第5章 悪夢の性活祭
第27話 性活祭に参加するはめに
その日、学校の廊下を健太と歩いていると。
ふと壁に貼られた、一枚のポスターが目に留まった。
『6/9(日)性活祭開催!』
そう大きく書かれたロゴの下に、いかにも爽やかな裸の男女生徒が笑顔で抱き合うイラストが描かれている。
「性活祭? なんだこれは」
俺が訝しげにじっとポスターを見ていると、隣で健太が嬉しそうに声を上げた。
「おっ! 待ちに待ったシックスナインの日がやってきたか!」
「いや……英語で言うといかにも卑猥に聞こえるその日に、なにがあるというのだ」
「毎年6月9日は、体育祭、文化祭と並ぶ高校の三大イベント、性活祭に決まってるだろうが」
なんだかすごく、嫌な予感がする……。
「なんだ、おまえの世界に性活祭、ねえの?」
「そんなものは、初めて聞いたぞ」
「むちゃくちゃ盛り上がるのに! 性活祭がないなんて、全くつまんねえ世界だなあ!」
「いったい、どんなイベントなんだよ?」
「そうだな。体育祭の競技と文化祭の出し物を組み合わせたような、学校を挙げての性のお祭りというか」
体育祭+文化祭=性のお祭り?
さっぱり想像もつかない。
「性のお祭りって表現が、どうにも引っかかるんだが……」
「うん? その言葉の通りだけど?」
陽気にそう言う健太を見て、それ以上聞くのが怖くなった。
いずれにしても、この世界の常識が、俺の世界の非常識であることは多々ある。
この性活祭とやらも、俺にとっては危険フラグが立った気がしてならない。
そして悪い予感というものは、すべからく現実化するものである。
午後のホームルームの時間。
教壇に立つルミ先生が、徐に切り出した。
「さて、今年も毎年恒例となる性活祭の季節がやってきました。1年生だった去年は見学だけでしたね。16歳以上の2年生および3年生が対象となるので、みなさんにとっては初めての参加する性活祭となります」
待ってました!
楽しみ!
教室から、生徒たちの歓喜の声が上がる。
「性活祭のテーマと競技ルールは毎年、生徒会によって決められます。ちなみに昨年は、最も多くシたクラスが優勝というありきたりなもので、盛り上がりはしましたが、先生は独自性に欠けるんじゃないかと残念に思いました」
それって、みんなでアレをシまくる競技だったってこと?
最悪じゃないか……。去年じゃなくて、本当に良かった……。
「さて、今年はどんな性活祭となりますでしょうか。詳細については、これより生徒会長より発表されます」
そう言ってルミ先生が教室にあるモニタのスイッチをつけると、画面にでかでかと西園寺の姿が映し出された。
『生徒会長および風紀委員長の、西園寺優華里である!』
その鋭く冷ややかな視線は、モニタ越しに俺を貫いているように感じる。
いや……西園寺とはいろいろあったせいか、あまりに意識しすぎかもしれないが。
『5日後の6月9日に全生徒が待ち望んだ性活祭が実行される。性活祭の本来の目的は知っての通り、性について正しく考え男女お互いを尊重する精神を育むことである。そのことを忘れずに、皆の力で今年も盛り上げて参ろうではないか!』
湧く教室とは裏腹に、俺の背中からは冷や汗が大量に流れ落ちていた。
なんなんだ……この酷く嫌な予感は。
隣の茜が心配そうに声を掛けてくる。
「ねえ晴人、なんか顔色悪いけど大丈夫?」
「ああ……まだ今のところは、なんとか……」
そう。
まずはどんなイベントなのか、全容を詳細に把握する必要がある。
あまりにもヤバそうだったら……茜と一緒に不参加という手もあるだろう。
『それではお待ちかね、今年の性活祭のテーマと競技ルールを発表する!』
クイズ番組で流れるような、ダカダカダカ……ジャン!という効果音が流れた。
『今年のテーマはズバリ! ”禁欲”である!』
盛り上がっていた教室が、いきなりため息に包まれる。
えー禁欲かよ? シないで我慢すること? とがっかりとした声があちこちから聞こえた。
『競技ルールを説明しよう。競技に選手として参加するのは、ひとクラスにつき1名の男子である。選手たちは競技ルートとなる各クラスを順に巡るのだ。そこではそれぞれのクラスが独自に考案した、男子のシたい欲望を爆発させるような趣向を凝らした出し物、つまりステージが待ち受けている』
なるほど……健太が言っていた、体育祭の競技と文化祭の出し物を組み合わせるって、そう言うことか。
まあともあれ、クラスで選手はひとりだ。
全員参加のレイドバトルじゃなくて良かったと、ひとまずホッとする。
『誘惑に負けてひとりの選手がスルのを我慢できなくなった時点でステージ脱落。残った選手で次のステージへと進む。全てのステージにおいて禁欲を守り抜いた最後の選手を勝者とし、そのクラスを称えようではないか!』
打って変わって教室からは、おもしろそうじゃん! やろうぜ! といった前向きな声が上がり始めた。
うちの学校は、2年3年がそれぞれ3クラスずつ。
つまり合計6人の選手が、6つのステージ(各クラスの出し物)に挑むこととなる。
各ステージで一人ずつが脱落し、最後に残った者が勝者となるわけだ。
ん、待てよ?
