第32話 お転婆娘の失踪(エドワードside)

※長男・エドワード視点です。よろしくお願いします。

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 昼を過ぎた頃。


 【闇の王】について調べ始めてすぐ、有力な情報を得たため、父上の元へ向かうべく本邸の門をくぐると、マーサが血相を変えて走り寄って来た。


「エドワード様!」

「どうしたんだ、そんな慌てて」


 私が愛馬から降りると、マーサは上がった息を整えようともせず、私の腕を掴み「お嬢様が!」と声を上げた。邸へ目を向けると、使用人や護衛騎士が慌ただしくしている様子が見てとれた。


 その様子を見て、すぐに合点がいった。


 あのお転婆娘、やりやがったな、と。


「朝食後、あまり体調が思わしく無いと仰って、お薬をお持ちしようかと訊ねましたら、少し休めば大丈夫と仰るので……」

「昼に様子を見に行ったら、居なかった、と」


 そう言うと、マーサは首が捥げるのではと思うくらい、何度も首を縦に振って、手に握っていた紙を私に渡す。くしゃくしゃになったそれを広げると、見慣れた文字が並んでいる。



『マーサへ


 体調が良くなったので、ちょっとそこまでお出掛けしてきます。


 少し帰りが遅くなるかも知れないけど、心配しないでください。


 お土産、楽しみに待っていてね。


アリス』




 私は大きく息を吐く。


 何が、ちょっとそこまで、だ! 気楽に行ける散歩気分かよっ! 絶対違うだろ! しかも少しどころか、かなり遅くなるだろっ!


 私は心の中で悪態を吐き、マーサに目を向ける。


 今にも零れ落ちそうな涙を一杯に溜めた瞳は、必死に私を見つめる。


「レオンの姿も無いのか?」

「はい、騎士達も朝食後から見ていないと」


 なるほど、レオンを連れて行ったなら、恐らく父上もご存知であろうと踏んだ。


「マーサ、大丈夫だ。レオンが一緒だろうから、お前はいつもの仕事に戻ってくれ」

「ですが、エドワード様! お嬢様は昨日、回復薬を大量に作っておいででした! フィンレイ騎士団の皆さまに差し入れだと言って! それが全て無いのです! 私、てっきりエドワード様に預けて差し入れなさると思っておりました……。きっと、アレックス様の事が気になって、ご自身で届けに北の砦へ向かったに違いありません!」


 私はマーサの言葉に深く頷く。


「あぁ、そうだ。分かってる。絶対、そうだと私も思ってる。だからこそマーサ、今は落ち着くんだ。私は今から父上の所へ行くから、その時に話を聞く。後でちゃんとお前にも話すから、今は少し休んで心を落ち着けて……今日はもう、仕事は良いから休みなさい。リチャードには伝えておくから」


 執事のリチャードの名を出すと、マーサは大人しく「はい」と返事をして、私と一緒に邸へ入った。





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近況ノートに、長男エドワード・ランドルフのイラストを載せています。良かったら、覗いてみてください。


https://kakuyomu.jp/users/seiren_fujiwara/news/16817330657011383256

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