第3話 そして若頭はサラの存在を知る
籐香組若頭 藤堂梓は2つの顔を持っている。裏の顔はヤクザの若頭、表の顔は藤堂コーポレーションと言う急成長を遂げているITグループ企業の代表兼取締役だ。
ある日、藤堂コーポレーションのゲーム部門で新商品を開発した。何年も前から企画していた大型案件だった。当然藤堂コーポレーション全体で力を入れて取り組んでいる。
そのゲームは最新AIを導入したRPGゲームだった。どうしたらより多くの人にゲームをしてもらえるだろうと社員が頭を捻った。そして出た案がストーリー事に主題歌をつけることだった。その採用歌手にも頭を捻って考えた。そして、採用した歌手は今老若男女に大人気の実力派歌手 サラだった。
そして、社長室にて
「主題歌を歌う歌手が決まったてな」そう将人さんは僕に言った。「はい、無事に決まりました。あのサラなら良い宣伝になること間違いなしです!!」そう僕は力を入れて答えた。将人さんは少し苦笑しながら、「そういえば、お前はサラの大ファンだったな」と言った。そう、何を隠そう僕はサラのコアファンだ。ファンクラブ会員数も一桁だし、ライブにも毎回行っている。そういえば、来週にもライブがある予定だ。僕はそれも今ドキドキして待ち望んでいる。しっかり有給も取ったし。その僕の浮かれた雰囲気を悟ってか将人さんは「そうそう、来週にもライブがあるんだよな」と言った。僕は即座に「そうなんです!!実は今回のライブでは、普段サラがあまり歌わないような切ない曲を中心に歌うらしくて、ライブがあることが発表されてから絶対行こうと思ったんです!!!!でもでも、どのサラもやっぱり可愛くて___________________________________________」
しゃべりだしたら止まらなくて、長々とサラのことを語っていると、将人さんは、どうどうと僕を宥めるような、ジェスチャーをした。その動きに僕ははっとして、顔が瞬間的に熱くなってくる。「すみません!」そう勢いよく礼をして謝ると、「いやいや、いいよ。それだけ好きなのか。そうだなー。」そう言って将人さんは急に思案しだした。僕は不思議に思い、「どうしたんですか?」と声をかけた。すると、「よっし。じゃあ、3人で行くか。そのライブ」と急に顔を上げて言った。僕はその言葉に目をパチクリさせる。「3人でって、若頭もですか?」その僕の問いに「ああ。新作ゲームの主題歌の歌手として採用したし、一回実力を生で見てみたかったんだ。それには、梓にも審査的なことをしてもらったほうがいいだろう?」と満面の笑みで言った。「いやいや、でもチケットはどうするんですか?もう抽選終わりましたけど」いろいろ突っ込むべき点を僕が聞く。でも将人さんの表情は変わらず、「ははっ。そこら辺はどうにでもなるよ。藤堂の力を使えば。」権力か。大きな権力を使うのか。もう、この人たちはっ!!ファンからしたら許すまじ行為だ。ただ、今の僕は籐香組の若頭側近だ。一番敬うべき相手にそんなことを言えるはずがない。僕はため息をつき、初めてのライブに行くことにそれとなくソワソワしている若頭とそれを見てニマニマしている将人さんを遠い目をして眺めていた。
ライブ当日
「人が多い.......吐きそう」
「ここが、ライブ会場か。初めて来たなあ。何気に」
「少しはおとなしくしといてくださいっ!!」
ライブ当日になり、朝の僕のテンションはMaxになったがそれを下げる原因が2人いたことに気付いてしまった。その2人は言わずもがな、若頭と将人さんである。
せっかくライブ会場に着き意気揚々とし受付に行こうとすると、若頭は人の多さにダウンする。将人さんは興味深そうに会場のあちらこちらを観察しまくっているし。2人の美形っぷりに人に絡まれるし、疲れてしまってテンションダダ下がりになる。それでも何とか受付を済ませ、特等席に座る。ちなみに僕が当たったチケットでは、普通の一般席だったのに藤堂の権力を使い特等席に座ることができた。そこだけは2人に感謝感謝。
何十分か時間が経ち、ようやく始まりのアナウンスが聞こえだす。そして、サラがステージに上がる。そのオーラに美しさに会場中誰もが息を呑む。ふと、隣に座る若頭を見れば、皆と同様に息を呑み、サラに目が引き付けられている。僕はそんな若頭に驚き、目を見開いた。その隣に座る将人さんも目を見開いている。だって若頭は誰かに関心を持ち、こんなに目を引き付けられている姿を見たことがなかったから。昔からの付き合いの将人さんでさえこんなにも驚いているということはきっと幼いころからそうだったのだろう。
そしてサラが歌いだす。儚くも芯の通っている声で、実力派歌手と言わしめるだけある。歌う曲も切なく、誰もが静かに聞いている。歌が終わり、僕はふと頬に雫が伝った。それは僕だけではないようで、会場中ですすり泣く声があちこちから聞こえる。短くも濃い時間が過ぎ去っていった。横に座る若頭はいつもと変わらずの無表情だったけど、その瞳だけはいつもと違う熱が灯っていた。
あれから数週間経ち、今、僕の眼前にはあのサラがいる。いや、戸惑うサラとその手を握って熱っぽくサラを見つめる若頭と言ったほうが正しい。どうしてこうなったのか。それを説明することは僕からは少し難しい。僕がサラだったら気を失うだろう。
そんな2人を見て、僕はひっそりとため息をついた。
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