第2章 フィンレイ騎士団
第9話 不穏な空気(アレックスside)
※今回の語りは、アレックス視点です。
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自分の軍馬のブラッシングを終え、天幕へ向かう途中、ふと空を見上げた。
夜の帳が下りる。雲一つない透き通った群青色の夜空に、星々が小さく輝き出す。
子供の頃にアリスと見た夜空によく似た色だなと思ってから、そういえば陣地に着いたら連絡すると約束した事を思い出し、近くにあった切り株に腰を降ろした。
少し気が張ってる。
結界の周りに綻びは無かったが、明らかに何者かによって細工しようとした痕跡が残っていた。
ついこの間、エドワードが結界の防御魔法の種類をもう一つ加えたと言っていた。その効果はしっかりとあったという事になる。
いったい何者なのか。隣国である事は間違い無いかとは思うが、そうなると魔女の可能性が高くなる。いずれにせよ、油断は出来ない。
そんな思いがアリスに伝わらない様に、頭の中を整えてから念話を始めた。
『アリス、無事に陣地に到着したよ。今日は一日、結界を見て歩いたけど、今のところ綻びは見当たらなかった』
『アル! お疲れ様。身体は大丈夫? ちゃんとご飯食べてる? 少しは休息取れてる?』
少し心配気でありつつも、矢継ぎ早に聞いてくるアリスの声に、少し気が抜けて笑みを浮かべる。
『大丈夫、ちゃんと食べてるよ。母上みたいな事ばかり聞かないでよ』と、笑いながら返す。
『明日から、またしばらく連絡が出来ないと思うけど、心配しないで。そして、約束は守ってね? アリス』
念のため、釘を刺しておかねば。この双子の片割れお転婆娘は、何をしでかすかわかったものでは無い。
『最近、アレックスさんはしっかり者さんになって来て、お姉さん嬉しい限りですぅ』
アリスの返答に僕は目を丸くし、すぐ吹き出して笑った。
『なにそれ? 僕は今までもアリスよりは、しっかり者でしたよぉ』
『小さい頃は、いつも私の後ろに隠れて怯えてましたのにぃ』
レオンと出会う前の僕は、確かにアリスより消極的で人見知りもあったから、アリスの陰に隠れる事があったけど……まだ言うか! と、可笑しくなり肩の力が抜けた。
『あはは。もう子供じゃないんだから! 怯えてないし! ……はぁ。リラックスできたよ。ありがとう、アリス。また連絡する』
『うん。怪我に気を付けてね』
『ありがとう。おやすみアリス』
『おやすみアル』
念話を終え、再び空へ視線を向ける。
静かな夜だ。
……いや、静か過ぎる。
背後に微かな違和感を覚え、素早く立ち上がり剣に手を掛け、構えた。
いつからだ?
少なくとも、アリスと念話する前は、こんな違和感は無かった。僕とした事が……。
視線だけを素早く左右上下に動かす。見える範囲に異常はない。
ゆっくりと足を動かし、気配のあった方へ進める。
全身に防御魔法を纏わせると、
「アレックス! どうかしたのか!?」
ちょうど天幕から出て来た先輩騎士のマーカス・ベイリーが僕の様子に気が付き、駆け寄って来た。
僕は視線を外す事なく、マーカスさんに今感じる現状を伝えた。
「団長に伝えて来てください。ほんの微かではあるけど、感じたことの無い魔力の気配があるんだ」
「わかった! 直ぐ戻る。無茶するなよ」
「はい」
マーカスさんは直ぐに陣地内の一番大きな天幕へ走った。
その音を聞きながら、既に防御魔法が掛けられている陣地全体に、更に重ね掛けをした。
「へぇ。一人でこの全範囲に結界を張れるのかい。しかも陣も無く呪文も唱えず……。すごいのねぇ、キミ」
暗い森の奥から女の声が聞こえてきた。僕は剣を抜き構え「誰だ! 姿を見せろ!」と声を張った。
「……青紫の瞳……ルイス……? いや、まさか、違う……。ランドルフ家の人間?」
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