第53話 混乱(オリバーside)


 俺は自室まで早足で戻ると乱暴にドアを閉め、そのままドアに背中を押しつけ、ずるずるとしゃがみ込む。


「嘘だろぉ……」


 両手で頭を抱え込み、ついさっき見た光景を思い出す。


 思い出す……。


 思い出す……。


 顔が熱くなる。心臓が痛いっ。俺、心臓の病気になってしまったのかもっ!


 …………。


 思っていたより引き締まってて綺麗な体型だったなぁ……あ、胸も俺好みの大きさだった……ドロワーズを履いてはいたが、お尻もこう、きゅってなって……。



 ……って! おいっ!!


 何を考えているだっ! 俺っ!

 あってはいけない事が、今起きているんだぞ! 邪な事を考えるんじゃないっ!

 

 異常なまでに早い鼓動を打つ心臓に拳を当て、深呼吸をする。落ち着けぇ、落ち着けぇ。

 

 どのくらいそうしていたか。ようやく落ち着いた俺は、ゆっくりと立ち上がり、備え付けの長椅子に倒れ込む様に座る。


 なんだ、これ。魔獣討伐より疲れているぞ。

 回復薬でも飲んでみるか? などと思い、アレックスから貰ったアリス嬢特製回復薬を取ろうと立ち上がった。が、すぐに膝から崩れて落ち、床に両手をつく。


 今ある回復薬と傷薬の缶は、アレックスが神獣様と共に戻って来た時に「アリスからだ」と受け取った物だ。回復薬は一人三本ずつ、傷薬は一缶ずつ配られ、残りはハルロイド騎士団に渡された。

 からだとは言っていたが、あのアレックスはだったのかと、今更ながら気が付いた。


 何故、こんな危険な事を……。いや、理由は訊かなくても分かる。分かるが……。


 今思えば、ここへ来て直ぐ、俺が紅茶を淹れようとした時から変だったじゃないか。フィンレイ騎士団の仲間なら、俺が紅茶を淹れる事くらい知っている事だ。

 なんであの時、記憶の混濁が原因だと解釈したんだ。

 討伐だって……。今までのアレックスとは違う術が多くあったのに。ヒントはそこら中にあった。


 俺はなんて馬鹿なんだ……。


 とりあえず本人から話を聞く事にしようと、疲れ切った身体に鞭を打ち立ち上がり、部屋を出た。

 部屋を出て直ぐ、近隣の町を巡視して帰って来たブライアンに会った。俺は自力でアレックスの部屋へ行ける気がしなかったので、ブライアンに頼み呼んできてもらう事にした。


 ちゃんと話せるだろうか……。いや、団長として話さなくてはいけない。これは仕事だ。


 他にも知る奴は居るのか? いや、いないはずだ。いれば大騒ぎになっているだろうし、いくらアリス嬢とはいえ、大の男に襲われでもしたら、あんな普通に居られるはずはない。


 そう考えると、やはり恐ろしくなってきた。と、同時に、なんて馬鹿な事を! と、怒りにも似た感情が湧き上がってきた。


 その怒りのお陰で、俺は気持ちの切り替えに成功し、数分後に訪ねて来る相手に、どう切り出すか考えるのであった。




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