第9話 更なる危機
救世主のイケメン勇者は美しき姫を救い、そして愛の告白をする。
そして、その様子を呆然と見守るモブな俺。
どう見たって、ふたりの会話に割り込める空気ではない。
突然告白されて、茜は戸惑っていた。
「え……でも……」
「いや、いきなりで驚かしちゃったようだ」
高宮先輩は頭を掻きながら、しまったなという表情を浮かべる。
「でも、ずっと告白するタイミングを探していたんだが」
「ええっ?」
「誘われて困ってるところを、たまたま見かけたもんだから、これはなんとかしなけりゃと思ってさ。助けられて良かったよ。ほっとした勢いで、思わず口から出てしまった」
「いえ、助けてくれてありがとうございます。でも……」
「そうだよね。突然告白されても即答できないだろう。また、改めて答えを聞きに行くよ」
高宮先輩はそう言うと、颯爽と去って行ったのだった。
そこでようやく、俺の体はフリーズという魔法から解き放たれる。
「茜……」
声を掛けるが、茜はぼうっとしたままだ。
「おい、茜!」
「え、あ、なに!?」
「おまえ……目がとろんとしてるぞ」
「そ、そんなことないって! ってか晴人、どこにいたのよ!?」
「ずっと脇に、いたんだが……」
「そう……」
「高宮先輩に、告られてたよな?」
「ま、まあね。でも、別に関係ないし」
そっけなく答えるが、その顔は明らかに赤らんでいる。
ま、まさか。
茜は高宮先輩に一目惚れしちゃったんじゃ……。
しかし、そんなことを問いただす勇気なんて、俺が持ち合わせているはずもない。
「あ、遅刻しちゃう。急ごうよ」
「お、おう」
俺はどこか胸騒ぎを感じながら、茜と学校に向かったのだった。
午前中の休憩時間は、俺にとって地獄であった。
なんせ、俺のアレに興味を示した学校の女子たちが、ひっきりなしに俺の席へと押しかけてくる。
「青空くーん、ベッドルームに付き合ってよ」
「いや……。今日はちょっと腹の具合が悪くて」
「主が青空殿か? ひとつ我とお手合わせ願えないだろうか?」
「いや……。なんか目眩がする。ごめんなさい」
「Hi.Aozora!! Can you play with me?」
「のーのー。あいきゃんとすぴーくいんぐりっしゅ!」
俺が必死に誘いを断り続けている隣の席でどこか茜は、ぼーっとしてるのだった。
なんか、すごく嫌な予感がする。
そりゃあ、高宮先輩と俺なんて、カーストランクで言ったら比較にもなりゃしない。
だけど、俺は10年も、ずっと茜のことを思い続けて。
茜も、俺を思い続けて。
そうして、やっと気持ちが通じ合えたばかりなんだ。
なのに茜……。
授業中も悶々としているうちに、昼休みとなった。
「晴人、今日もお弁当、作ってきたよ!」
そう話しかけてくる茜は、いつの間にか普段の明るい雰囲気である。
杞憂だったか。
「おう、サンキュ。じゃあ、食堂に行こうか」
「うん!」
席を立って教室を出ようとすると……。
いきなり登場した高宮先輩と、鉢合わせした。
「茜ちゃん、ちょっといいかな?」
「え……あ、はい」
高宮先輩と茜が揃った瞬間、俺はモブとなる。
「さっきは申し訳なかったよ。反省してる」
「いえ……」
「で、お詫びと言っちゃなんだが、ランチでも一緒にどうかって思ってね」
「ランチ、ですか?」
「うん。俺がおごるから、食堂に行こうよ」
茜はいっとき俯いていたが、ふと顔を上げてはっきりと答えた。
「ごめんなさい! 先約がありますので!」
「え、誰と?」
「それは、青空くんとです」
そこでようやく、俺は高宮先輩に認識されたのだった。
「あれ、キミは確か……」
高宮先輩は眉をひそめて、俺をじっと見つめる。
「茜ちゃんを怪我させた張本人だよね」
「いや、それは……」
「茜ちゃんにそんな酷いことをするなんて、俺は許せないな」
そして、茜のほうに振り返る。
「茜ちゃんも、どうしてこんな奴に気をつかってるんだい?」
「だって……カレシですからっ!」
「はあ? この男と、付き合ってるだって!?」
俺は胸がじーんと熱くなっていた。
茜が、堂々と俺をカレシと明言してくれたのだ。しかも、高宮先輩の前で。
「そうか、でも俺は諦めることなんてできない」
えっ。
「10分だけでいい。時間を貰えないか?」
「でも……」
「頼む。このとおりだ」
ちょっと待った、と割り込もうとしたその時。
突然、目の前にひとりの女子が現れた。
「キミが、青空晴人だな?」
長身で、腰まで伸ばしたストレートの黒髪。
その顔は氷のように冷ややかで、かつ美しい。
生徒会長であり風紀委員長の、
「話がある。一緒に来てもらおうか」
西園寺はそう言うと、いきなり俺の腕をむんずと掴んだのだった。
「いや、今はそれどころじゃなくて……」
そう。このまま茜と高宮先輩を、ふたりきりにしておくわけにはいかない。
高宮先輩はどうやら、女子を惹きつける強力なオーラを放っている。
掴まれた西園寺の手を振りほどこうとすると、、今度は背後から何者かに両肩をがっしりと押さえ付けられた。
振り返ると、西園寺の手下である筋肉隆々とした格闘系女子ふたりが俺を拘束している。
その力はとてつもなく強く、身動きが全く取れない。
「無駄な抵抗はよせ。キミに選択肢はない」
冷ややかな眼差しで、西園寺は俺に告げる。
そして俺は有無を言わさず無理やり教室から連れ出されたのだった。
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