第95話 合流


 緊迫した空気の中、突然、レオンが素早く空を見上げ、驚きの声を上げる。


『な、なんで!? 祖父さんがここに!?』

「え!? じいさんって……神獣様が!?」


 私も見上げて、暗い夜空に目を凝らす。

 私達の様子がおかしいと気が付いたエバンズ団長が「どうした! アレックス!」と声を上げる。

 バイルンゼル帝国側も、警戒を強めつつ各々空を見上げる。


『来た……』

「……本当だわ……」


 思わず口調がアリスに戻ってしまう。


 私は光魔法で空を照らした。

 その姿がはっきりと見えると、ざわめきが起きる。

 徐々に下降するレオンよりも倍の大きさがある躰に、私は驚きのあまり口が開きっぱなしになる。


『アリス……祖父さん、旦那様と契約した様だ……』

「ええぇぇぇ!!!???」


 バサリと翼を広げ降り立った神獣様に、誰もが言葉を失い見つめる。

 その神獣様の背中から飛び降りたお父様を見て、カーター副団長が真っ先に声を上げた。


「ヒュ、ヒューバートさん!!??」


 カーター副団長の声に、エバンズ団長はじめ、フィンレイ騎士団全員が驚きの声を上げる。

 そんなみんなの驚きを無視して、お父様は「何がどうなっているんだ!?」と私の前にやって来た。


「バイルンゼル帝国軍が、何故もうここに!? 宣戦布告から、ここへ来るまで早すぎはしないか。戦争を起こすというならば、最低限の約束事は守るもの。まぁ、宣戦布告の前から魔法陣を作るなど、約束事は無視しているからな! それすら出来ない程に、バイルンゼル帝国は余裕が無いと見たが!? だが、我々がこの先へ行かせると思うか?! お前達が今、対しているのはフィンレイ騎士団である!」


 お父様は私が今まで見た事も無い顔をバイルンゼル帝国軍に向けた。そして、烈火の如く怒りを露わにし剣を抜くと、私を背中に回した。バイルンゼル帝国側の兵士達が一斉に構えたが、皇太子がそれを制した。


「お、お父様!! 今、彼らと話をしている最中です! 彼らはバイルンゼル帝国の反乱軍だと! 東の魔女の企みを知っているんです! その話を今、聞こうとして……!」

「お前は戦場を知らなすぎる! 敵の話をに受けるな!」

「もし彼等が攻め入る気であるなら、今、私が無事であるはずないでしょう!」


 その言葉に、お父様は血走った目を私に向けた。


「あの緑の髪の女性兵士はバイルンゼル帝国の魔女です」

「魔女!?」

『南の魔女だ。彼女は味方だと言っている』

「ラファエル殿!? 魔女と話が出来るのですか!」

『魔女の使い魔と、だ。彼女の肩に乗ってる野ネズミだ』

『俺も、今さっき話してた所だよ。祖父さん』


 私達の会話に、フィンレイ騎士団もバイルンゼル帝国軍も、困惑した顔でこちらを見ている。

 こんな風に親子が話しているにも関わらず、彼等が私達に武器を向けない事に、エバンズ団長は彼等の言葉が本当だと感じたのか、私達の前に一歩前に出た。


「リカルド皇太子、でしたな。あなたの言葉はにわかには信じ難い。が、今、この数分間。あなたは、我々に幾らでも刃を向ける事が出来た。だが、身構えるものの、誰一人として我らに向かっては来なかった。あなたの話を聞こう。我々は、東の魔女のこと、そしてハルロイド騎士団に潜入している騎士について知りたい」


 エバンズ団長は、リカルド皇太子の後ろに控えるバイルンゼル帝国軍の兵士達にも聞こえる大きさで言った。

 リカルド皇太子は、一度、南の魔女を一瞥し、すぐにエバンズ団長にその視線を向けた。


「時間がない。手短に説明するが、疑問に思う点があれば都度聞いてくれ」

「わかった」


 その様を黙って見ていたお父様が「エバンズ、話をするなら結界を張ろう」と言って、フィンレイ騎士団全員と、リカルド皇太子、南の魔女の立つ場所まで防音魔法と防御魔法を掛けた。

 リカルド皇太子は不思議そうに空を見上げたが、すぐにエバンズ団長に向き直った。


「まず、東の魔女ダリアについてだ」


 リカルド皇太子は、神獣様とレオン、私とお父様、フィンレイ騎士団全員を見回し、話を始めた---。



♢♢♢



 僕はコレットの手を握り、森の中を走った。

 ある程度まで走っても、まだ危険だ。コレットの息が荒く苦しそうだと分かっているが、それでも足を止めるわけにはいかないと、感じていた。出来るだけ遠くまで行かなくては。そう思っていると、コレットが声を掛けてきた。


「ア、アリス様!!」

「コレット! 悪いがもう少し頑張ってくれ!」

「あ、あの! この近くに、北の魔女の、ナリシア様の、お屋敷が……!」

「北の魔女!?」

「信頼、できる、かた、です!」


 その言葉を聞き、僕は走りを緩めた。


「きっと、助けてくださいます!」


 僕は瞬時に考えを巡らす。コレットのこれまでを見て、もう彼女を信頼していいと感じた。


「わかった。案内してくれ」

「はい!」


 僕らは、ナリシアという北の魔女の屋敷へ急いで向かった。

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