第6話 暖かく癒す魔法
この世界では、女性が森へ行く事は禁忌とされている。
森には魔獣が多くの蠢いているからだ。
王都に一番近い森は、我がランドルフ侯爵家の領地内にあり、本邸からも近い場所にあるルーラの森。
ルーラの森は王都から西に位置し、昔から「月の帰る家がある」という言伝えがある。神獣や精霊が棲む森と言われていることで、その言伝えが生まれたのだろう。
魔獣は居るが、出現はそこまで多くはない。
が、全く出ないわけでは無いので、ランドルフ侯爵家で魔獣避けの結界を施してはいる。
そして、もう一つの森。王都の中心からはかなり離れてはいるが、リバーフェリズの森だ。北に位置する深い森で、森の先にはフェリズ山脈が連なっている。魔獣も多く生息し、時々、狂化した魔獣が出現することがある。そのため森の入り口付近には砦が建てられており、常に森と山を監視している。
王都の中心と、北の砦には魔獣が入り込まない様に結界が張られているが、その結界は定期的にエドワードお兄様の所属する魔術師団によって掛け直しをされてる。
結界は魔獣避けであり、人間には特段影響はないので森へ行こうと思えば、どちらの森も誰でも出入り出来る。
ただ、好き好んで一人で森へ向かう者……特に令嬢など居ない。
エバンズ団長がやっと口を開き「それは……」と、何かを言い掛けたと同時に、信じられない言葉がそれを遮った。
「エバンズ団長殿! 魔獣がリバーフェリズの森の結界を破って町へ侵入したと、王宮から連絡が来ました!」
大声で言いながら入ってきたのは、最近、侯爵家の護衛騎士に加わった新人騎士だった。
本来なら、こんな大事な報告は耳打ちなどで知らせる物を、なんて事だ。
会場警備に当たっていたレオンが珍しく焦った様子で新人騎士に近寄り、険しい顔で耳打ちする。多分、叱責したのであろう。部屋に来た時から焦った顔をしていた新人騎士は、更に顔色を青白く変えた。
新人騎士の報告によって、来賓の令息や令嬢、付き添い人達が一斉に騒めき、令嬢に至っては恐怖からか泣き崩れ、倒れ出す者まで現れた。
すぐさまエバンズ団長が「落ち着いてください」と良く通る声で言った。
「北に位置するリバーフェリズの森からこの邸は離れています。どうか、今しばらく状況が分かるまで、ここに待機をして下さい」
そういうと、アレックスに向けて「すまない」と言い、アレックスはすぐさま「いいえ、大丈夫です」返答した。
きっと許可無く邸に待機を言い渡した事を言いたかったのだろう。緊急事態なのだから、全く以って構わない。
「エバンズ。北の砦へ行くならば、我が家の転移門を使用しなさい。騎士団へ戻って行くより早い。すぐ準備をさせる」
お父様が落ち着いた声で言い、侍従に「すぐエドワードに伝えてくれ」と指示を出した。
「お父様、私も何かお手伝い致しますわ!」
「アリス……では、来賓の皆様を安心させるために、魔力のない者でも目視できる結界を張ってくれ」
「わかったわ」
このやり取りにエバンズ団長が「目視できる結界?」と呟いたが、すぐにエドワードお兄様に呼ばれ、アレックスと共に部屋を出て行った。
私は目を伏せて小さく息を吐いてから、来賓に笑顔を向けて言った。
「皆様方、安心してくださいませ。我が国が誇る魔術師団と共に王都に結界を張っている兄のエドワードと、次期騎士団長と言われるアレックス、そして現在最強騎士と言われるフィンレイ騎士団長のエバンズ様が向かわれました。そして何より、我が家はそんな兄達が張った結界に護られておりますし、元騎士団長である父もおります。それに重ねて、今から私が皆様方をお守りする結界を、この広間に張らせて頂きますわ。どこよりも安全なこの場に、今しばらくいらして下さいませ。では、はじめます!」
私は両手を合わせパンッと1つ叩くと、左手を下へ、右手を上に伸ばし、時計回りに半回転させ小さく古代語の呪文を唱える。
広間の壁に沿って虹色の膜が張る様に現れ、部屋全体を包み込んだ。
虹色結界。
会場となる広間にいた来賓達は、その様を、ほぉと息を吐いて見つめていた。その顔からは、先程までの恐怖は無く、子供が初めて見る虹に興味津々という様なキラキラした瞳で結界を見つめている。
魔力は、その持ち主の人間性が出ると言われている。
私の魔力は虹色が特徴的で、暖かで不安を除去する癒しの効果があると、もっぱらの評判だ。癒しがあるかどうか、残念ながら自分では分からないけれど。
「きっとすぐ、兄達が解決して見せますわ。皆様方は、どうぞ安心してお過ごしくださいませ」
にっこり笑った顔に、来賓は男女問わずほんのり頬を染め見惚れた顔をしながら、コクコクと頷いた。
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