第60話 ランチのお誘いは平等に2
三人の元へ私は急いで駆け寄った。
「すみません、遅くなりました」
「いや、そんなに待ってないから大丈夫だ」とマーカスさんが明るく言う。
どのルートを巡視するか一通り話がつくと、「そうだ」とブライアンさんが言った。
「アル、今日は巡視が終わったら、みんなで中庭で昼食を食べないか? 今さっきアルが来る前に話していたんだ」
「あ〜……ごめんなさい、今日は先約がありまして……」
「「先約?」」
マーカスさんとブライアンさんが声を合わせる。
「はい、今日は団長と昼食の約束をしているんです」
「じゃあ、団長も誘ってみんなで食べようよ」
「あぁ、そうだな。オリバーには、後で俺が伝えておくよ」
マーカスさんとブライアンさんが話を進めてしまうので、私は慌てて制した。
「あの、ごめんなさい。団長からは二人でと言われているので……。皆さんとは、また後日で……」
と言えばブライアンさんが驚きの声を上げた。
「え!? 二人でって言われてるの? また何で?」
「ん〜……何で、ですかね……?」
「え、待って。アルと二人でご飯食べたい時は予約制なの?」
「へ?」
何故そうなる? とマーカスさんを見遣ると、すかさずブライアンさんが同意するかの様に頷く。
「オリバーのヤツ、先に予約しておけばアルが俺達を断るって分かっててやってるな。そもそも、最近アルに対して過保護過ぎないか? 事ある事にアルの近くに居たり、昼食まで独り占めして」
「そうそう! アルの部屋でご飯食べるのだって、最初は俺とロブ以外駄目だ! とか訳の分からない事、言ってたよねって……ねぇ、ブライアンさん。もしかして団長って、そっちの気があったりします?」
そっちの気って……。と、私が心の中で苦笑いしていると、先程から黙っていたロブさんが微かに肩を震わせ、口元に拳を当てている……。
ロブさん! そこ、笑い堪えないで良いですから! 否定してあげて!
「いや、オリバーは男色では無いだろ。アリス嬢一筋だからなぁ」
「まぁ、そうですよねぇ」
まさかのブライアンさんの言葉に心臓が早鐘を打つ。
えぇ!? 一筋って!? ……って言うか、マーカスさん、何ですか!? その呆れた様な同意の言葉は!
「ブライアンさん、アリス嬢が初めて騎士団来た時のこと、覚えてます? 俺、人生で初めて人が恋に落ちる瞬間見ちゃって、めちゃくちゃ覚えてるんですよ!」
恋に落ちる瞬間って何ですか! それ!?
聞きたいけど、怖い!
私は「んんんッ」とわざと喉を鳴らす。
「あぁ、アル、ごめん。あん時、お前も見てて、嫌そうな顔してたよなぁ。お前のあんな表情も初めて見たらか、めちゃくちゃ覚えてるよ」
マーカスさんは笑いながら言って、私の肩に腕を回した。
「案外、お前の姿にアリス嬢を重ねて見ているかも知れないぜ? 襲われない様に気を付けろよ?」
ハッ! としてマーカスさんを見遣る。
大丈夫、多分、揶揄っているだけだ。カマ掛けでは無いだろう。
「そんな事、あり得ないですからっ!」と、マーカスさんの腕を取り払う。
「さぁ、巡視に行きますよっ!」
私は色んな意味でドギマギしながら、先に歩き出すと、マーカスさんが「悪い、悪い」と笑いながら言う声が背中に当たった。
****
今日はロブさんとレオンと近隣の町に近い場所を巡視するとこになった。
隣を歩くロブさんは、私の歩調に速度を合わせてくれる。
『アリス、俺、空から巡視してても良い?』
レオンが少し期待しながら訊いてくる。
天気が良いから、飛びたいんだろうなと思いつつ、ロブさんに訊ねてみる。
「ロブさん、レオが上空から見ていても良いかと言っています。良いですか?」
「あぁ、構わない」
『ありがとう、ワトソン』
レオンは小さく鳴いてから、颯爽と飛び立った。レオンを見上げながら、先程のやり取りを思い出す。
「まったく……。皆さん、本当にアルの事、気に入って下さっているんですね……」
「……まぁ、俺達は歳が離れているし、マーカスは歳が近いのもあって、弟分の様な気持ちなんだろうな。それにアレックスは本当に良い奴だから、アレックスの人柄に惹かれて自然と集まるんだろう」
ロブさんは静かに、でも少し楽しげに言う。
「あの……」
「……なんだ?」
「エバンズ団長様は、その、そんな前から私を……」
「……あ〜……まぁ。あぁ、そうだな。そういう事に疎い俺でも分かった位だからな」と笑う。
ロブさんの貴重な笑顔が、こんな話題なのはちょっと複雑な気持ちだけど。
「エバンズは本気でアリス嬢一筋だと俺も思う。……あいつも良い奴だぞ」
「……えぇ。知って、ます……」
団員の皆さんと一緒に生活を送って、随分と知ってきた。
特に、エバンズ団長のこと……。それでも、今はアルの事が最優先事項。自分の気持ちを確かめたり、認めたりする訳にはいかない。そんな浮ついた心はあってはいけない。ここは戦場なのだから……。
それから私達は黙ってしまい、無言のまま巡視を終え砦へ戻った。
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