第18話 今朝のお供に肩揺らし

「こ……のっ、クソショタ野郎ッ!!?」


「…?」



 青年は青ざめながらメロンを更にギュッと抱きしめ、激しく動揺しながら嫌悪を剥き出しにした。



「聞いたぞこの子達に!?」


「…城仕事をか?」


「チゲーよクソショタ!?」


「……さっきから一体何なのだ。」



 青年が怒鳴る度に宙ぶらりんのアップルが揺れ、彼は楽しそうに騒いだ。

…その笑い声と青年の温度差たるや。



「もっとブーンてして~!」


「こんなっ可愛くて純朴な子達に…っ、恥ずかしくねえのかテメエは!?」


「だから何の話なのだ。…良かったなアップル?

遊具としてもこき使ってやれ?」


「とぼけんなッ!!

…まさか、そんな意味だったなんて!!」


「?」



『マグダラ様の今朝のお供はひ弱そうです~!』



「『今朝のお供』ってそういう意味かよ💢!?」


「…?」


「しかも…男同士で!、こんな可愛い子達を夜毎ベッドに誘うとか…マジで殺す!!」



 マグダラは眉を上げ首を傾げていたのだが、ふと『うーん?』という顔で宙を見上げた。

そして立ち上がり青年の前まで歩み、ヒョイッとアップルを腕に抱いた。

彼がアップルを抱く姿は、まるで小さな子供をあやしているようだった。



「…なにか、勘違いをしてないか?」


「何がだよッ!?」


「先ず、我々に人間のような本能も概念も無い。」


「…ん!?」



 マグダラは嬉しそうにキャッキャと騒ぐアップルの頬を指先で撫で、テーブルに寄りかかった。



「人間には生まれた時から明確な性別があり、生殖本能故に異性を性対象としているようだが…、この子等にはそもそも性別など無く、そもそも性欲を知らん。」


「…!」


「この世界に女性として形を持ったのはただの一人だけ。…… …私という存在が男なことでこの者達の姿が男に寄ったのはあるかもしれんがな?」


「………」


「…して、貴様も先に述べていた通り?、この者達は純朴でとても可愛らしい。

懐っこく、ひんやりとして柔らかく、とても手に優しいだろう?」



『故に?』…とマグダラは口角を上げた。

そのいやらしい嘲笑を見た瞬間、青年はサーっと血の気を引かせた。



「『ただ一緒に眠ること』を…?、『一夜を共にする』と呼ぶのだ。」


(アアアアアアアアッ!!!)


「勿論私はこの者達を心から愛している。

故にこの腕にしっかりと抱き、そして彼らも私をしっかりと抱いてくれる。」


(死にたいッ…!!!)


「……悪かったな期待に沿えずに?」



『汚れてたのは俺だった…!!!』と四つん這いに崩れた青年。

 その落ち込みようにマグダラは手で口元を隠しクックと笑った。



「その様な妄想はお前の得手か…?

それとも多感というやつか…?」


「ウルセエな悪かったよ!?」


「フッ!」




……あれ?




「…………」


「…お話終わった?」


「どうかしたのかメロン?」


「あの…ね、…お皿、壊しちゃった……です。」


「…そうだったのか。気にするな?」




彼らには性別が無く、それ故に性欲も無いという。


…だったらなんでマグダラは、俺が言いたかった事を理解できたんだ…?


性欲があって性行を経験してるから…、俺の言いたかったことがピンときたんじゃないのか…?




「………」


「ほら、メロン?」


「わーい!!」



バッ!



 メロンが腕の中から飛び立ち、ハッと青年の意識は戻ってきた。

顔を上げてみると、メロンが割ってしまった皿と同じ皿を持って万歳していた。



「…え?」


「わーいありがとうマグダラ様~!」


「また落として壊すなよ?」



『どういうことだ?』…と青年が愕然としていると、お皿に喜ぶメロンとアップルはさっさと厨房に入っていった。


 マグダラは四つん這いのまま眉を寄せる青年に、腕を組みながら話した。



「言っていなかったかもしれんが、このファンタジナでは同じ物は創造されん。」


「…え?」


「以前誰かが願い具現化した物は、もう二度と具現化されんのだ。

…早い者勝ち、と言えば分かりやすいか?」


「…で、でも、同じだけどデザイン違いとかは。」


「その程度の差は差と認識されないようでな?

だが機能の無い物ならば形違いも具現化する。」



 機能がある物とは、鋏やスプーンなどの具体的な用途がある物を差し、機能の無い物とは机やテーブル、椅子などを差すらしい。


だがマグダラにもそのボーダーはいまいち分からないそうだ。



「そして私は、一度この世界にもたらされた物ならば再現する事が出来る。」


「!、だから皿が…?」


「彼らにとって、…宝物だからな。」


「…!」



 優しく溢された笑顔に、青年は顔を背けた。


 マグダラは組んでいた手をほどくと、右手を上向きにし不思議そうに宙を眺めた。



「人口も想像も増えた昨今、ここに具現化出来るのは相当強く願われた創造物だけだ。

…まあ今は結界を張っているので何が出てきているのかなど知りはせんがな?」


「…そうなのか。」


「ああ。どちらかと言えば貴様等は今、物作りよりも変身願望の方が強いのではないか?」


「!」



 かなり驚きマグダラと目を合わせると、『やはりか』と呟きマグダラは口に手を添えた。



「アップル達は…、ここでの人間のような立ち位置なのだ。」


「…ん!?」


「人間の写し身…と言う方が分かりやすいか?

昨今彼らの容姿が頻繁に変化するのは、『人と何かのかけあい』、つまりはキメラのような存在を人間が強く想像しているからだ、…と思われる。

もしくは『こうなりたい』…と、空想生物に己を投影したりな。

ただ脳内で新種の生物を想像したところでそれらが生まれ来るだけで、彼らの容姿には影響せんのだ。

彼らの容姿に影響するとはつまり、人間が己を何かに投影するから起こり得るのだ。」


「…………」


「…しかし彼らはな、いつだってそれを楽しんでいる。」


「…!」


「泉を封じてしまったせいで、彼らは心にとても大きな隙間を負ってしまった。

…故にとても寂しがるのだ。

泉からもたらされるのが夜であったのも大きいだろう。」


「…そうだったのか。」



 マグダラはふと青年と目を合わせ、漆黒の瞳をそっと細めた。



「ありがとう。」


「…!!」


「彼らの体温は低い。故に私の体温はとても心地良いらしいのだ。

それはきっと、お前も同じだろう。」


「………」




…このお礼は、本物だ。




「もし良ければ、彼らと寝てやってくれ。

できれば孤独にならぬよう、愛を込め、両腕でしっかりと抱いてやってくれ。」




………




「……では私は部屋に戻る。」




 青年は動けなかった。


マグダラという存在が。

この世界が。アップル達への気持ちがもっと分からなくなり、立ち尽くしてしまった。






◯ 盛大な勘違いでしたね。

勘違いでよかったな本当に。


さて、更なる疑問がふわふわと浮上して参りました。

青年の心もブワンブワン振り回されておりますね。


この世界に女性として形をもった者とマグダラの関係性、気になりますよね~。

…実はここ超重要です。…が、二章までその存在は謎のままとなります。

引き続きどうぞお楽しみ下さいませ。



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