第62話 ランチのお誘いは平等に4
「ま、魔獣、現れないな」
突然、何かを吹き飛ばすかの様に大きな声でエバンズ団長が話し始める。
「そ、そうですね!」
「しかし、今日は暑いなぁ!」
「えぇ! 確かに!」
「神獣様はいつ戻る?」
「今日はエバンズ団長様が一緒だからと伝えたので、少しゆっくりして帰ると……思い、ます……」
そうだったぁ! レオンにゆっくりして良いって言ってたわよ、私!!
「そ、そう、か……。あ〜……食べ終わったら、庭にでも行くか? 天気も良いし」
「そ、そうですねぇ! あ! 今日は皆さん、中庭で昼食をとると言ってましたから、行ったら居るかも知れません!」
「そうか! なら、行ってみるか!」
「そうしましょう!」
私達は、僅かに残った食事をさっさと口に運ぶと、盆を持って部屋を出る。食堂に食器を片付けに行き、その足で中庭へ向かった。それも、若干、早歩きで……。
外は本当に気持ちの良い天気で、お腹いっぱいだし眠くなりそうな陽気だ。
「お、居たぞ。よぉ!」
エバンズ団長は、さっきまでの落ち着きの無さが嘘のように普段通りのエバンズ団長に戻っている。私はそれに引っ張られる様に、平静を装って皆さんの前に向かった。
「あれぇ? お二人で昼食会だったんじゃ無いんですかぁ?」
マーカスさんが茶化すように言うと
「私達はお二人の邪魔をしないようにと、アルの部屋へ行くのを我慢してたのに」
レイモンドさんが含み笑いをしながら言いう。あれ? 日焼けしたらシミになるとか言って無かった? と思っていると。
「結局、仲間外れにされるのが嫌なんだって事だろう? そうやって、なんだかんだ俺達と一緒に居たくなっちゃう所がオリバーなんだよなぁ」
ブライアンさんがニヤニヤしてエバンズ団長を見上げる。
「お前ら! 何を好き勝手言ってるんだよ! 俺はアルにちょっと用があってだなぁ、だったら食事しながらと思っただけで! しかも、もう食べ終えてる!」
ロブさんは静観しながらモクモクとサンドイッチを頬張っている。
「わぁかった、わかったから、落ち着けオリバー。とりあえず座れよ」
笑いながらブライアンさんに言われ、私とエバンズ団長がその場に座ろうとした時……。
「やぁ、皆さん。とても楽しそうですねぇ」
一斉に声の主を振り返る。
「おや、皆さん揃って、ここで昼食でしたか。私抜きで」
カーター副団長が笑みを称えながら言う。しかし、その瞳の奥は……笑っていない。音は無くても全員が生唾を呑み込んだのが分かる。だってロブさんが喉を詰まらせたみたいで咳き込んでるもの……。
「こんな天気も良く、魔獣も現れない束の間の平穏……そりゃあ、皆さんで
あ……二度言った……。
「お前、カーターさんに声掛けて無かったのかよ!?」
ブライアンさんが小声でマーカスさんに言う。
「ブライアンさんが声掛けると思ったんですよ!」
「俺が声掛けたのはレイモンドだけだ」
「お二人とも? 何をコソコソと言い合っているんです?」
二人の間に気配無く割って入るカーター副団長は、二人の肩に手を乗せる。
二人は小さく「ヒィッ!」と息を吸い込んだ。
「いいですねぇ、私もご一緒したかったですねぇ。天気も良く、気分も良く、皆さんと楽しく昼食。きっといつもと同じ食事もいつもより、美味しかった事でしょうねぇ。どうでした? 私抜きの昼食会」
今度は目を逸らしていたレイモンドさんに訊ねるように語りかける。レイモンドさんは口元を引き攣らせながら「いやぁ〜、どうかなぁ……どうだったかなぁ」と口籠る。
静かに立ち上がろうとしたロブさんに、カーター副団長が手を伸ばしかけた時……。
けたたましく鐘の音が響いた。
「魔獣が出たか!」
ブライアンさんが素早く立ち上がる。
「全員、すぐ準備をしろ! 三分後に集合だ!」
エバンズ団長が言うなり、カーター副団長を残し蜘蛛の子が散る様に全員走り出した。
「あぁ、憂さ晴らしにはピッタリですねぇ」
と、笑いながら言ったカーター副団長を見なかった事にしながら。
その後の討伐がどうだったかは、ご想像にお任せするとして……。
今後、昼食会をする時は、全員に声を掛けましょうね、というか、カーター副団長に一番に声を掛けましょうね、という暗黙の了か……お約束がなされました、とさ。
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