第4話 オリバー・エバンズという男
「まぁ、エバンズ団長様、お久しぶりでございます。まさか団長様が来て下さっているとは知りませんでしたわ」
いや、知っていた。
私は淑女の礼をし、すぐさま笑顔の仮面を装着。実は私、この人ちょっとだけ苦手なの。
オリバー・エバンズ。
エバンズ公爵家の三男で、エドワードお兄様の学友。現在二十四歳。
エバンズ団長との初対面は、アレックスが騎士団に所属してから。
アレックスの忘れ物を届けに行って、そこで初めてお会いしたのだけど、事ある毎にちょっかいを出してくるので面倒くさく、嫌になってきたのだ。
エドワードお兄様やアレックスに、私の事をアレコレ聞き出そうとしている様だけど、二人には絶対に教えるな、と伝えている。
だって、色々。本当に、色々面倒くさいのだもの。ホント。
そんなエバンズ団長は、フィンレイ騎士団でのアレックスの上司でもある。
魔力量はフィンレイ騎士団内ではアレックスと副団長の次に多く、とにかく剣術に優れている。現在、我が国に二つある両騎士団を合わせても彼の剣に勝てる者は居ないと言われている。アレックスすら魔力無しで三回戦勝負をして(そのうち一回ズルして魔法をこっそり使えば)何とかギリギリ一回勝てる感じだと言っていた。
コーヒー色のすっきりとした短髪に、金色に近い榛色の瞳。整ったしっかりした鼻筋は男らしく、精悍な顔つきは見るものを惹きつける。上背があり、鍛えられた逞しさが正装姿でも分かる恵まれた体格だ。
もちろん、令嬢達が放っておく筈もなく、常に注目されている。縁談話も多そうなのに浮いた話もない。何故まだ結婚していないのかしら……なんて、私には関係の無い事だけど。
「少しお会いしなかった間に、また一段とお美しくなられて……。あまり社交の場にはおいでになって居ない様ですが……どなたか貴女のお眼鏡に適った愛おしい人でも出来たのですか?」
随分と直接的な言い方をする。
確かに最近、舞踏会や夜会にあまり出ていない。出席したくない訳では無い。行こうとすると何故か、いつもエドワードお兄様から「手伝い」をお願いされるのだ。
そもそも、この誕生日会がそういった相手を見つけるためだというのは、暗黙の了解で知れている上、貴族同士の会話でいきなり本題から入るのも、どうかと思う。
思いながらも笑顔を貼り付けたまま「いいえ」と返事を返す。
「私にはまだ、その様な事は興味がございませんの」
「なるほど。しかし、こう言ってはなんですが、そろそろ本命の相手を見つけなければならない時期では?」
ニヤリと片方だけ口角を上げ言うその顔に、若干の苛つきを覚える。私の事より、ご自分はどうなのかしらね!?
が、私の鉄仮面笑顔は崩れない。
本当に失礼な物言いをする。
確実に「行き遅れるぞ」と言っているのだ。
笑顔の仮面を、さらに上級者向け笑顔の仮面に替えて言う。
「ふふふ。エバンズ団長様ったら、お父様みたいですわ。父にも同じ様な事を言われておりますの」
敢えての「お父様」発言。
さぁ! どうだ!
お? ちょっと顔が引き攣った?
「は、ははは、なるほどぉ。侯爵殿も同じことを! ……あ〜……しかしだ、そのぉ〜、もし万が一、お相手が見つからない場所、例えば私があなたを」
「それに!! 私はそんなに焦ってはおりませんのよ?」
その先を言わせてたまるかっ! と、無礼を承知で被せて放った発言に、一瞬停止したエバンズ団長だったが、何のダメージも受けて無いのか、すぐに「ほぉ。それは何故?」と、片眉を器用に持ち上げるて訊ねる。
「これからの時代、女性だからといって、ただ家に入るだけではなく、外へ出て活躍する時代だと考えておりますの」
私は少し顎を持ち上げ、誇らし気に言った。だいたいの男は、この発言を聞くと、すぐに顔を顰めて何処かへ行く。
なのに……。
エバンズ団長は「ほぉ」と、更に興味深そうに一つ頷いた。
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