第24話 私だって、やれば出来るんです!


 朝食を終え私室に戻り、レオンがドアを閉めるのを見てから私は言った。


「レオン、お願いがあるの」


 アレックスのであり、我が家の護衛騎士のレオンを見上げる。


 何をお願いされるのか勘付いたのか、レオンは眉間に皺を寄せ、露骨に嫌そうな顔をした。


「嫌だ」

「まだ何も言っておりませんけど?」

「言わなくても分かる」

「お願い!」

「アリス、さっきの旦那様の言葉、ちゃんと聞いてたか?」

「レオン!」


 使用人達や護衛騎士達の前、家族以外の人の前では、ちゃんと「お嬢様」として扱ってくれるレオンだが、家族だけの前や、特に私やアレックスとだけでいる時は、その態度が一変する。何故なら、私達は「」だからだ。


 大きくため息を吐き、豊かな黄金色の髪をガシガシと掻く。


「じゃあ一応聞くだけ聞くけど、どんなお願いだ?」


 そう言って腕を組み、ドアに寄り掛かる。


「レオン、お願い。姿で私を北の砦に連れて行って。アルに何があったのか、自分の目で確かめて調べたいの」


 私は腕を組んでいるレオンの右手を無理矢理取って両手で包み、お願いする。


 姿、の言葉の意味を瞬時に理解すると、私の手をすかさず振り解きにかかる。


「いやいやいやいや、そりゃ普通に無理なお願いでしょうが!」


 意地でも離さない私の手を、ぶんぶん振っているが、無視だ無視!


「無理じゃない! レオンだって心配じゃないの!? 親友の危機よ!?」


 私は両手をぶんぶん上下に振られながら、懇願する。


「確かに、親友の危機だが! 姿でならともかく! 姿って……! 自分で言うのもなんだが! 残念ながら、俺はこう見えてもまだまだ未熟なんだよ! 自分だけで姿を固定出来ないからアルのされてる! しかも、俺はアルの親友であって、アリスの親友な訳じゃ無いから! 術を解除するには俺だけの意志じゃ解けねぇんだよ!」


 レオンは尚も私の手を解こうと、今度は空いてる手で、私の指を一本ずつ剥がしにかかる。私は指にこれでもかと力を入れ、抵抗をする。


「何細かい事言ってるのよ! アルと私は半分同じ人間なのよ!? いや、ほぼ同じ! なら、アルの親友は私の親友でもあるってこと! だから、やれば出来る! ばずっ! お願い! 連れて行って! レオンにしか頼めないの!」

「何無茶苦茶言ってんの!? 同じじゃないですよ! お嬢様!」

「何今更お嬢様呼びしてんのよ! 私とアレックスは双子だと言う事は、魔力の流れも似ているし血も同じって事で! ね! 何の問題も無いと思わない?」


 軽くウィンクして見せると、レオンは目を剥き出し、「問題ありまくりですけど!?」と叫んだ。


「とりあえず、出来るかどうか物は試しに! ね!?」


 私が一度言い出したら、なかなか引かない事をレオンも分かっているからか、手を振り解くのを諦め、特大のため息を吐き出してから頭を振った。


「ほんっと、突拍子もない事を……はぁぁぁ……」


 ングゥゥゥと唸りながら、私の手をさっきまでとは比べ物にならない勢いで振り解き、両手でガシガシと頭を掻きむしると、真剣な面持ちで私を見下ろした。


「一度だけだ」


 そう低い声でいう。まるで、が唸るような声で。


「ダメなら即刻諦めろ。ただし、陣の描き方は教えない。さっきも言ったけど、俺はアレックスの親友であり、アリスの親友では無いから。……自力でてみろ」


 その言葉に、私も真剣な面持ちで顎を引く。


「わかってる。ありがとう、レオン」

「まぁ……。はい……」


 疲れ切った弱々しい声で返事をすると、レオンはその場に胡座をかいて座り込んだ。


 私はすぐさま模造紙を床に広げ、魔法陣を描き出しす。アレックスが描いているのを隣で見ていたから覚えている。


 


 私が最後の文字を魔法陣に書き込むと、陣が虹色に輝きだした。


 それを見たレオンが徐に立ち上がり、陣の中に入る。中心に立ったのを見て、私は左手の親指をペーパーナイフの先で傷をつける。


 きゅっと強く押すと血が滲み、その血を魔法陣に一滴垂らすと、陣の虹色が色濃くなった。


 私は両手をパンッと叩き、右手を上に伸ばし、左手を下に、時計回りに半回転させて古代語の呪文を呟いた。


『汝、我が友とし契約の下、真の姿を現せ』


 魔法陣の光が強まり、レオンを包み込む。

光の強さで周りが見えなくなったのは、ほんの一瞬で、すぐに陣の中心が見て取れた。


『……まさか、本当に出来るとは思わなかった……上手くいったな、アリス』


 脳の奥に響く声。


 陣の中心には、立派な黄金の立髪を持った、翼の生えたライオンが立っていた。


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