そのルールだと、最後のステージに臨むのはひとりとなる。
そこで脱落したら……勝者なしってことも、ありえるのだろうか。
『それではまず、クラスで男子を1名、代表選手として選出するように。それから各クラスにおいて自由な発想で、男子の性欲を徹底的に刺激するステージを制作しなさい。なお選手には、性活祭当日までステージの中身について決して知られぬこと。選手に情報を漏らしたクラスは失格とする。競技ルールの説明は以上である』
にこりともせずにカメラに向かって話していた西園寺は、そこでふっと笑みを零した。
『最後に……選手諸君の健闘を祈ろう!!』
そこで、ぷつんと画面が真っ黒になる。
教室の熱気は最高潮に達していた。
「はい、皆さん静かに!」
怖いルミ先生の鋭い一声で、さっと静まり返る。
「今年の性活祭のテーマは禁欲とのこと。なかなか面白そうです。クラスとしても勿論、優勝を狙いましょう。そのためには、欲望に打ち勝てる強い選手を選出せねばなりません」
そうか、みんな性活祭を楽しみにしてるからな。立候補するやつは、大勢いるだろう。
俺は、それを傍観してりゃいいんだ。
なんだ。あせる必要なんてなかったじゃないか。
「やりたい男子は手を挙げて……と言いたいところですが、ここは公平に投票制としましょう」
投票か……。
まあ、俺みたいなモブは選ばれないに決まってる。
せっかくなので、配られた紙に「菊池健太」と書いて投票箱に入れた。
あいつは勿論、選手として参加したいだろうな。選ばれるといいな、健太よ。
すっかり楽観していた俺だったが、それから数分後に愕然とするはめとなる。
黒板に書かれた俺の名前。
その下に連なって並ぶ、大量の「正」の文字。
圧倒的多数で、俺が代表選手として選ばれたのだった。
「そ、そんな……なぜ……!」
立ち上がって悲痛な声を上げた俺に、クラスメートたちの言葉が突き刺さる。
「だって、青空はアレを自由自在にコントロールできるんだろ!」
「どんな勝負だろうが最強チートのアレさえあれば、絶対勝てるに違いない!」
「ああ、誘惑してくる敵なんて、いとも簡単に返り討ちだぜ!」
「青空くんが適任で、間違いないよ!」
いや、待って……。
違うんだ……。
俺は茜をすがるような目で見つめた。
だが、茜はきょとんとしている。
「どうかした?」
「こんなの……俺には無理だよ……」
「でも晴人なら、私も絶対勝てると思うけど」
「まさか茜、おまえも俺に投票したのか?」
「うん。だってカレシを応援したいもん」
ああ、なんてことだ……。
茜はイベントの危険性を、全然わかっちゃいない。
いや、この世界のことを未だ理解できていないのは、俺のほうか……。
「それでは我が2年A組の代表選手は、青空晴人くんに決定とします。これからステージとなるクラスの出し物を決めましょう。ステージの中身について代表選手が知ることは禁じられているので、青空君。君は教室から退出しなさい」
ルミ先生の命令で、俺はがっくりと肩を落としながら教室からひとり追い出されたのである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます