第104話 呼び声
今回は前半アレックス視点、中間・北の魔女視点、後半アリス視点となっております。
よろしくお願いします。
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僕らは箒から降りてラッシュとローシュを呼び寄せた。
鴉は相変わらず鳴き続けている。僕らの姿は見えていなくても、鴉は賢い。二頭が駆け抜ける草の動きで分かっていたのだろう。
コレットが二頭に何故、突然方向を変えたのかを訊ねている。二頭は大きな耳をクルクル動かし、小首を傾げる。ちゃんと言葉を聞き取ろうとしている姿だ。鴉の声でコレットの声が聞き取りにくいのだろう。
「……やっぱり……」
二頭の前にしゃがんでいたコレットが、神妙な顔で立ち上がり、僕を振り向いた。
「アリス様、やはり鴉に促された様です。ナリシア様は【氷の間】に居ると言われたそうなんですが……」
そこまで言うと、コレットは暫し考える様な表情で僕から視線を逸らす。僕が話の続きを待っていると、再び僕を見上げ、話し始めた。
「鴉達が『ナリシア様はこっちに居たよ』と言った様なのです。こちらにも、確かに【氷の間】はあります。ですが、そこはもう何百年も前から閉鎖されているんです」
「閉鎖……。それは、何故?」
「私も、閉鎖されている以外、詳しくは知らないんです」
「そこでいつまで話しているつもりだい?」
声と同時にパチンと弾ける様な音を立てながら、僕らが纏っている術が解けた。
僕らは素早く声の主を振り返る。
そこには、ひょろりと細く背の高いセオデンと、黒いローブを纏った東の魔女、ダリアが不敵な笑みを浮かべ立っていた---。
♢♢♢
『ナリシア、ローシュが呼んでる』
私の使い魔であるオオカミのベルが言った。ベルに視線を向けると、耳を傾けて音を拾おうとしている。
『ナリシア、ラッシュがダリアに捕まった。コレットが危険。そう言ってる』
「コレットが?」
私はベルから視線を離し、ガブレリア王国の空に目を凝らす。
風の精霊王から、ルーラの森に棲む神獣がランドルフの家の者を連れて来ると連絡があった。精霊王から指定された場所で待っていたが……。来る気配はない。
私は一つ顎を引く。
「コレットを助ける事が先決だ。行こう。場所は?」
『向こう側の【氷の間】』
それを聞き、私は僅かに瞳を見開いた。なぜ、そんな場所にコレットが? しかもそこへダリアが行った。という事は。
やはり、最近のダリアはダリアであってダリアでは無かったという事か。
ダリア違い。
今のダリアは、八百年前のダリアの魂であるという事だ。
「やはり、依代があったか……」
『ナリシア』
「ベル。もし神獣殿がこの近くまで来ているのであれば、お前の声が届くだろう。私が別の場所に移動したと伝えておくれ」
『分かった』
ベルは一つ頷くと、魔力の乗った遠吠えをする。私は目の前の扉を見つめ、そっと触れた。
「ついに、この時が来たか……」
ベルの伝達が終わると、私はベルを隣に立たせ、口の中で詠唱する。足元に転移陣が現れ、私達はバイルンゼル帝国側にある【氷の間】へ向かった。
♢♢♢
リカルド皇太子の話を聞き、私たちは自分達が今からどの様に行動を起こすかを話し始めていた時だった。
突然、レオンとお祖父様が立ち上がる。二頭とも同じ方向へ顔を向け、フェリズ山脈を見つめている。
「レオ? どうしたの?」
『祖父さん? これは……』
私の質問に困惑顔で首を傾げ、お祖父様に訊ねるレオン。お祖父様は、レオンに一つ頷くとお父様に目を向けた。
『ヒューバート殿、北の魔女が場所を移動したようだ。どうも、仲間の魔女が危険な状況だと』
「仲間の魔女?」
「仲間の魔女とは?」
お父様の言葉にいち早く反応したのは、南の魔女ダレーシアンさんだった。
「今、神獣殿が北の魔女殿の伝言を受け取りました。仲間の魔女が危険な状況だと。私達は、北の魔女殿と会う約束をしていたので」
「仲間の魔女が危険だって?! それはコレットの事だ! リカルド! ダリアにコレットが捕まった!」
ダレーシアンさんは焦ったようにリカルド皇太子に伝えると、リカルド皇太子は険しく顔を歪めた。
「なんとも間が悪い……」
「リカルド、すまんが、私はコレットを助けに行く」
「何を言っているんだ!」
「今のダリアは、あの子の力が自分の邪魔になると思っているんだ。あの子が殺されるかも知れない。マルゼルダの様に」
その言葉にリカルド皇太子は唇を強く噛み締めた。私達は固唾を飲み、その様子を見ているほかなかった。
僅かな沈黙。それが、途轍もなく長く感じる。
リカルド皇太子は、何かを決意した様に一つ頷くと「ダレーシアン、命令だ。ダリアを止めろ」と低く唸る様に告げる。その言葉にダレーシアンは口の端を少し持ち上げ、すぐに真顔になる。
「わかった。すまん、リカルド」
「大丈夫だ。そちらは頼むぞ」
「ああ」
ダレーシアンさんが箒を何処からともなく現すと、それに乗り飛び立とうとしたその瞬間。
私とレオンの脳の奥に、アレックスの叫ぶ様な呼び声が聞こえた---。
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