第14話 フィンレイ騎士団(オリバーside)
「エバンズ、少し良いですか?」
天幕の外からカーターの声がし「あぁ」と返すと、カーターがサッと素早く入って来た。
今夜はカーターが陣地周辺の見回りをしているので、何か見つけたのかと思い身構える。
「何か手掛かりが見つかったのか?」
「えぇ。手掛かりという程では無いかも知れませんが、見過ごすには些か気になる事がありまして」
「気になる事?」
カーラーは皮肉めいた笑みを浮かべ、低い声で言った。
「恐らく、バイルンゼル帝国の連中が近くに居る」
瞬時に表情を険しくし、俺は話を促した。
「不自然な折れ方をした枝が幾つかありました。それも比較的新しいもので、方角からして北の砦に向かっていると思われます」
枝の折れ方。
慣れない広大な森を迷う事なく辿り着く、或いは敵に気付かれず仲間に知らせる為に目印を作るやり方だ。使い古された方法ではあるが、これだけ樹々が密集していると、熟練した騎士や兵士等でないと見落とす事もある。
「やはり、バイルンゼル帝国絡みだという事か。戦争を仕掛ける気でいるのか……」
「ハルロイド騎士団にも知らせを出しておきましょう」
「そうだな。あと、念のため俺達も二手に分かれよう。打ち合わせをしたい。皆を集めてもらえるか?」
「ええ、もちろん。では、三分後に焚き火前で」
「ありがとう、カーター」
フィンレイ騎士団は、少数精鋭である。
現在在籍しているのは、俺を含め七人だ。大体が一桁の人数で、平均五人か六人。初代フィンレイ騎士団は八人居たそうだが、七人、八人と居るのは多い方だ。
魔力、剣術が突出した者達で、馬術は勿論、運動能力全般、知能も優れた者の集団。
特に魔力量については平均を遥かに上回る。
現在、ガブレリア王国内はもちろん、恐らく歴代フィンレイ騎士団員の中でも、ずば抜けて魔力量があるのはアレックスだ。神獣を従えるだけの事はある。
大体の騎士は得意な属性の魔術が一つはあるものだが、フィンレイ騎士団員に於いては属性関係なく全てが一通り出来る。
それでも得手不得手があり、得意とする属性がよく戦闘で使われる。
因み俺は地属性と火属性の魔術が得意だ。そして副団長のカーターは珍しい氷属性と光属性。
アレックスはどの属性も熟す、それも複数を同時に質の良い術を放てる天才だ。本人は不得手だってあると言うが、俺から見れば全て完璧に自分の物にしていると見える。
焚き火前には、既に全員揃っていた。
皆、真剣な面持ちで居るが落ち着いている。
「アレックス、念のためこの周辺に防音魔法を掛けられるか?」
「この焚き火周辺だけで良いですか?」
「あぁ、頼む」
アレックスは無言のまま指先でサッと空を撫でる。
「良いですよ」
「ありがとう。皆に集まってもらったのは他でも無い。バイルンゼル帝国の偵察隊が我が国に入り込んでいる痕跡があった。カーター」
俺の声にカーターは小さく頷くと、話を引き継いだ。
「枝を折って方角を示す跡が複数。途中で無くなってはいたが、方角から見るに北の砦方面へ向かおうとしていたのだろう。枝の感じからして一週間程経つと思われる。ここまで来るのに出くわさなかった所を見ると、偵察して直ぐに戻ったか別方向へ向かっているかだ」
「別方向と言っても、リバーフェリズの森は広すぎる。探すにも俺らだけでは無理ですよ」
言ったのはマーカス・ベイリー。
アレックスより二つ上で騎士団では二番目に若い。アレックスが入団するまで一番下っ端だったが、アレックスが入った途端、時折先輩風を吹かせる事もある。が、基本的には面倒見の良いヤツで、若さ故か熱くなり過ぎる事もある。騎士にしては線が細いがその分、身が軽く俊敏な動きをする。それはまるで暗殺者の様で、火属性と雷属性を器用に操る。赤に金色が混ざったような色の短髪にエメラルドの瞳を持つ青年で、フィンレイ騎士団唯一の平民出だ。
「だが、奴等が向かうとすれば、北の砦に近い町へ行くだろうな。砦の兵士や騎士を相手にするより襲いやすいと考えるだろうからな」
腕を組んで涼しげな顔で言うのは、レイモンド・ハリス。
肩に掛かる水色の長髪に、良く晴れた青空色の瞳を持つこの男は、市井で絵姿が売られている程、甘い顔の美丈夫。若干女遊びが過ぎて、頬に大きな手跡が付いていることもあるが……。根は悪い奴では無いんだ。頭の回転も早く仲間の動きを瞬時に理解して、その攻撃と相乗効果のある魔法を操る。風属性と音属性を熟知している。
「砦近くの町だと、この間襲われたルベイの町。もう少し上へ行くとサルーラの町が近いよな」
俺と幼馴染のブライアン・ヒューズは、鋼色の短髪を掻きながら焚き火に視線を落とす。髪と同じ色の瞳が光で揺れる。
子供の頃から共に鍛錬を行なってきた同士。剣が得意な俺でもブライアンには苦戦する事が多い程、剣術に優れている。時々アレックスの鍛錬に付き合っていて、最近アレックスの剣術がコイツの筋に似てきているのを、俺は複雑な気持ちで見ている……。水属性と地属性を得意としている男だ。
「……ルベイは現在、警戒区域だ。兵士も多く居る。行くならサルーラだろう」
顎に手を当て考える様に呟いたのは、ロブ・ワトソン。
鍛え上げられた筋肉質の身体は団員一で、俺と変わらない高身長の大柄な体型のため圧迫感を感じるが、深緑色の髪に薄茶色瞳を持つ寡黙で仲間思いの良い奴だ。俺より一つ上の先輩でもある彼は、かなり珍しい闇属性と木属性を得意としている。いつも甘い物をこっそりポケットに忍ばせており、アレックスを餌付けしている事を俺は知っている……。
「どちらにせよ、俺達はここで一旦、二手に分かれる。カーターはマーカスとブライアン、レイモンドを連れて砦へ向かってくれ。ここには俺とロブ、アレックスの三人で残る。ハルロイド騎士団にも知らせを入れているから、恐らく砦には転移して到着している筈だ」
全員が「はい」と声を揃える。
「砦へは明朝に出発。今夜は居残り組が巡視する。砦組は休んでくれ。以上、解散」
砦組が集まり明朝に出掛ける打ち合わせをし、俺達は俺とアレックス、ロブの二手に分かれ周辺を巡視する事にした。
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AIイラストでフィンレイ騎士団メンバーを公開しています。
良かったら、見てみてください。
https://kakuyomu.jp/users/seiren_fujiwara/news/16817330656533713243
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