第35話 ラストステージ ブラックボックス①
やっと……やっとここに、辿り着いた。
俺は今、3年C組の教室の前に立っている。
これまで5つの「禁欲」ステージを突破し、最後まで残ったのは俺ただひとり。
すでに体力も気力も、そして精力もとうに限界を通り越して、立っているのがやっとの状態であるが、なんとか最終ステージへと到達したのである。
教室の扉に、張り紙が貼ってある。
だがそこには、何も書かれていなかった。ただの白紙だ。
「これはいったい、どういう意味だろう……」
考えても、さっぱりわからない。
とにかく、どんなステージが待ち受けていようが、最後の力を振り絞って飛び込むしかないのだ。
何度か深呼吸して気持ちを落ち着かせ……ゆっくりと扉を開ける。
そして目に飛び込んできた光景に、俺はたじろいだ。
机や椅子が取り払われた、がらんとした教室。
その一番奥の中央に、いかにも豪華なアンティークチェアに座る西園寺の姿がある。
その両脇には、手下である筋肉隆々の格闘系女子ふたりが後ろ手を組んで直立していた。
そして教室の中央には、大きな黒い箱がひとつ。
ここは……なんなんだ。どうして西園寺が……?
呆然とその場に立ち尽くす俺に向かって、西園寺は冷徹な目のまま拍手する。
パンッ……パンッ……パンッ。
「素晴らしい。並み居る強敵を倒し、最終ステージに到達したおまえを賞賛しよう」
「これは、いったい……どういうことですか?」
「安心しろ。ここは最後まで勝ち残ったおまえへのボーナスステージである。この教室の様子は体育館には配信されないから、人の目を気にせず、ゆっくりとくつろぐが良い」
くつろげって言われても、西園寺のことだ。油断はできない。
それにしても、黒い箱の中には何があるんだろう。
「その箱が気になるか?」
「ええ、まあ……」
「それは後の楽しみに取っておくとして、少し話をしようじゃないか」
そう言うと西園寺は、片眉をぴくりと上げて口元に不敵な笑みを浮かべた。
いちいち仕草が、どう見たってまんま悪役令嬢そのものである。
「実を言うとな……おまえを待っていた」
「はあ?」
「星咲茜に貞操を誓い、誰ともスルことができぬヘンタイを自認するおまえにとって、やはり『禁欲』競技を勝ち抜くことなど容易だったわけだ」
俺はぽかんとする。
いったいどういうことだろうか。
「はい?」
「わからないか。私はこの『性活祭』を利用して、おまえを試したのだ」
「えっ、じゃあこの競技は……」
「そう。おまえのために、この私が企画した。さらに言えば、おまえが2年A組の選手に選ばれるよう手を回したのも私である」
なんだか話のスケールが想像を超えてきたぞ。
「えっと……なんのためにそんなことを?」
「おまえがほざく愛の信念とやらが、どこまで本物であるか知りたかったからだ。口では調子のいいことを言っても困難に直面すれば、とたんに根を上げるクズなどそこらじゅうにいる。おまえもその類いに違いないと考え、試しにこの『禁欲』競技に参加させてみたのだ」
「はあ? それを確かめるために? こんなことをしてまで!?」
「ああ。この私に屈辱を与え続けてきたおまえだからこそ、私も本気を出したのである!」
どうやら、西園寺の俺への怒りは相当なものだったらしい。
なんということだろうか。
この競技は性活祭の名を借りた、俺に対する壮大な罠だったのだ。
俺は、すっかり西園寺の手のひらの上で踊らされていたのである……。
「だが一方で、おまえが勝ち残るんじゃないかとも思っていた。だからこそ、最後にこのステージを用意したのだ」
西園寺はそう言うと、指をぱちりと鳴らした。
すると、部屋の中央に置かれた黒い箱が自動的にバタバタと開いていく。
その中から現れたものは……ベッドだった。
そしてベッドの上には、横たわったまま目を瞑って動かない制服姿の茜の姿がある。
「あ、茜!?」
俺は慌てて茜に駆け寄った。
どうやら茜は意識を失っているようだ。
「茜! おい、大丈夫か!」
茜の体を揺さぶる俺に、西園寺が至極冷静な声を放つ。
「無駄だ。星咲茜は強力な睡眠薬で眠らせてある」
「なんで茜に、そんなことをするんだ!」
「頑張ったおまえへのご褒美だよ」
「は?」
「さあここで、大好きな茜と存分にスルがいい」
「そ、そんな……ばかな……!」
こんなところで、しかも眠っている茜とスルなんてとんでもない。
西園寺は、いったい何を考えているんだ……。
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