第11話 バイルンゼル帝国の魔女(オリバーside)
※オリバー視点での話となります。
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魔女の話をアレックスから聞いたのは、砦へ向かう前日の事だった。
本人も忘れていたと言って、急いで報告に来た様子だった。
♦︎♦︎♦︎
「魔女? とは、あの物語とかに出てくる?」
執務室には簡易的な茶器セットが置いてある。俺はカップを三人分用意すると、紅茶を注いだ。
余談だが、俺は紅茶を淹れるのが上手いと自負している。勿論、周りからも美味いと評判だ。
副団長のジェイミー・カーターが、何処からか茶菓子を出してきてローテーブルへ置くと、アレックスの瞳が分かりやすく光を増す。しかし、手を付けず我慢している様だ。
アレックスにカップを差し出すと「ありがとうございます」と受け取って、さっそく一口飲む。
「美味しいです」と言うので、すかさず「だろ?」と応えると、アレックスがフワリと微笑む。
その表情は妹のアリスとよく似ており、俺が最も和む表情だ。
………。
いや、この際だ。ハッキリ言おう!
俺はその顔が大好きだっ! いや、これでは語弊がある。俺は、アレックスの妹のアリスが大好きだっ! 嫁に欲しいっ! この間、求婚しようとして華麗に躱されたけれどもっ!
俺がそんな邪な事を考えていると「団長?」とアレックスが小首を傾げる。
止めてくれ! それはアリスの癖だっ! 好きだ! いかん! 落ち着け! 相手はアレックスだぞ! しっかりしろっ! 俺っ!!
隣から視線を感じて、ふと見遣ると、カーターが憐れみを宿した瞳でこちらを見ている……。
ジェイミー・カーター。
濃紺の背中まである長い髪と、灰色の瞳。年齢不詳の中性的な顔立ちのこの男は、男爵家の嫡男であったが家を継がず権利を弟へ譲り、フィンレイ騎士団にその身を置いている。
実際には俺より十五も上で騎士団の中では最年長だが、その実力は未だ衰えを知らない。騎士団では冷静沈黙な男だが、家では二人の娘に翻弄されていると風の噂で耳にする……。
アレックスや他の団員が敬語や丁寧語でも何も言わない癖して、俺が敬語で話し掛けたり年上扱いしたりすると口を聞いて貰えなくなる。自分は俺に対して丁寧語で話をする癖に……なので、敬意を持って呼び捨てにし、同年代と同じ様に接し、言葉を崩して会話をする。何とも面倒くさ……親しみ深い先輩騎士だ。
前任であるランドルフ侯爵が団長時代の頃から副団長をしており長く縁の下の力持ちとし、この騎士団を支えてくれている。
本来なら俺よりカーターが団長になるべきだが、彼は「私が本来の力を発揮出来るのは縁の下の力持ち的存在であるからであり、団長では無い。何故なら……」と、上に三時間にも及ぶ団長回避演説をし、副団長でいる……と言う、まぁとにかく、かなり癖のある男だ。
俺は気を取り直しアレックスに話を促すと、魔女について話を始めた。
「ふむ……では、魔女というのはバイルンゼル帝国に住む、いわゆる魔術師と同じ様な存在、という事か?」
バイルンゼル帝国とは元々良好とはいい難い関係性ではあったが、ここ近年やたらとガブレリア王国にちょっかいを出して来ている。
「僕も詳しくは分からないのですが、以前、僕の親友であるレオンの育て親から、そんな話を聞いた事があったんです。バイルンゼル帝国は、ガブレリア王国ほど魔力持ちが多くは無いそうですが四人の魔女が居て、その魔女によって帝国が守られているという話でした」
「なるほど……。確かにバイルンゼル帝国は魔力を持った者が少ない。しかし、魔女の存在については物語の中の話かと思っていたが実在していたとは……。何故、急にそれを思い出した?」
カーターが腕を組み、静かに問う。
その問いに、アレックスは少し気不味そうな表情をしなが頬を掻いた。
「あの……仕事内容が機密であるとこは重々承知しておりますが……ほんの少しだけ、表面上だけ! 妹に話したところ、妹から魔女では無いかと言われまして……すみません!」
「ア、アリス嬢に?」
まさかの愛しい人の名が出て、思わず声が裏返る。
その声に再びカーターから憐れみの瞳を向けられるが無視だ! 無視!
「すみません!」と、勢いよく頭を下げて謝るアレックスに、俺は気を取り直しつつ「いや、大丈夫だ」と伝え、気持ちを落ち着かせる。
「それで、アリス嬢は何故、それに気が付いた?」と、カーターが静かな声で訊く。
「……兄のエドワードが、結界に残っていた魔力の残滓と魔法陣が、この国では見ない物であると言っていたのを覚えてますか? どの国かまでは判別がまだ出来ないと。それを伝えたところ、アリスはレオンの育て親の話を思い出したようでした」
レオンとは、ランドルフ侯爵家の護衛騎士だが、なかなかの腕っ節のあるヤツだ。レオンの顔を思い浮かべながら、一つ頷く。
「なるほど……。しかし、そうなると魔獣よりも厄介な事になりそうだな……」
俺は大きく息を吐き出す。どうしたものか。
「団長、今回、魔獣以外となると、我々フィンレイ騎士団の管轄外になりませんか? 対人間となると、ハルロイド騎士団の管轄になるのでは?」
その言葉に、俺とカーターは黙ってアレックスを見つめた。
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