第38話 魔女候補の少女(アレックスside)

 この屋敷に軟禁されてから六日が経ったある日。未だ東の魔女との面通りは果たせていない。僕の中で徐々に焦りと苛立ちが募り始めていた。早く皆の元に戻らなくては。


 今後の行動をつらつらと考えていると、外から男女の言い合いらしき声が聞こえてきた。僕は窓辺へ近寄り様子を伺うと、セオデンと赤髪の少女の声だと分かった。

 僕は一か八か、自分に遠くの声が聴こえる遠聴魔術をかけてみると上手くいった様ではっきりと会話が聞こえ始めた。


***


「私が正式な魔女候補になって以来、ダリア様はちっとも魔女会議に出席して下さっておりません! 今回こそは必ず出席して頂かないと、私がいつまで経っても正式な魔女になれないんです! このまま西が不在では、この国のことわりが崩れてしまいます!」


 相当な剣幕でセオデンに言い募る赤髪の少女に、セオデンも苦笑いをしながら落ち着かせようと少女の両肩に手を置き「まぁまぁ」と宥めている。

 少女はその両手を払い「まぁまぁ、じゃないですよ! セオデン様!!」と大声を出した。


「良いですか!? 本来なら、私のお祖母様の西の魔女が亡くなった時、すぐに私が継承する筈だったんです! それをダリア様は私がまだ幼いからと異論を唱えられ、十八の年になったらとおっしゃいました! 私はもう十八歳です! それなのに、その途端、会議に欠席ばかり! ダリア様はそんなに私がお嫌いなのでしょうか!?」

「コレット様、そんな事はございません。ダリア様は以前、コレット様を妹のように可愛い子だと、仰っておいででしたよ?」

「なら! 何故、魔女会議に出席なさってくださらないの? どうして私を認めてくださらないの?」


 その問答をしている最中、誰かがセオデンを呼びに来て彼は去っていった。僕はそのまま少女を観察していたら、その顔が不意にこちらを見上げた。


 赤い髪と対照的な色をした青い大きな瞳が、こちらをしっかりと見詰めている。瑠璃の様に深い青に日の光の影響か金色の輝きが見てとれる。ほんのりピンク色に染まった頬は愛らしく、艶やかな小さな唇が驚きの形に開いた。

 僕は何故か、その少女から目が離せなくなり、窓辺から動けなかった。

 暫くお互い見つめ合っていると、先に動き出したのは少女の方だった。ハッと気が付いたように動き出し、慌てた様子で僕に一礼すると庭を去って行った。


 後ろ姿を見送り、僕は直ぐに頭を切り替えた。

 さっきの会話で分かった事がある。

 東の魔女が「ダリア」という名前である事だ。

 僕はバイルンゼル帝国の歴史書を開いた。

 

 八百年前の魔女の名に「ダリア」という記述があった。


 八百年だ。


 本人のわけはないとは思いつつも、前にダリアが僕に言った「ルイス」と言う名。

 もし僕の先祖であるルイス・ランドルフを指しているのであれば、ルイスもまた、八百年前の人物である事に、僕は無視できない気がしてならなかった。




☆☆☆




 コレットは肩を落としてダリアの館を後にした。

 落ち込んだ気持ちと交互に現れる胸の高鳴りに、戸惑いながら思い出す。


「すごく綺麗で素敵な人だった……。あの方は、どなたなのかしら……。またダリア様の館へ行ったら、セオデン様に訊いてみようかしら。もう一度……。一目でも良いから、またお顔を見たいわ……」


 あの窓辺に立った、物語の挿絵の様な美丈夫の青年を思い出し、耳まで赤く染めて呟いた。

 




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読んで頂きありがとうございます!

近況ノートに西の魔女・コレットのイメージイラスト(AI作)を載せています。

良かったら、覗いてみてくださいね〜!


https://kakuyomu.jp/users/seiren_fujiwara/news/16817330657311899240

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