第4話 そして、歌手は若頭の存在を知る
ライブが終わり、今回もファンのみんなに会えて、無事ライブも成功できたことが嬉しくて達成感が胸の中いっぱいに広まる。私の顔には思わず笑みがこぼれた。しばらく余韻に浸っていると、控室のドアが開きマネージャーの森下さんが入ってくる。なんだか焦っているようで、私は心配になり、「.......どうしたの?」と聞く。その瞬間「大変なんですよお!!!!!」と森下さんの大声が部屋中に響く。私は一瞬目を見開き、すぐいつもの無表情に戻る。...........実は割と森下さんはいつも騒がしい。その元気さが私にないといつも周りの人から言われるから、その光景を私はいつもほほえましく見つめている。だけど、どうしたのだろう?こんなに焦っている森下さんは初めて見る。「あの、あのですね、藤堂コーポレーションの社長がサラに会いたいって!!事務所もOK出したから、明後日急遽面会なの!!」私はその言葉に思わず目を点にさせた。そして、「えーっと、藤堂コーポレーションの社長が会いたい?.......何故?」と疑問を口にした。「なぜなのかはわかりませんが、あの藤堂の社長自らのアポなので、断れませんよね.......」そう森下さんは言い、深くため息をついた。
そう、藤堂コーポレーションといえば、多数の企業を傘下に置きIT企業として今一番勢いのある会社でもある。そしてそれを一代で成し遂げた社長の鬼才は異なる業界に籍を置いている私でもたくさん耳に入ってくるほどだ。そしてその社長には怖い噂がある。
なんでも、日本の裏の世界を取り仕切るヤクザの偉い人とか、目だけで人を殺せるだとか、血も涙もない冷徹な男だとか、そういうのを数えたらきりがない。どこまでが本当かわからないが、実際会ってみたらその噂も納得できるらしい。とにかく、関わりたくない人物だった。ほら、森下さんもその噂を思い出しているのか、目が死んだ状態になっている。
ライブが無事成功し、おめでたい雰囲気になっていた楽屋はもはやお通夜状態になっている。すると、ドアが開き事務所の社長が入ってきた。その様子は私たちとは真逆で、うきうきランランしている。そして異様にテンションが高い。…怖い。
「ハァーイ、二人とも元気かな?おや、目が死んでいるねー森下君。どうしてかな?」社長はその理由をわかっているくせに、異様なテンションの腹立つ口調で言葉を続ける。「だいじょーぶ、会っただけで殺されることはさすがにないと思うから.......多分。」と言った。社長の言葉に森下さんは、「いや、多分って何??今の言葉聞き間違いじゃなければ、普段人をっ!…」と顔を青ざめ肩を震わせた。私たちの中で藤堂コーポレーション社長の恐怖感がどんどん増してくる。「で、社長はその方がサラに会いたい理由をご存じなのですか?」私も一番聞きたかった問いを森下さんが聞いてくれる。だが社長は「いや、ぜーんぜん」と言い、ヘラヘラ笑った。そして、ゴンっと大きな音がその場に響いた。社長はお腹を押さえてその場に蹲っている。そして、森下さんから微かな殺気を感じる。「なんの根拠もないくせに、あの良くない噂ありまくりの奴にサラを会わそうと考えているんですか?」そう声を震わせて彼女は聞いた。すると打って変わって社長は真剣な声で「そうだよ、でも仕方ないじゃないか、あの藤堂だよ。でも、僕はあいつとは一応同級生だったから、安心して」と言った。私たち二人は一瞬見直した目で社長を見つめたが、数十秒経ち改めてその言葉を理解した途端、社長を呆れた目で見つめた。....、.......つまり何の根拠もないのだ。その言葉には。何が安心しろ?普通同級生だったからと言って、それがなんになる?横にいる森下さんも同じ考えになったのか、私たち二人はニコリと見つめあって社長を見た。社長も何か悟ったのか後ろに後ずさる。またもや、その部屋にはゴンっと大きな音が響いた。二回も。
結局、怖い噂があっても本人を見てみないと分からないし、そもそもどんな用か分からないのに怖がっていたら駄目だよなぁという認識で私たちは落ち着いた。これも全部社長の犠牲のお蔭だ。...........多分。
そして、面会の日が訪れた。客室に入ると、そこには見たことがないほど綺麗な人が立っていた。中性的な顔に漆黒の髪と何もかも見透かすような瞳。そして、その瞳は僅かな熱が灯っている。
その瞳を向けられているのは私だった。
私は思わず息を呑んだ。
素直で少し天然若頭とクールで可愛い歌手 哀歌 奏 @AkatsukiRito
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