズ団長! もう向かいます!」
そう言ってレオンに飛び乗る。すると、私の後ろに南の魔女のダレーシアンが乗ってきた。
「神獣殿、すまぬが私も乗せてくれ」というダレーシアンの言葉に、不愉快そうにイライラとした低い声で『乗ってから言うな……』と言うレオン。私が「大丈夫です!」と応える。
「ダレーシアンさん、僕にしっかりと捕まって居てください」
ダレーシアンさんが「わかった」と返事すると同時にレオンが走り出した。エバンズ団長はお父様と一緒にお祖父様の背に乗って、レオンの後を追うように飛び出した。
「この先に少し開けた場所が出て来る。その奥に【氷の間】がある」
ダレーシアンさんの指示に従って、レオンは少しずつ高度を下げていく。
「お嬢さんは、アレックスくんを助けるために、こんな格好をしているのかい?」
「え!?」
誰の目にも、私の姿は男の姿のはすだ。私の心臓が早鐘を打つ。
「大丈夫。上手く男になっているさ。ただ、魔女はね、そういう魔法を見破るのが得意なだけ」
「……アレックスは、私の双子の兄です」
「そうか……」
「東の魔女は、アレックスの瞳を見て【菫青石の宝珠】だと言って、兄を拐いました」
私の言葉に、ダレーシアンは何を思ったのだろう。「菫青石……」と呟くと、私の腰に回された腕に少し力が入り、暫し黙した。
「必ず、助けよう」
「……はい!」
『おい! 南の魔女! あの先だな!』
レオンが叫ぶ。
「あの先で良いですか?」
「ああ、あそこだ」
ダレーシアンが答えると、まるでアレックスが私たちを急かすかの様に、魔法の雷が空に光って消えた。
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