第22話 闇の王


 レオンが帰って来たのは、邸を出て二日目の早朝だった。


 レオンは直ぐさま、お父様に面通りを願い出て、朝食前に本邸に顔を見せるエドワードお兄様を含め、話をする事になった。


 私はマーサに叩き起こされ、すぐに身支度を整えると、お父様の執務室へ向かった。


祖父じいさんが言うには、今から八百年前にランドルフ家に【菫青石の宝珠】と呼ばれたが居たと言っていた」


「「男?」」


 レオンの話を聞いていた私とお父様の声が重なる。レオンは一つ頷くと、話を続けた。


「【菫青石の宝珠】って言うのは、要は【魔眼】の事を指すらしい。ランドルフ家に過去に魔眼を持って生まれた人間はその一人だけ。それはそれは凄い魔力を持った魔法騎士だったと。その人物以外に魔眼持ちは現れて居ないというから、知られていないのも頷ける。それと、【菫青石の宝珠】と並んで必ず名が出る人物が居ると言っていた。その人物は【闇の王】と呼ばれていたそうだ」


 レオンがそこで話を止めると、エドワードお兄様が口を開いた。


「父上、私も昨日、魔法書書庫でレオンの話と同じ記述を見つけました。私達の先祖に、魔眼を持った人物が一人いたと。書いてある事は、ほんの数行さらりと触れる程度でした。そして確かに【闇の王】と呼ばれた人物も共に記述がありました。何者か更に詳しく調べようとしたのですが、なかなか見つける事が出来ませんでした」

「そうか……。【闇の王】とやらも気になるが……。しかし、魔眼と言ってもアレックスの瞳に変化を見た事は無いのだが…」

「魔眼は、確か色が変わると言われてますわよね? 私もアルの瞳が魔眼だとは思えないわ」


 私がそう言うと、全員が頷いた。


「あぁ、俺もそれを思って祖父さんに話した。祖父さんもアルの瞳が変化したのを見た事は無いから、何かの間違いだろうと言っていたんだけど、ただ……」

「ただ、なに?」


 言い淀んだレオンを促す。


「ただ、祖父さんが言うには、もしかしたら、まだ開眼していないだけなのかも知れないと。と言うのも、祖父さんはアレックスの魔力が、今までのランドルフ家の人間とは、量も質も異なる感覚があると言っていたんだ」

「お祖父様は、そんな昔からランドルフ侯爵家と関係があったのか?」


 お父様が瞳を輝かせてレオンに訊ねる。


「関係があったわけでは無いと思う。祖父さんは誰にも仕えて無かった筈だから。ただ、として、ランドルフ家とは切っても切れない関係だから、見ていたという感じじゃ無いかな」


 その返事に「そうか……」と、お父様は心無しか、少し残念そうに目を伏せた。


「とにかく、今は騎士団の報告を待つしか無い。その間に、こちらも更に何か無いか調べよう」


 お父様の言葉に「はい」と三人で返事をすると、お父様が私をじっと見つめた。


「アリス。お前は、くれぐれも、、変な気を起こすな。いいな?」 


 くれぐれもって二度言ったわ。二度。しかも、二回目は強く言ったわよ。


「何ですの? その問題児扱い」


 口を尖らせそっぽを向けば、お父様は「返事は?」と低い声で言う。


「……はい」

「うむ。よろしい」



 お父様の執務室を出てからすぐ、レオンが忘れ物をしたと言って執務室へ戻っていった。


 私はエドワードお兄様と食堂へ向かいながら、最近考えた魔法陣について話していて、レオンがお父様に何かを話しているなど、その時は思いもしなかった。



☆☆☆

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