第51話 人間観察(ラファエルside)
儂は、不思議とその言葉を信じられたのだ。
小僧は恐らく、無意識のうちに人間との別れを覚悟して生きている。だからこそ今を精一杯に生き、心の支えとなるであろ、たくさん思い出とやらを積み重ねているのだろう。
人間と関わる事で小僧が精神的に成長している様に感じ、儂は感慨深いものが込み上げてきた。
儂は人間と関わる事を、避けて生きて来た。
だが儂もあと、どのくらい生きるか分からぬ。ならば、小僧の様に楽しい思い出とやらを積み重ねてみるのも、悪くは無いかも知れぬと……そう思ったのだ。
シルフィードの話を聞き、儂は『ならば、その者と主従契約を結ぼう。そうすれば、お主の代わりに儂が自由に動き、助ける事が出来るだろう』と、シルフィードに伝えた。
シルフィードは一瞬、目を大きく見開き驚いた様子だったが、すぐに安心した様に一つ頷くと、青紫の瞳を持つ男に話をした。
男はヒューバートと名乗って、儂にラファエルと名付けた。
理由は、儂の白く輝く翼が、その名前だと告げたからだと言っていたが……。うむ。異国の神から取ったのでは無いのか……。いまいち、よく分からぬ理由であったが、まぁいい。儂の心の中でだけでも、神の名であると思っておこう。その方が、ほれ。気持ち的に、なぁ。
ヒューバートは、儂に邸へ一緒に来て欲しいと言った。主従契約を結んだのだ、当然一緒に行くと伝えると、まるで生まれたての赤子の様にキャッキャと喜んでいた。
人間とは、なんとも不思議な生き物だ。
そして儂はヒューバートを背中に乗せ、ランドルフ家の邸へと飛んだ。
ほんの数回、羽ばたいただけで到着したのだが、たったそれだけでもヒューバートは喜んだ。
人間とは、なんと純粋な生き物だろうか。
邸の正面に当たる広い芝生の上に降り立つと、ヒューバートは儂の背中からジャンプして降り、邸の玄関前に立つ人間に手を振って声を掛けた。
「エド! 来ていたのか!」
「ち、父上!?」
エドと呼ばれた男は、青緑の瞳がこぼれ落ちるのではというくらいに両の目を見開き、口をあんぐりと開け、僅かにパクパクと動かしている。ヒューバートも先程、やっていたな。
人間は、どうやら空気を食べるのが好きな様だと、儂は新たなる真実を知った。
こうして人間と主従契約を結ばなければ、一生知り得なかった事実だ。これはこれで、なかなかに楽しくなりそうだと、儂は感じた。
何百年も生きてきたが、人間との暮らしは赤子同然。
だが、儂には重要な使命がある。
ヒューバートの子供達、そして儂の孫である小僧を、必ず見つけ助けだす。
「ち、父上……、もしや、彼はレオンの……」
「ああ、そうだ! 私は彼と主従契約を結んだ! 名前はラファエル殿だ」
「えっ!? ええぇぇぇぇええ!!!???」
頬を赤らめホクホクした顔でいうヒューバートに対し、血の気のない顔をして驚くエドと呼ばれた男。
人間とは、顔色を変幻自在に操る、なんとも不可思議な生き物だ。
使命も大事だが、これは人間観察もまた、今後重要な事かも知れんな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます