第6章 最強の騎士団 vs 魔女
第52話 お叱り
『やったな……。ついに、やりやがったな』
半目で私を見つめる神獣様から目を逸らす。
「不可抗力……でした……」
『んなワケあるかっ! ロブ・ワトソンはともかく! オリバー・エバンズのは防げた! 俺が居なかったからって油断して横着したのは、お前だろが!』
「すみません! その通りですっ!」
エバンズ団長に私がアレックスではなくアリスだという事がバレてしまった……。
嫁入り前なのに……着替え姿という恥ずべき姿を……。きっと全部は見られていない筈! すぐ服で隠したし! ドロワーズ履いていたし! 全裸じゃ無かっただけ良かった! そう思う事にしよう!!
エバンズ団長が出て行ってから、私はすぐに騎士服を着直しアレックスに戻ると、レオンを呼び戻して……の今現在だ。
『バレたものはしょうがない。まぁ、アリスにしてはもった方だ』
「返す言葉もございません……」
『で、エバンズから何か言われたか?』
「部屋を出て行かれてから、何の呼び出しもないです」
暫しの沈黙の後、レオンがゆっくり立ち上がり真剣な表情で私を見つめる。
『……アリス、もう潮時だ。帰り支度をしよう』
「ッ! ダメよ! まだアルの無事が分かってない! 東の魔女が拐ったと分かっただけで、何の情報も掴めて無いのよ? レオンはそれでも良いの!?」
顔を下げ、床を見つめる瞳が寂しさを含み揺れる。大きな身体が小さく見える。
「レオン……。ごめんね? レオンが一番悔しいよね……。私のせいで、本当にごめんなさい……」
何も言わずに、ゆっくり体の向きを変えドアに向かってレオンが歩き出すと、ノックと同時にドアが開いた。
あぁそうか、ここではこれが当たり前なんだ。
男世帯だし、上司以外には礼儀作法は省かれるのかも。ふと、マーカスさんが来た時を思い出したが、あの時は両手が塞がっていたものね、と思い、ノックと同時にドアが開くのが砦では当たり前なのだと、一カ月も居たのに今更そう思った。
ぼんやりと、そんな事を考えていると、ドアを開けた主が目の前に突然現れたレオンに驚いて、ドアの向こうで尻もちをついた。
「いってぇ……。びっくりしたぁ。なんだ神獣様は今からお出掛けか? まだ飯食い足りなかったのか?」
楽しげに訊くその声に、レオンは「ガルッ」と不機嫌そうな声で答えて部屋を出て行った。
「うぉ! 何だ何だ? えらい不機嫌だなぁ」
「ブライアンさん?」
声の主に呼び掛けると、ブライアンさんがドアからひょっこり顔を出して笑顔を見せた。
「あぁ、アル、すまん。オリバーがお前を呼んでる。お前何したんだぁ? オリバーが怖い顔してたぞ? ……って……なんだ? 落ち込んだ顔して。神獣様と喧嘩でもしたのか?」
神妙な顔をした私を見て、ブライアンさんが笑いながら言ったが、私が笑わないので「あれ? 本当に喧嘩したの?」と焦りながら謝ってきた。
「ブライアンさんは何も悪く無いです。知らせてくれて、ありがとうございます」
苦笑いで答え、私はエバンズ団長の執務室へ向かう事にした。するとブライアンさんが「あ。アル、そっちじゃない。執務室じゃなくて、オリバーの部屋な」と明るい笑顔で言った。
ブライアンさんはエバンズ団長の幼馴染と聞いている。とても親しみやすく、ちょっとお調子者だけど悪い人ではない。そして何より、なかなかの策士だ。今までカーター副団長が策士だと思っていたけど、彼もなかなかどうして大胆且つ計算された戦略を打ち出す。剣術にも長けていて、アレックスが良く手合わせしてもらっていると言っていたっけ。
足が重い。歩いている筈なのに、進んでいる気がしない。
「アル?」
振り向くとブライアンさんが心配そうに近寄り、私の顔を覗き込んできた。
「本当、大丈夫か? なんか、顔色も悪くないか? 本当、何かあったのか?」
申し訳ない気持ちになる。首を左右に振り「大丈夫です」と無理矢理笑顔を作る。
「あんまり無理するなよ? 後でアリス嬢が作った回復薬飲んでおけよ?」
「……はい」
力無く微笑んだ顔を心配そうに見つめながらも、私の背中を軽くパンパンと叩いて「オリバーに思う存分、怒られてこい」と冗談めかして言い送り出してくれた。
本当に怒られるんです、私。と、心の中で呟く。
この後に下されるであろう、宣告を思うと胃がツキリと痛んだ。
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