閑話 ある、よく晴れた午後のこと
第59話 ランチのお誘いは平等に1
いつ現れるか分からない魔獣に警戒しつつ、朝に討伐が無い限り、前日どんなに遅い時間に砦へ戻っても、朝の鍛練は怠らない。
昨夜、魔獣は現れず朝も大丈夫だった。と、なると今日の昼頃に現れるかも知れないと、私は思っていた。
少し早めに昼食を食べておいた方が良いかなぁ……。
今日はロブさんとレイモンドさんと三人で鍛練をし、二人と共に朝食を取りに食堂へ向かいながら、そんな事を考える。我ながら食いしん坊な思考だと思っていると、後ろから声をかてきた人物が。
振り向くとエバンズ団長が小走りで近寄って来た。
「おはようございます、団長」
不特定多数がいる場では、アリスとしてでは無くアレックスとして接する。それは、エバンズ団長も同じなので安心する。
エバンズ団長は、ロブさんとレイモンドさんに「アレックスにちょっと用があるから」と言って私を連れて裏庭へ向かった。
「アル、今日、昼間は何か予定があるか?」
「昼ですか?……いえ、特には」
私は少し考えて答えるとエバンズ団長は小さく笑みを見せ、少し屈むと私にしか聞こえない様な声量で話し始めた。
「なら、二人で昼食を食べないか? 今日は天気も良いし、たまには神獣様も外で過ごしたいだろう……どうかな?」
わざわざ小声で話す事かなぁと思いつつ、一つ頷く。
「執務は大丈夫なのですか?」
「あぁ、それは早朝からはじめていたから、昼食頃にはほぼ終わりだ」
「そうですか。なら、良いですよ。昼食、ご一緒します」
「因み先に言っておくが、みんなと、じゃないぞ? 二人で、だからな?」
「はい。団長、先程、二人でと仰っていたじゃ無いですか。分かってますよ?」
パァッとわかりやすく子供の様な無邪気な笑顔を見せる。普段、精悍な顔付きの人物がこんなにも煌びやかな笑顔を見せるという、あまりの差にドキリと心臓が跳ねる。
それがバレない様に「魔獣が現れなければ良いですね」と思わず付け加えると、明るい笑顔が一転、分かりやすく落ち込む。
「あぁ……それが一番の問題だ……」
部屋へ戻るとレオンがダラリとベッドの上で寝そべっていた。
「ただいま。果物貰ってきたよ。今日は桃と林檎だった」
ローテーブルの上に盆を置くと、レオンはこちらを見る事なく「クォ」と小さく呻く。
『……ありがとう』
「どうしたの? 元気ないね?」
顔だけが持ち上がり、私を半目で見つめる。
「な……なに?」
『……この退屈さ、窮屈さ。アリスには分かるまい……』
「え……? どういう事?」
再びパタリと頭をベッドに戻し、遠い目で窓の外を見つめる。
『朝からこんなにも晴れやかな天気なのに。俺はエバンズに砦から出るなと言われ、大人しく従ってて。……そろそろ限界なんだよぉ』
そういう事か。こればかりは私の責任でもあるので、ただひたすら申し訳ない気持ちで一杯だ。
だからこそ今日の昼の予定は喜ぶだろうと思って、レオンに伝える。
「レオン、今日のお昼は外出してきて良いよ。エバンズ団長様が、今日は天気も良いし、たまにはレオンも外で過ごしたいだろうからって許可してくれたよ」
そう言うと、ガバリと勢いよく起き上がり、優しい茶色の瞳がキラキラと輝きだす。
『本当か!?……でも、昼食時間が終わったら帰って来なきゃダメだろ……?』
「ううん。今日はエバンズ団長様が一緒に居てくれる事になっているから大丈夫だよ。ただ、魔獣が出なければ、だけどね」
『それなぁ! 一番の問題だよ!』
ん?さっきも何処かで同じ台詞を聞いた様な……。
『でも、討伐以外での外出は嬉しいな……。エバンズも良いとこあるな!』
先程とは違って嬉しそうで元気な声色に変わり、私も嬉しくなる。
私の不注意により、エバンズ団長に「アリスである」とバレてしまい、それからと言うもの、レオンは私の護衛兼お目付役として自由行動が制限されてしまった。
こんな大きな身体で部屋にいるだけとか、私と行動するだけ、なんて確かに窮屈な思いをしているだろう。だから討伐の際はあんなに派手に動いていたのか……欲求不満の解消の仕方が凄いな、なんてこっそり思う。でも、それもこれも私のせいなので、口が裂けても言えない。
「さぁ、朝ごはん。食べよう?」
『うん!』
ローテーブルの前に姿勢正しく綺麗なお座りをして私の魔力を込めた果物を美味しそうに食べるレオンは、まるで手を使って食べているかの様に切り分けられた果物を器用に一つずつ口に含み丁寧に食べる。
いつみても綺麗な食べ方をするものかだから、神獣姿でも人間の姿に錯覚しそうになる。一つ一つ食べる姿に、私の食べる速度に合わせているのかな、と思った事があり訊ねてみると『俺とその辺の一般獣を同等にするな』と怒られた。
確かに、この身体の大きさで食べる量は成人男性の少し大盛り程度しか食べないし、肉食でも無い。森に住む獣達とは全く違う。獣界でいえば、レオンは少食かつお上品な、これぞ本物の草食系男子なのだ。肉を食べないで力が出るのかなとも思うけど、普通に過ごしているし、やはり神獣様は姿が獣の様な見た目なだけで、それとは違うのだ。
朝食を食べ終え、軽く汗を流し着替えを済ませると、すぐに巡視の時間だ。
レオンと共に正門前へ向かうと、ロブさんとマーカスさん、ブライアンさんが既に来ていた。
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