第42話 フィンレイ騎士団の実力
「はい……。侯爵家で、兄達が調べた事を聞きました。今から八百年前、ランドルフ侯爵家に魔眼を持った人物が居ました。それが、ルイス・ランドルフ。初代フィンレイ騎士団の団長です。彼の瞳は魔眼だったそうで、その瞳を指して【菫青石の宝珠】と呼ばれていたそうです。ですが、彼以降、我が侯爵家に魔眼を持った者はいません。僕の瞳も魔眼では無い……。ただ……」
「ただ?」エバンズ団長が促す。
「……ただ、魔眼について教えてくださった親友のお祖父様が言うには、まだ開眼していないだけでは無いかと……。どうしたら開眼するかは分かりませんが……何かしらの切っ掛けがあれば、と言っていました」
「魔眼……か……」
カーター副団長が顎に手を当て唸る。
「確かに、それなら腑に落ちる点がある。魔女はアルの瞳をやたらと気にしている風でもあった。なるほど、魔眼か。魔眼になると、どう変化するんだ?」
「なった事がないので、わかりませんが……魔眼であれば瞳の色が変わると聞きます。僕自身もアリスも、瞳の色が変わった所を見た事は無いんです」
「魔眼については本当に稀な物だからね。噂には聞いても、私も実際には見た事が無い。しかし魔女は何故、八百年前の人物とアレックスを同一として見たのだろう? 魔女も開眼していないだけだと思っているという事だろうか……」
「それは、僕にも分かりません……」
突然、外からけたたましい鐘の音が響いた。
『フェリズ山脈方角に魔獣が出現! 二十頭の群れと連絡あり! 繰り返す! フェリズ山脈方角に魔獣が出現! 二十頭の群れと連絡あり! 全員配置につけ!』
拡声魔法を使った連絡が響き渡る。
エバンズ団長とカーター副団長がすかさず立ち上がり、私もそれに倣い立ち上がる。
「話はまた後にしよう。アレックス、神獣様を連れてカーターと一緒にフェリズ山脈に向かえるか?」
「はい!」
「よし! 頼むぞ! カーター、俺は残りの奴等と裏から回る。アレックスと共に正面から向かってくれ」
「承知した」
私はレオンに念話で直ぐに戻る様に伝えると、外から即レオンの雄叫びが響いた。
急いで外へ出て空を見上げると、黄金色のライオンがこちらに向かって急下降して来る。レオンが地面スレスレに降りた所を飛び乗ると、レオンは上昇した。私はカーター副団長に向かって大声で声を掛ける。
「カーター副団長! 僕はレオに乗って先に向かいます!」
「ッ! ダメだ! 一人で行くな! 魔女が居ないとも限らん!!」
「神獣が一緒です! 大丈夫です!」
「わかった! 私も軍馬で直ぐに追いつくから無茶はするな!」
「はい! 分かりました!」
『アリス、しっかり掴まれ』
「うん。レオン、お願いね」
『任せろ』
真っ白な翼がグンと力強く羽ばたいた。風避け魔法を纏い身体強化魔法を掛けると、レオンの飛ぶ速度が上がり、フェリズ山脈へと向かった。
フェリズ山脈に続く森の入り口付近に、熊の様な姿をした魔獣が群れを成して出て来るのが見て取れた。
私は剣を抜き魔力を込め一払いし結界を張る。勢いよく走ってきた魔獣達は、見えない壁に次々とぶつかり倒れるが、直ぐに立ち上がり結界に体当たりして来る。
次の魔術を放とうとした時、ぶわりと冷気が辺り一面に漂った。
『カーターだ』
レオンの言葉に下を見ると、カーター副団長が次々と陣を繰り出し、攻撃を仕掛ける。魔獣達はカーター副団長に向かって来ようとした。私はすかさずカーター副団長の前に結界を張る。すると、魔獣達の背後に一つ、一際大きく目を引く陣がある事に気がつき、レオンに頼み少し下降する。エバンズ団長達がいるのが見え、ロブさんが術を繰り出している事から、魔法陣を描いたのがロブさんであると分かった。
『あれは、闇の魔術だ……』
「そうなの? でも、闇の魔術って、もっと毒々しいとか黒々している感じだけど、あの陣は、深い青の光でとても綺麗だわ……」
魔獣達はカーター副団長の攻撃に押される様に後退りをし、魔法陣の中に入っていく。私はカーター副団長の攻撃から逃れ避けようとする魔獣に、私の考えた光の魔術を発動させた。魔獣の足元に光がパンパンと音を立てて爆ける。魔獣は後退りし魔法陣へ入って行く。
『発動する。離れるぞ』
レオンが大きく翼を広げて上昇する。
闇の魔術といわれた陣が光を増す。蒼い光が辺りを染める。
荒れ狂っていた魔獣達が、急に大人しくなりウロウロと何かを手で追う様な仕草をしながら歩き出す。一体どんな魔術なのだろうかと見ていると魔獣が一箇所に固まった。その隙を見計らって背後から一斉に攻撃魔法が繰り出された。
風で火が魔獣を囲い込む様に広がり、地面が崩れ魔獣達が我に返り動き回る。一閃の光が見えたと思うと雷鳴が響き渡り、魔獣がバタバタと倒れだし、再び冷気が漂い魔獣達が凍り固まった。
「すごい……」
狂化した魔獣が二十頭もいたというのに、ほんの数分だ。たった七人で片を付けてしまった。北の砦へ来た時にも少し見たが、実際に始まりから終わりまで見ると、その凄さが在り在りと分かる。
フィンレイ騎士団の連携は、こんなにも凄い物だったのかと、私は興奮から身震いをした。
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