第22話 心から、ありがとう。
※裸シーンあり(性描写なし・ただの裸体) 苦手な方はご注意下さい※
「さあお城で捌くよ~!?」
「あ、……はい。」
モンチはバラバラになり城に運ばれた。
青年は翼を二つ渡され、もう真っ白だった。
とにもかくにも狩りは成功し、アップル達は意気揚々と凱旋した。
どうやらモンチに棄てる部位は無く、足は出汁取りに。翼は羽と肉と分けて使用し、胴も綺麗に食べられるらしかった。
城に着き調理を教えると言われたのだが、青年は具合が悪く休ませてもらうことに。
するとチェリーは心配そうに青年の頬に手を添えた。
「顔色悪いもんね、大丈夫?」
「!」
青年はにっこり笑い大丈夫と答え、厨房を後にした。
(ひぇぇ。現代人にはキツイよ…。
でも今だって、誰かが肉を捌いてくれて。それで俺達は飯食ってたんだもんな。)
『恵まれていた』と改めて実感した。
昔の人間はこうやって狩りをして家族を養っていたんだから、素直に尊敬した。
だがそれにしたって肉体的にも精神的にも疲労困憊だ。
城には大浴場があるので先ずは風呂に入り体を清め、そして服を着替え休もうと思った。
翼から滴った血で服と体が汚れてしまい、気持ちが悪いのだ。
(…そういえばあいつ、なんで。)
大浴場の扉を開けた時、ふと思い出してしまった。
マグダラは明らかに自分を助けた。
放っておけば彼の望む通り青年は死んでいたかもしれないのに。
「……なんなんだよ。」
「…無粋な奴だな。」
「!!」
余程疲労していたのだろう。
青年はマグダラが居たと気付かず脱衣場に入り、あまつ一人言まで喋ってしまった。
マグダラもこれから風呂に入るのか、全裸だった。
青年は思わず『ごめん!?』と謝ったが、マグダラは何も返さずスタスタと浴場の中へ行ってしまった。
(ビッックリしたあ!? …スタイル良すぎ。)
出直すかとも悩んだが、服と体が汚れたままでは気が休まらないので青年はしぶしぶ服を脱いだ。
さっき明らかに助けられた分余計に気まずかったが、どうしようもなかった。
ソロ~…
恐る恐る浴場に入ると、マグダラがバスタブの中で体を洗っていた。
この大浴場には温泉かけ流しと思われる大きな風呂と、体を洗う為のバスタブがあった。
先ずは泡が立つバスタブの湯に浸かり体を洗い、大きな風呂に入り体を温めるのだ。
この泡が何で作られているのか、何故この様な様式なのかは青年は知らなかった。
「暫し待て直ぐに終わる。」
「あ、…うん。」
「…そこの棚に小瓶が入っている。
それを服の汚れに浸けておけ。」
「……棚。」
指差された先を見てみると、棚が。
開けてみると確かに小瓶が入っていて、中にはサラサラの油のような液体が入っていた。
言われた通り服の汚れに液を滴し浸けると、丁度マグダラがバスタブから出てきた。
「…出来たか?」
「少しは隠せよアンタはぁ。」
「?」
泡を滴しながら堂々と全裸披露するマグダラについ呆れてそう溢すと、マグダラは不思議そうに首を傾げ青年が腰に巻いているタオルで目を止めた。
「…何故体を拭く物を今身に着ける。」
「現代人はこうすんの。…まあ人によるけど。」
「? …?? 本当に訳が分からん。」
「股間プラプラがハズイってことだよ!?」
「……そうか?」
堂々と腰に手を突いたマグダラに苦笑いしながら目線を上げると、立派なイチモツが目に飛び込んできた。
途端に青年は顔をひしゃげさせ、苛つきを露にした。
「御立派で。」 (それじゃ隠さねえわな。)
「?」
マグダラは『意味の分からんことを』とでもいいたげに肩をすくめると、大きな風呂にザブリと入った。
日本人なので泡を流さずに湯船に浸かるこの行動はかなり気になるが、ここではこれが通常で、お湯は常に入れ替わるらしく清潔なままだそうだ。
事実この風呂の入り方を実行し数日経過したが、肌が荒れたりは全くなかった。
むしろ何故か、肌はスベスベになってきていた。
…ザバ。 ザバ!
かなり気まずかったが、温泉が流れる音と青年が体を洗う音でなんとか間が持った。
チラチラとマグダラを盗み見ていると、彼はたまに温泉に頭も浸けていた。
時々角の先まで綺麗にお湯の中に消えていくので、青年は少し笑ってしまった。
ザバ!
