第19話 ボクらと同じなの…?

この世界に女性として生を受けた人は、どんな生涯を送ったんだろう。




『この世界に女性として形を持ったのはただの一人だけ。…… …私という存在が男なことでこの者達の姿が男に寄ったのはあるかもしれんがな?』




…そして、この世界に男性として生を受けたのはマグダラだけ。


そんな男女が共に居たなら…、やっぱり互いを求めてしまうんじゃ。


そんな考えこそが矮小…なんだろうか。




『生き延びたのは私と洞窟に籠った者だけだった!』




核の爆心地に居ながら、マグダラは生き残った。

性別の話もそうだが、やはりマグダラはこの世界では特別な存在なんじゃ…?


そして女性は今、ここに居ない。




『ほらお父さん、お弁当?』


『ありがとう。』




…『愛』。

口にするのはこっぱずかしいが、確かにあるのを知っている。

幼少期の記憶が強く教えてくるんだ。

『俺は愛されていたよ』って。

優しい瞳が、叱られた記憶がそれを本物の愛だと知らしめてくるんだ。


でも俺は愛を貰った記憶こそあれど、ちゃんと誰かを愛せた自信は無い。

先ず愛について語る事が恥ずかしい時点で…、俺はまだまだ未熟なんじゃないかと。


…恋愛ならした。中学の時に。

好きだったけど…付き合ったけど、結局駄目だった。

小さな事で何度も喧嘩して、しまいにゃお互いにうんざりして。


…それもちゃんとした愛なのか?

愛とは決して美しいだけのものじゃないだろうし。


…いや、違う。

元々俺はちゃんと大好きだったし、無条件なものを感じてた。

その愛を歪めてしまったのは……心だ。

自分の思い通りにならなかったり、予想外の事をされたり。それを全部相手のせいにしたり。

そうして元の形を失ってしまうから、話がややこしくなるんだろう。


…愛っていうのはきっと、もっと純粋で。

きっと思いやりってやつが、愛なんじゃ。




『いつでも何をしていても相手を尊重し受け入れることが愛だと、僕は思う。』




彼方は、そう言っていた。


……そう。

相手の姿に囚われず、いつでも思いやり、尊重し、包み込むように抱きしめる……


それこそ……マグダラだ。




『できればどうか孤独にならぬよう、愛を込め、両腕でしっかりと抱いてやってくれ。』




…愛だった。 本物の愛だった。


直感したんだ。

あの思いやりに溢れた声、言葉、雰囲気こそが、あれこそが愛だと。


…あんなに嫌味ったらしいあいつが、あんなに優しい顔をするなんて。


俺は『この男こそ愛に溢れている』という事実を直視出来ず、目を逸らしたんだ。

…憎むべき敵だから。敵な筈だから。…と。


そんなの、一度直視してしまったなら忘れられる筈がないのに。

臭い物に蓋をするのと同じなんだから。

真実はいつだって、隠されたってそこに在る。




『私は一度もたらされた物ならば再現する事が出来る。』




…なあ? …だったらなんで。

なんで…、核を地球に落とさなかったんだ。


人類を皆殺し…なんて、口で言っても大変な労力の筈だ。

星の数程…なのかは分からないけど、とんでもない数の人間が生きてるんだから。


それを一人一人、握り潰す気だったのか…?




『分からない。…お前が、分からない。』







「ヨワッチ!」


「…!」


「起きるのー!、ほらぁ~!?」


「………」



 高い声とプニプニとした感触が頬に当たり、青年は目が覚めた。

寝惚け眼でニマリと笑うと、青年はアップルをガバッと腕に包みぎゅーっと抱きしめた。

その抱き心地たるやムチムチプニプニで…言葉にならなかった。

そしてアップルを抱えたままバタンと寝返りを打つとモフッとメロンの体毛に顔が埋まり、たまらずにモフモフスリスリした。

メロンは体毛に顔を埋められているのに、クークーと眠り続けていた。

まるで枕元で眠る猫のように。



「ヤッベー超気持ちい~!」


「キャハハ!、ダメなの~起きるの~♪」


「いーやーだ~♪」



 昨夜、青年は彼らを誘った。

『一緒に寝る?』と照れながら問いかけると、二人は子供のようにはしゃぎ喜んだ。



『いいのー!?』


『ヨワッチはマグダラ様と同じで温かいから嬉しいです~!』



 だがチェリーは一緒に眠らなかった。

なんだか仲間外れのようになってしまうし、一緒に寝たそうにしているのに断るので理由を聞いてみると、『危ないから』と彼は答えた。



『ワタシ…鱗固いから。』


『!』


『四人だと狭いし……危ないから。』



 この言葉を聞いた瞬間、『まただ』と青年は思った。これこそが愛だと。

まだ知り合ったばかりの自分を傷付けぬよう気遣うその姿は、無条件で涙を誘うものがあった。



『…じゃあ、また今度一緒に寝てくれる?』


『!』


『二人で。…それに考えがあるんだ。

鱗で怪我しないようにしてみる。

それだったら、一緒に寝てくれる?』



 チェリーはパアッと笑い、大きく『うん!』と頷いた。

それだけで何故か青年は泣きたくなった。


 そして一夜開け、今日は狩りと調理を学ぶのだが、青年は二人の余りの気持ちよさにぐずってしまった。


アップルは嬉しそうにしつつも困り、ペチペチと青年の頬を叩いた。



「早く行かなきゃなのです~!」


「…今何時?」


「…なんじ??」


(あっと、時計の概念は無かったのか。)


「…夜明け前?」


「そうだよー?」



『ヨワッチはたまに変なこと言うね~?』…と言われ少々ドキッとしてしまった青年。

だがアップルは特に気にしていないのか、手を伸ばしユサユサとメロンを揺すった。

メロンは眠そうにあくびをしながらもスッと起き、パタパタと部屋を飛び回った。



「……今日はとってもイイカンジ~♪」


「…羽ならし?」


「そう!」



 青年も笑いながら起きた。

こんなに気持ちの良い朝は久しぶりだった。





「………変なコ。」



 飛び回るメロンとおいかけっこをする青年を見つめ、アップルは小さく小さく囁いた。


心に沸き上がる妙な愛情は、マグダラに対する特別な愛とも仲間に対する愛とも別な気がした。



「……」



…ねえヨワッチ?


ヨワッチは、本当に……

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