第36話 囚われの身(アレックスside)


 回復系・治癒系の魔法や魔術はアリスの方が得意だ。この回復薬もアリスの治癒魔法が加えられており、市販されているただの回復薬より効果は抜群に良い。何より香りも味も良い。香りは林檎の様な瑞々しい香りで、味も林檎の蜜の様に爽やかな甘さで飲みやすい。


 よく父上が僕らは二人で一人と言っているけれど、確かにその通りだと思う。僕が得意な事はアリスが不得意で、アリスが得意な事は僕が不得意だ。お互い教え合い努力を重ねているが、どうもお互い相手の様に上手く出来ない。全く出来ない訳では無いが、相手の様に出来ないと、やっぱりダメだなぁなんて弱音が出る。

 でも、そうやって僕が不得意な事がある事実が、アリスの存在が、僕をしてくれている気がして嫌では無い。


 周りから天才と言われることがある。


 僕はそんなんじゃ無い。強くなる為にレオンと共に沢山の努力もして来た。今だって学ぶ事は多いし、鍛錬も怠らない。天才は努力せずに出来ると思うけど、僕は違う。何度も何度もボロボロになりながら鍛錬しているから……。


 おっと、ちょっと暗くなってしまった。自分語りはこの辺で。

 さて。身体も楽になった。今自分が居る場所の把握しよう。


 まず僕は、部屋の中を確認する事にした。

 窓辺に近寄り、窓の外に目を向ける。


 高さからいって、ここは三階か。


 目の前には随分と広い庭がある。ならばこの部屋は南側か。庭の中心から離れている所を見ると角部屋なのだろうか。日の高さを確認する。そして庭の木々の陰の向きを見る。今は昼の一時過ぎだ。


 窓辺から離れ、部屋の中を確認する。

 出入り口のドアの他に三つのドアがある。その内の一つは衣装掛けのドアだと、さっき開けて分かっている。もう二つを開けてみると、バスルームとトイレのドアだった。壁や床、寝台の下など確認したが、覗き穴など気になる物は何も無い。細工があるのは窓の桟だけという事か。


 出入り口のドアに近寄り、初めて気が付いた。


 ドアノブが無いのだ。


 ドアに触れると窓の桟より強く全身の力が抜けた。直ぐに手を離し、ドアの向こうの気配を探る。ドアの前に二人。僅かな魔力を持った者が立っているのが分かる。

 逃げようと思えば逃げ出せるかも知れないが、先ずこのドアを攻略しなければ難しいだろう。それに、どうせなら魔女の事を探ってから逃げ出すかと、気合を入れた。


 僕はとりあえず腹ごしらえをしておこうと、先程、セオデンが置いて行った盆の上の果物を手に取った。ミルクがゆは好きじゃない。冷めたら余計に不味く感じるから。大粒の葡萄を数個捥いで念のため魔力で確認をする。水同様に何の変化も無い。口に含むと、よく熟れた甘味の高い葡萄で思わず笑みを浮かべてしまった。


 いかんいかん、僕は囚われているのだから、もう少し緊張感を持たなければ。などと思いながら、再び葡萄を口にするのだった。

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