第31話 私とレオンの旅路

 レオンの背に乗って飛び立ってから暫くして、レオンの立髪を撫でながら先程から気になっていた事を口にした。


「ねぇ、レオン」

『なんだ?』

「さっき、お母様が近くに来ていたの、なんで教えてくれなかったの?」


 その質問に、レオンは何か思案する様に黙った。「レオン?」と再度、声を掛けると、静かに話し始めた。


『……別に、悪い気配では無かったからな。見送りたいと思って来ていたのは分かったし。あと、アリスは気が付いて無かったが、旦那様もあの場に居たんだぞ?』

「えぇ! そうなの!?」


 レオンの言葉に、私の心臓はドクリと大きな音を立てる。


『姿隠しの魔法を使ってたけどな。見送りに来ていた』


 レオンは楽しそうに笑うが、私は変な汗が出て掌が湿ってきた。


「お父様まで……」


 何だか胸の奥がチクッとする。罪悪感なのか、何なのか……。


『俺、旦那様も奥様も大好きだ。だから、二人にアルとアリスをよろしくって言われたから、何が何でも絶対二人と一緒に帰るって決めてる』

「レオン……。レオンは私達の大事な家族だもの。その言葉を聴いたら、きっとお父様もお母様も喜ぶわ。帰った時には、二人に伝えてあげてね?」

『そのためにも、アリス。お願いだから、予測不能な突飛な行動は控えてくれよ?』


 ウッ……。それは……。


「……善処します……」

『………』



 途中、湖の畔で小休憩を挟む事にした。


 湖の近くに花畑を見つけて、そこでレオンの食べる花に体力回復のまじないを掛け差し出すと、嬉しそうに花を食んでいく。私も鞄からサンドイッチを一切れ出し、それを齧り食事を済ませた。


 なるべく早く砦へ向かいたい気持ちはレオンも同じで、それぞれ食べ終わると直ぐに飛び立った。


 レオンの翼で行っても北の砦までは一日半掛かる。何処かで野営しなくてはいけないとは思うが、少しでも距離を稼ぎたいと、夕暮れギリギリまで飛んだ。


「レオン、そろそろ今夜休む場所を探しましょう」

『それなら、あの丘を越えた所に猟師達が休む小屋がある。そこへ行こう』

「分かった。任せるわ」


 小高い丘を越えるとすぐ、目的地の小屋が見えた。


 レオンはゆっくり翼をはためかせると、徐々に速度が落ちてゆき、静かに降り立った。


 幸い、小屋に鍵は掛かっておらず、早速、中に入って休む事にした。


 小屋の中には、暖炉とダブル位の広さがあるベッド、簡易テーブルと椅子が一脚。部屋の隅に暖炉用の薪が少しあるだけだった。

 私は自分とレオンに浄化魔法を掛けて寝ることにした。


 春とはいえ、夜の森は冷える。


 私はベッドの上にレオンを乗せて、私はレオンのお腹を枕にする。その方が毛布が薄くても暖かく眠れるからだ。


 私はレオンに包まれる様にして眠りについた。


 翌朝、日が昇る少し前に目覚めた私達は、近くの小川で顔を洗い、レオンのご飯用に花を探しに森の中を少し歩いた。


 暫くすると、少し開けた場所があり、木苺が鈴なりに育っているのを見つけた。


 私達はその木苺を摘んで、それを朝食とした。


 もちろん、レオンには魔法を掛けた木苺を渡して。


 腹拵えも済み、日も登りはじめ、辺りが朝日で光り輝きだす。その様は、何とも幻想的で暫く眺めていたかったが、心を引き締め北へ向かう事にした。


 今から出れば何事も無ければ、昼過ぎには到着出来る筈だ。


 私達は早る気持ちを抑えつつ、出立したのだった。

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