プロローグ
第1話 はじまりは、いつだって
長い冬が終わり、小鳥達の囀りに春の訪れを感じる昼下がり。
少し冷たい風が吹くと肌寒さを感じるが、風が無ければポカポカ陽気で気持ちがいい。邸の庭の花々を愛でていた私の耳に、信じ難い言葉が飛び込んできた。
「お嬢様! 大変です! アルが遠征先で……!」
毛先だけふんわり癖があるホワイトブロンドの髪をハーフアップにし、青紫の大きな瞳を更に大きく見開いた侯爵令嬢である私、アリス・ランドルフは、陶器の様に滑らかで白い(と評判の)肌を、まるで真冬が一気に戻って来たのでは、と思うほどに真っ青に変え震えていた。
「レオン……今、何と言いました……?」
レオンと呼ばれた男。
レオン・ライラックは私の兄の「親友」であり、侯爵家の護衛騎士である。
その彼が、大きく息を吐いた。
見事なまでの黄金色の髪を、苛立つ様にガシガシ掻く。
人懐っこさのあるアーモンド型をした茶色の瞳に、すっと筋の通った鼻梁の美丈夫な顔を更に歪めながら言った。
「だから! アルが! 逃亡したと! 言ったんだ! 分かりましたか!? お嬢様!」
アル。
アレックス・ランドルフ。侯爵家の次男で私の双子の兄である。
「逃亡って……逃亡って!? どういう事よ!?」
思わず淑女としての振る舞いや言葉遣いを投げ捨ててまでも大声で驚く私に、レオンは窘める事もなく、寧ろお嬢様をお嬢様とも思っていない態度で「知らん! 俺が聞きたい!」と言って、手にしていた新聞をバサっと開いて見せた。
私は真っ先に目に飛び込んできた、大きな文字列を見つめ、震える。
『次期フィンレイ騎士団長候補アレックス・ランドルフ、魔獣を前に逃亡し行方不明か!?』
「ッ! ……そんな……そんな馬鹿なことある訳ないっ! 絶対、何かの間違いよ……!」
世間ではそこそこ評判のある美人顔。
それが苦虫を潰した様に歪むのも気にもせず、奥歯を噛み締めながら吐き出した私の悪態に、レオンは全くだと同意するかの様に、形の良い眉を寄せながら深く頷いた。
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