第48話 魔術師団からの情報


 エドワードお兄様が出立してから、更に二週間が経った。

 私が北の砦に来てから、気が付けば丸一ヶ月が経ったのだ。相変わらず、アレックスの行方が分からない。あっという間に時間だけが過ぎ、不安から眠れない日々が増え始めた。

 そんな、ある午後のこと。


 魔術師団から魔女について、有力な情報が入ったと連絡が来た。

 各騎士団長達の緊急会議を終え、私達はエバンズ団長の執務室に召集された。


「最近、狂化した魔獣が多い理由について、魔術師団から調査結果が出された。まず、魔獣の体内から人工的に作られた魔石が見つかっている。そこまでは解明されてはいたが、今回新たな情報として、その魔石に細工された残滓が確認された。黒魔術の類で、かなり巧妙に仕掛けられていたため発見が遅くなった。そして黒魔術はバイルンゼル帝国の魔女のみが使用している」


 やはり強引に狂化された魔獣達だったのだ。そうでは無いかとは思っていたけど、バイルンゼル帝国が仕掛けた証拠が無かっただけに、どちらもと言えなかった。


「黒魔術は我が国には無い魔術だ。それで余計に発見が遅れたのもあった。古文魔術書に僅かに記載されていたことで、それが分かったそうだ。そして魔女についても、一つ分かった事がある。バイルンゼル帝国の魔女は四人いるが、その中でも黒魔術を得意としているのは、であるという情報が入った。これは、信頼出来る筋からの情報だから間違いないだろう」


 エバンズ団長が視線を私に向けた。きっと、お父様とエドワードお兄様が見つけた情報なのだと分かった。という事は、アレックスは東の魔女に拐われたという事か。それが分かっただけでも、アレックスに一歩近づいた気がして心臓が高鳴る。


「我が国で黒魔術と似通った術は闇の魔術となる。フィンレイ騎士団内に於いてはロブが闇属性に長けている。今後、魔女と対面した際は、ロブを軸に行動する事とする。それから、アル。巡視また討伐に向かう際はロブと組んで行動をする様に。恐らく、東の魔女は再びお前を狙って来るだろからな」

「はいっ」


 気合を入れて返事をすると、エバンズ団長は真剣な面持ちで一つ頷き、ロブさんに顔を向けた。


「ロブも宜しく頼む」

「ああ」


 ロブさんは小さく返事をしコクリと頷く。皆さんと一緒に行動する様になって、皆さんを沢山知れるようになった。ロブさんはとても寡黙な方だけど周りをよく見ていて、さりげなく手助けをする。とても紳士な方だ。身長がエバンズ団長と同じ位高くて団員一筋骨隆々。私が後ろに立つとすっぽり隠れてしまう。


 打ち合わせが終わり、早速ロブさんと巡視をする事になった。準備を整え正門へ向かうとロブさんは既に来ていた。


「すみません、遅くなりました」

「いや、大丈夫だ。神獣様は?」

「レオは今、昼の食事に出掛けています」

「そうか」

「呼べば直ぐ来れる場所に居ると思います」


 私の言葉にロブさんが頷くと「では行こうか」と歩き出す。


「はい、よろしくお願いします!」


 ロブさんは脚が長いので、私は少し小走りで後を追う。暫く歩いていると、私が小走りなのに気が付き、速度を緩めてくれた。


 森の入り口付近に来ると、騎士も兵士も見当たらなくなり、私達は気を引き締めて巡視に当たる。


 無言のまま歩いていると、ロブさんが立ち止まってポケットを探りだした。


 無言で差し出された物を見ると、可愛らしい包みのキャンディーで、私はキャンディーとロブさんを数回見比べ、小首を傾げる。


「食べろ。糖分は頭の疲れを癒してくれる……。アレックスは、この味が好きだったぞ」


 ギクリとし、伸ばしかけた手が止まる。


「……大丈夫だ。誰にも言わん」


 ゆっくり視線だけをロブさんに向けると、無表情で私を見下ろしている……。


 私は、いま、一体どんな顔をしているのだろう。


 そんなどうでも良いことが、頭の中に浮かんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る