第7章 アレックスの逃亡
第63話 魔女の栄養剤(アレックスside)
時は少し戻って、私が砦に来てから一ヶ月が経ったころ。アレックスは一人、魔女の屋敷で抜け出す準備をしていたという。
♢♢♢
時が経つのは、あっという間だ。
僕が囚われてから、一ヶ月が過ぎてしまった。
僕は、相変わらず部屋から出してはもらえずにいた。
歴史書は隅々まで何度も読み直し、暗記が出来てしまったほどだ。暇を持て余し、館内の散策を願い出たが、それは叶わなかった。せめて窓を開けて、外の空気が吸いたいと言えば、朝食時だけまたに開けてくれる様になった。
ただし、セオデン付きの食事となってしまい、怪しげな栄養剤とやらを、飲まなくてはいけなくなった。
今日はセオデンに用があるとやらで、一人の食事だった。
「やっぱり……」
セオデンから毎朝飲む様に言われている薬瓶を手に呟き、ベッド脇にあるサイドテーブルの引き出しを開ける。三十本以上ある同じ薬瓶を隙間へ押し込んだ。
何故、敵だと分かっている相手の作った薬を素直に飲むと思っているのか謎ではあったが、毎日の様にセオデンは持って来ては飲む様に勧めた。セオデンも飲む事があり、毒では無い事は分かっている。
が、全く飲まないのも疑われる。かと言って、全部飲む訳にはいかない。考えた末に、下手に疑われることが無い様、何日かに一度だけ飲んだ。その後は、セオデンに幻視魔法を掛けて毎朝、空の薬瓶が盆に乗っている様に見せかけていた。恐らく、セオデンが食器を洗うわけでは無いだろうと踏んでの事だ。もし、彼が後片付けまでするなら、直ぐに気が付いただろうが、これまで一度となく気が付いていないことに、毎日安堵を繰り返していた。
ふと、どんな薬なのか調べてみようと思って瓶を手に魔力を込めるが、何重にも施された魔法が邪魔して、何なのか見る事が出来ないでいた。だけど、アリスの回復薬が入っていた瓶に入れ替えてやってみようと思い立って試したら、これが上手く行ったのだ。
幾つかの薬草に心当たりがあり、それを書き留める。何種類か分からない物もあったが、これは何かの能力を引き出す為の物だ、という事だけは分かった。
僕は戦慄した。
疑われ無い様にとは言え、数度飲んだ自分の愚かさも含め、震えた。
もし、これを飲み続けた時、僕は僕では無くなっていたかも知れない。僕自身の望まない形で、僕が知らない何かを引き出され、意志を持たない生き物に変えられてしまうのかも知れないと思うと、どうにか此処から今すぐ逃げ出さなくては行けないと強く思った。
いつでも逃げられる様に準備はしている。
あとは、その機会が訪れるのを待つだけだった。
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