第101話 王の死と魔女の誕生(ダリアside)


『ワタシタチ、チカラ、カス……カゲノ、セイレイ……ワタシタチノ、オウニ、ナル……』


 辺りは真っ暗闇だ。

 目が慣れるまで何も見えない中、声だけが聞こえた。

 顔を上に上げると、徐々に慣れてきた瞳に夜空の星が見てとれた。

 二つの黄色に光る瞳が、ギョロリとこちらを見た気がしてドキリとする。

 

『お前達の王になったところで、ブレンダは還ってはこない……』

『イイエ……ワタシタチ、シッテル……シシャ、ヨミガエラセル、マホウ……』

『死者を、蘇らせる……だと? そんなものがあるものか!』

『イイエ……』

『ならば、教えてみろ』

『ワタシタチ、オウ、ホシイ……カゲノ、セイレイ、ワタシタチ、ホシイ……』

『お前達の王になれば、ブレンダを蘇らせる方法を教えるというのか?』

『ソウ……ヤミノ、オウニ、ナル……ワタシタチ、オシエル……』


 沈黙が流れる。

 私はただ、デールが何を思い返答するのか耳を澄ませる。


『ワタシタチ、ミライ、ワカル……コンドハ、ムスメ、ネラワレル……』

『なに!?』

『ニンゲン、ムスメ、コロス……』


 あの幼いダリアの命が、狙われている!?


 私は口に手を当て、声を堪えた。


『地底に棲む者よ……。どれだけ無礼な発言をしているか、分かっているのか。それが、王になって欲しい者に言う発言か』

『ワタシタチ、ミライ、ツタエタ……カゲノ、セイレイ、コタエ、ワタシタチ、マツ……』


 来る……。そんな気がしたと同時に、身体が引っ張られる。


 待って! まだ移動しないで! 幼いダリアはどうなるというの!


 


 辿り着いた場所は、見た事もないどす黒い空の色をした風車小屋のある場所。


『人間を、全て殺せ』

『ヤミノオウノ、オオセノ、ママニ……』


 地底に棲む者達は、太陽の光も差し込む事のない分厚い黒い雲の下、縦横無尽に町を駆け回る。人々は恐怖から泣き叫びながら逃げ惑う。


『ブレンダ……。ダリアは必ず助ける……見守っていてくれ』


 デールは首から下げた濃紺の石と、チェーンに通された赤い石を握った。

 デールの言葉から、恐らく幼いダリアは命を狙われたのだろう。だが、まだ生きている。生死を彷徨う状態であるのかも知れない。


 私は何故か震えの止まらない自分の体を両腕で抱きしめ、町へ目を向ける。

 そこら中から火が上がっているのに、町は影に覆われていく。国の兵士達が、地底に棲む者達に立ち向かって行く姿が見える。


 私は口に手を当て、声を殺し、泣いた。


 風車小屋のある場所は、町を見下ろせる場所にあり、その近くにある、さらに小高い丘。その穴から次々と地底に棲む者が現れ、すばしっこい動きで町へ駆け降りて行く。

 殺し、殺され、燃え上がる町。


 私はもう見ていたくないと感じた。だが、今回に限って移動する感覚がない。

 

 すると、私の後ろに複数の人の気配を感じ、振り向く。私の身体をすり抜け通り過ぎ、駆け抜けていく兵士達が。

 

 デールに向かって矢を放ち、剣を向ける。デールは煙の様に姿を変化させて、兵士達の足元を影で引っ張ては次々と倒して行く。自分に向けられた矢を影で弾き飛ばし、兵士達へ的確に飛ばす。


「闇の王よ、終わりにしようじゃないか」

『人間如きに、私が殺せるとでも思っているのか』

「殺せないと、なぜ、思う」


 そういうと、一人立派な服を着た男が剣を抜いた。青光りするその剣は、ただの剣ではないと私は分かった。


 あの男は魔力持ちだ。


 剣に魔力を込め、薙ぎ払う。閃光がデールへ向かうが、デールは素早く身を翻す。だが、それは罠だった。魔力持ちの男は、デールの足元に陣を張ったのだ。高速詠唱すると、陣が青く光った。それにより、デールは身動きが取れなくなり、男の魔力の込められた剣で、頭から真っ直ぐに斬られた。


 私は両目を隠し、その場に蹲り泣いた。なんて酷いことを……。彼らが一体、何をしたと言うの? 彼らを怒らせ、こんな風にさせたのは、人間たちのせいじゃない。なのに、何故こんな事を……。


 デールが粒子になって消えていく。


『ダリア……』


 その声に、私は顔を上げた。私の姿は見えないはず。だが、確かにデールは私を見つめている。その瞳は、どこまでも優しい赤い色をした瞳。

 穏やかなその瞳は、消えゆく最期の瞬間まで、私を見つめていた。


 デールが消えると同時に私の身体は再び引っ張られ、次に目を開けた時には、眩しい光に私は目を細めた。徐々に慣れた瞳に飛び込んで来たのは、幼いダリアが何故か宮廷に招かれている姿だった。

 他にも三人の女性が居る。

 玉座にいる人物をみて、私は驚いた。あの魔力を持った男。デールを殺した男は皇帝であったのだ……。


「この国には、魔力を持った者は珍しい。この度の出来事の様な事が起きたとき、国を守れる者達が必要だ。其方達は、この国で最も魔力が強く、国を守るだけの力がある。其方達に【魔女】というを与える。【魔女】に対し、忌み嫌い殺害しようとする事は大罪とする。其方達には、それぞれの地域を持ってもらう。東西南北。それぞれを守っていって欲しい」


 その証とし、皇帝はそれぞれの魔女に指輪を授けた。北の魔女、西の魔女、南の魔女、そして東の魔女ダリアへ。


 それぞれの魔女が左手中指に指輪を嵌めると、無色透明だった指輪に嵌った石が光り出した。


「其方達四人を魔女と、ここに認める」と皇帝が言うと、それぞれの指輪に色が宿った。

 それぞれの、瞳の色と同じ色に。


「今後、其方達の誰かが亡くなって代替わりをする際は、魔女同士集まり会議をし、全員が揃い認める。そうすれば、魔女の血は途切れる事なく続くであろう」


 皇帝のこの言葉を最後に、私の身体は何度目かもう分からない移動をした。

 目を開いて辺りを見回すと、そこは地底に棲む者に入れと言われた噴水。その淵に私は座っていたのだった。

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