第16話 魔女の企み1(アレックスside)


 エバンズ団長が放った攻撃が発動しない事に驚きながら、僕は団長の隣に立ちすぐさま敵へ向けて拘束魔法を放った。

 しかし、それが弾き飛ばされたのだ。想定外の出来事に唖然としつつ身体は勝手に防御魔法を強化し、自分が放った魔法を避ける事が出来た。


 いったいどういう事だ。


 そう思っている間もなく、敵からの攻撃が放たれた。僕とエバンズ団長は結界を張りつつ攻撃をしたが、相手に放った攻撃は全て不発で、僕達は次々と放たれる相手の攻撃から、ひたすら自分達の身を守るのに徹し相手の隙を窺った。


「団長!」


 死角になる場所から赤黒い塊が迫って来るのが目の端に入り、声を上げエバンズ団長に防御魔法を放つ。既の所で躱す事が出来たが、それにより僕達は敵に囲まれた事にも気が付いた。僕が体勢を崩してしまった隙に目の前に敵の兵士が立はだかり剣を振り落として来た。

 すかさず剣で防ぐ。ガキンッと剣同士が激しくぶつかり合い火花が散る。

 

「アル!」


 エバンズ団長が相手の足下に火山攻撃魔法を放ったが、それも不発に終わり僕達は完全に囲まれた。

 僕は敵の腹に向け足蹴りをし、突き離す。


 エバンズ団長が剣を抜き構えた。背中合わせにエバンズ団長の殺気を感じる。目に見えて分かる敵は五人。


「アル、魔法も魔術も使えない。俺から離れるなよ」低く言う声に緊張感がある。


「はいっ」

「行くぞ」


 言うや否や、相手にも合図になったかの様に僕達に襲い掛かる。エバンズ団長には三人が、僕はエバンズ団長の背後に立ちながら二人の敵を相手にする。


 攻撃に関する魔法も魔術も全て使えない。

 いったい何が起きているのか。相手はどんな魔術を使っているのか。剣を合わせるが、相手からは魔力の気配を感じない。

 僕は剣に魔力を込めてみるが、やはり無効化されてしまう。

 エバンズ団長があっさり三人を倒した所で、強い魔力量を感じ視線を向けた。


「やはりお前の力か!?」


 エバンズ団長が呻く様に言った声に、魔女は楽しそうに声を上げて笑った。


「剣術の素晴らしさは称賛に値する。流石だ。だが、ガブレリアが誇る精鋭部隊は、魔力を奪ってしまえばなんて事ない」


 一歩ずつ、ゆっくりと近づく魔女を鋭く睨み付ける。


「何をした」

「この間、キミの放つ魔術を見て対策をしたのさ。こんなにも簡単に誘導出来るとは思いもしなかったがなぁ」


 真っ白な手で指す先をチラリと見ると、赤黒い石が僕達の周りを円を描く様に置いてある。


「キミたちの放つ魔術はその石から先は無効化される。特に攻撃魔法はね。まんまと上手い具合にその中に入ってくれて、見ていて楽しかったぞ?」


 真っ赤な唇が大きく弧を描く。エバンズ団長が石を蹴り散らそうとしたが、「おやおや、無駄だよ」と魔女が手を振り翳し赤黒い枷を現した。その枷がスッとエバンズ団長の足元へ行きその足に嵌まった。

 エバンズ団長は身体が硬直した様に足が動かなくなり、上半身を動かそうとしたが残った兵士二人に押さえつけられた。

 僕は剣を構えたまま、魔女と兵士に集中する。

 

「お前達の狙いは何だ」


 エバンズ団長が声を荒げるが、魔女はその声を無視して僕に笑いかけて来た。


「ランドルフ家の坊や……。私はお前に用がある」


 剣を握る手に力が篭る。


「僕には用がない」

「ふふふ。そんな事は口にしない方がいいぞ?お前の仲間が無事であって欲しいなら」


 長い爪は血の様に真っ赤に染まっている。その指で僕の頬を掠める様に触る。僕はギリッと奥歯を噛み締め睨みつける目に力が入る。


「その瞳……。良いね。怒りが篭って輝きが増している……。でも、まだ足りない……。私が欲してるのは、菫青石の宝珠だ」


 菫青石の宝珠。

 

 まただ。


「……それはいったい何だ」


 魔女は微かに目を細め、再びニヤリと口角を上げる。


「ふふふ……。なんて愉快な。これほど愉快な事はない……」


 独り言の様に呟いたと思うと、掌に赤黒い塊を現した。


「私と来い」

「誰が!」

「ふふ……抵抗しても、キミは来る」


 構えていた剣を魔女に向けて斜めに振り、すかさず薙ぐ。確かに手応えがあった。しかし、魔女の姿は目の前に無く、僕は目を見開いた。


「アル!!!」


 エバンズ団長の声に振り向きざま剣を振ろうとしたが、僕は動けなかった。腹の下が熱く抉る様な感覚に襲われる。

 

 目の前が暗くなる。意識の向こうでエバンズ団長の呼び声が聞こえる。


 何が起きた?

 何でこんな事になった?

 どこで間違えたんだ?


 皆、どうか無事で居てくれ……。


 僕は祈りながら意識を手放した。 





⭐︎⭐︎⭐︎

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