第97話 憶測

※この回は、前半アレックス視点、中間セオデン視点、後半アリス視点と続きます。よろしくお願いします。

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 僕は、なるべく早く向かいたかった事もあり、コレットに箒の制御は僕がするから、森の中を飛ぼうと提案した。最初からそうすれば良かった事ではあるが、初日でかなり疲れて以来は、そうしてこなかった。ただ今は、それよりも何よりも。という気持ちが大きくて。

 コレットは申し訳なさ気に困った顔をし、真っ赤に染まった両頬に手を当てた。


「……ごめんなさい……。では、それで行ってみましょう……」

「うん、なんか……、ごめん」

「いえ、私こそ……。よろしくお願いします……」

「いや。ありがとう。じゃあ、行こうか」


 ラッシュとローシュは、まだかまだかと、飛び跳ねながら左右に走って待っている。


「ラッシュ、ローシュ! 私達をナリシア様のところまで連れて行って!」


 二頭は一声鳴くと、素早い動きで走り出した。

 飛び立つと同時に、僕はコレットを後ろから抱え込む様にし箒の柄を握る。二頭の走りはコレットの飛行速度で追いつけるか、若干不安がある速さだ。さすが、魔女の使い魔になるだけある。いや、使い魔の子供か。それでも、身体能力は通常のオオカミよりも優れている様に感じた。


 飛び始めてから暫くして、森の中が騒がしくなった。鴉がそこら中で鳴き始め、バサバサと翼をばたつかせる音が響く。


 僕はハッとした。


 しまった!


 腕の治療で自分とコレットに纏った術を解除したのだ。それをそのままにしていた。僕らは、今、丸見え状態で森の中を飛んでいるのだ。洞窟から走って離れた事を考えるも、もう既に鴉の伝達でダリアにまで伝わっているかも知れない。

 僕は自分の間抜けさに心底、苛立ちを覚えたが、今更どうにもなるまい。

 だが、これから行く先が分からぬ様になるならばと、僕は自分とコレット、ローシュ、ラッシュに姿隠しの魔術を掛けた。


 それでも、鴉の声が鳴き止む事は無かった---。



♢♢♢




 鴉達の声が響く。

 そちらへ顔を向けると、森の一部から鴉達が羽ばたくのが見て取れる。森の中を進むように、順繰りと羽ばたきが移動する。

 私はニヤリと笑みを浮かべた。


『よくやったぞ、鴉達。そのまま跡をつけろ。いや、誘導しろ。【氷の間】へ。私はダリア様に知らせよう……ふふふ……ははははは!!』


 私はすぐさま方向転換をし、ダリア様の元へ急いで向かった。




♢♢♢



「内通者が、あのズベルフ副団長だと!? それは本当か!?」 


 カーター副団長が驚愕し青ざめ、南の魔女を見る。


「ああ、間違いない。私の使い魔が調べ分かった事だ」


 続き、エバンズ団長が「アイツ……!!」と拳を地面に叩き付ける。誰もいない場所の地面から鋭利な形をした岩が盛り上がる。


「あの男は、確かズベルフ伯爵家の養子だったな」


 お父様が顎に手を当てながら言うと、レイモンドさんが「そうです」と答える。


「ただ、どこの素性の養子かまでは、知られていなかった様に記憶しております」


 レイモンドさんの言葉に繋ぐように、ブライアンさんが答える。


「確か、遠縁の親戚の三男だと聞いた事がありますが、それも怪しいですね……」

「そもそも、伯爵家も金回りに色々噂があったからな。伯爵家ぐるみで、バイルンゼルと組んだ可能性があるよな」


 マーカスさんが腕を組んでそう言えば、ロブさんが深く頷いた。


「アル、この事をすぐに王宮へ伝達して欲しい」


 エバンズ団長の指示に私は一つ頷き「はい」と返事をし、輪から少し離れた場所へ移動した。

 油紙に素早く陣を描くと、白い鳥が現れる。


「気を付けて。必ず国王陛下へ伝えてね」


 私の囁きを聞き、白い鳥は飛び立った。


 南の魔女ダレーシアンは「その伯爵家の養子は、東の魔女が誘導した可能性が高いな」と答えると、エバンズ団長はリカルド皇太子に視線を向けた。


「東の魔女は、何故そこまでしてガブレリア王国を落とそうとしているのか、ご存知ですか」


 エバンズ団長の問いに、リカルド皇太子は「あくまでも憶測だが」と前置きをし、静かに語り出した。


「八百年前、ダリアという名の東の魔女がいた。今回の魔女もダリアという名だ。私は、このダリアが八百年前の人物と同じであると考えている。もし同じであるなら、今回も同じ事を目的としている可能性が高い」

「目的、とは?」

「【闇の王】の復活だ」


 その返答に、私とお父様が声を揃えた。


「【闇の王】だと!?」

「ええ。【闇の王】は、バイルンゼル帝国に居た【影の精霊】の別名です」


 お父様が、静かに「そんな馬鹿な」と独りごちる様に呟くと、リカルド皇太子に言った。


「【闇の王】とは……。八百年前に、ガブレリア王国にも、そう呼ばれた男が居たのだ……」


 お父様の言葉に、リカルド皇太子は目を見張った。

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