「……入るぞ。」
「勝手にしろ。」
体を洗う間に居なくなってくれればと願ったが、マグダラは長湯なのか居なくなってはくれず、青年はしぶしぶ同じ湯に浸かるしかなかった。
広いのだけが気休めだった。
(……きまず。)
これは流石に気まずさの限界だった。
髪の泡を流すために両手で何度もお湯をすくいかけたが、それももう限界だ。
またマグダラを盗み見ると、彼はじっと目を閉じていた。
(……聞いて…みるか。)
青年は意を決して何故助けてくれたのかを訊いてみることに。
口を開けば嫌味を言われるので構えつつも、声をかけた。
「…なあ。」
「…なんだ。」
「なんでさっき、その、…助けたんだよ。」
「……」
「お前が来なきゃ、…望み通り俺は死んでたろ。」
マグダラはそっと目を開け、背凭れにしていた風呂の枠取りに腕を乗せた。
「…私には皆の状態が分かる。」
「…ん?」
「あの時、皆の激しい動揺と死を感じた。
だから間に入っただけだ。」
「…?」
青年のハテナ顔にマグダラは微かに眉を上げ、軽く宙を見つめ思考し再度口を開いた。
「私にはここの皆の現在地や心が分かるのだ。」
「!」
「普段は気に止めんがな。意識を向ければすぐに分かる。
だが彼等の心が激しく波打ったり、死を感じる程の境遇に陥ると、勝手に私の意識がそちらを向くのだ。
…貴様等の言葉を借りるなら、『ピンチが伝わってくる』…と言った感じか。」
「…なんで、俺も。」
マグダラはチラリと青年と目を合わせると、「さあな?」と顔を逸らした。
青年は微弱な違和感を感じたが、それ以上掘るのは止めた。
(もしかしたらアップルも危なかったし、アップルを助けたら必然的に俺も助けられたのかもな。)
「……人間。」
「…なんだよ。」
「貴様に家族はいるのか?」
「…!」
青年はぐっと口を縛り、『いるよ』と小さく返した。
マグダラはじっと青年の顔を見つめると、『そうか』とだけ呟き、立ち上がった。
その左胸に不思議な形のタトゥーがあるのが見えて、青年はついじっと見てしまった。
…あれ。なんか変な感じがする。
そのタトゥーに妙な胸のザワつきを覚えた。
ザバ…
「…今夜私の部屋に来い。」
「は?」
「ディナーの後にだ。…お前に仕事を任せたい。」
「…分かったよ。」
よく分からないまま会話はそこで終了し、マグダラは浴場を後にした。
青年は顔の下半分を湯に浸けブクブクと泡を出し、どんな仕事を任されるのやらとうんざりと風呂を出た。
そしてディナーとなった。
何故なのか、青年はマグダラと朝夕と常に食事を共にしていた。
「ほらヨワッチが頑張ったモンチ!」
「……そうでしたねぇ?」
思い出したくなかったが、それはそれ、これはこれだ。
メロンはフヨフヨと浮きながらマグダラの前に料理を起き、ギュッとマグダラに抱きついた。
「マグダラ様のお陰で捕れた~!」
「いいやお前達の奮闘故だ。」
「ありがとうなの~!」
「…ん。いつもありがとう?」
こんなやり取りを見せ付けられると、余計に家が恋しくなった。
そして罪悪感と後悔に苛まれた。
「…頂きます。」
…パク。
彼等はいつもこうしてお礼を言い合い、労い合っている。
それは食料を調達し、調理をしてくれたことに毎回ちゃんと感謝しているからだ。
朝ごはんと夜ごはんの度にちゃんとこうしてお礼をして、笑い合って。
お互いに大切だと伝え合って。
…叔母さんは狩りなんてしないし、叔父さんだってしない。
けれど叔父さんは毎日遅くまで働いて、叔母さんは毎日ご飯を作ってくれた。
形は違えど、それは同じ営みな筈だ。
それなのに俺は、…ちゃんとお礼をしていたか?
どっかで当たり前だと思っていなかったか…?
自分で狩りに出て、初めて知った。
『朝起きたらご飯が出てきて、お弁当を持たせてくれて、そして家に帰ったら夜ごはんができていて』という俺の当たり前が、どんどけ…どんっだけ有難いことだったのか。
…パク。
「…美味しいよ?、ありがと!」
「うふふ~♪」
「ヨワッチのモンチ記念ですから~!」
「はは!、俺は何もしてないけどね。
…チェリーはもしかして、力持ちなの?」
「そう!、ワタシは一番力持ちなんだよっ?」
「だから狩りの要なんです~!」
「スゲーじゃん!」
「うふふっ♪」
叔母さんはきっと、こう言うだろう。
『これは私の仕事なんだから』と。
…そうなのかもしれない。叔父さんは外に稼ぎに出て、叔母さんは家庭を守るという仕事をしているのかもしれない。
けれどそれもやはり、当たり前なんかじゃないんだ。
だから俺に出来ることはきっと、こうやって心からの感謝を伝えることだったんじゃないか。
…お礼を言われて嬉しくない人なんか、きっと居ないんだから。
チェリーを褒め笑う青年の顔を、マグダラはじっと見ていた。
そしてふと微笑み、小さく小さく囁いた。
「……本当においしいよ。」
○ マグダラ様の裸体とか…美術品的な美しさがありそうですよね!?
こう…太い筋肉でなく、だからといって若い体でなく、こう…固い?、引き締まった筋肉?的な!
しかも左胸にタトゥーとか! 色気の権化!!!
…あれ? 真面目な話で締めた筈なのに。
もし良ければ★フォローいただけると大変励みになります♪
ポチっとだけよろしくお願いします☆
これからもファンタジナをよろしくお願いします♪
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます