第17話 お城のお仕事

 今彼らが居るのは厨房だ。

青年からすれば見慣れぬ様式で使い勝手が悪く見えるが、思っていたよりも見覚えのある物が多かった。



「じゃあヨワッチはディスを洗うのです~。」


「……ディッシュ…のこと?」



 皿である。

昨日の朝夕、今朝のご飯…と使って分かっていたが、皿はどう見ても皿だった。

触った感じでは陶器製と思われ、大きさは大小様々で白から鮮やかな色の物までかなりの数が揃っていた。



「…どうやって洗うの?」


「ヨワッチは本当に何も知らないねぇ~?」


「すんません!」



 青年は食器用洗剤でしか食器洗いをした事がない。これは現代人ならば至って普通だろう。

だがしかしここはファンタジナ。日本と比べてかなり原始的な世界だ。

故に教えを乞うと、アップルはウネウネと移動しシンクのように大きく枠取られた一角へ移動した。



「ここにズブズブするの。」


「…エ。」



 そこには何かの草とおぼしき物が大量に敷き詰められていた。

青年はコレの存在に気付いてはいたが、正直生ゴミだと思っていた。


 アップルはこともなげに草の中に使用済みの皿を入れ、タコ足でズブズブと沈めた。



「こうやってズブズブしたら~…」


「……」 (なんかネバってる…!?)


「こうして~…」


ビチョネバ~…


「ここに置くの!」



 草から出たのだろう粘り気を濯ぎもせずに木製の食器立てに置いたアップル。

青年は引き吊りながらも促されるままに草に手を突っ込んだ。



グチョ…



(ひぇぇぇぇぇぇぇ……!)


「そうそう上手ね!」


「…あざ…っす。」



 ネバネバ昆布に手を突っ込んでいるような感触に血の気を引かせながらも、青年は皿を洗い終わった。

『これどうなっちゃうの…?』と、手を濯ぎ皿を見てみると…



ピカピカ!



「……ええ!?」



 ピッカピカになっていた。

太く糸を引いていた粘り気の欠片もなく、全ての食器が清潔感そのものの輝きを纏っていた。


 青年は愕然と口を開け、皿を持ち呟いてしまった。



「驚きの洗浄力。」


「ほら次だよ~?」


「あ、はい!」



 首を傾げながらも、青年はバイトのように仕事を頑張った。


 そしてこの一回で、調理以外の厨房の仕事を殆どマスターした。

簡単にマスター出来た理由は、やはりここの物資が地球産の物だったからだ。



(鍋も包丁も調理の為の火も…薪も、みんな同じだ。

実際に薪なんて使ったことはないけど、ツールとしては知ってるし問題ない。)



 よくよく観察してみると、スポンジや洗剤などの消耗品は無かったが、その他は様式こそ一昔前だが立派な人間文化だった。

シンク、水場、調理台、鍋、包丁、お玉などの道具を、彼らは人間と同じように扱っていたのだ。



(…そっか。洗剤なんて最近だし?

何に使うかの答えまで辿り着けなかったのかも。)



 彼らはかつて人間の創造物を『どうやって使う物なのか紐解く事』を生き甲斐にしていた。

だが誰がその答えを渡せるというのか。

故に、中には用途不明のまま、もしくは間違った使用方法のまま定着した物もあったようだ。



パリン!



 その時嫌な音が背後から聞こえた。

慌てて振り返ると、やはり耳に響いた高い音は食器が割れてしまった音だった。



「ああああっ!!」


「!、待って!!!」



 食器を割ってしまったのはメロンだった。

コウモリ羽で空を飛ぶ、白紫のモフモフの毛が生えたあの子だ。

恐らくは小さな手には重すぎたのだろう。


 食器を割ってしまったショックからか、メロンは慌てて床に下りようとした。

青年は反射的に慌ててメロンを受け止めるように手を伸ばした。



もふ…!



「駄目だよ危ないから!」


(うっわやっぱチョー気持ちいいじゃん!!)


「でもっ!」


「だ、大丈夫だから。…ね?」


「…うぅぅ。」



 メロンは青年の右手にひっしりと抱きつき、つぶらな目を悲しみに潤ませながら割れた食器を見つめた。

だが慰めなければならないのに、青年はメロンの体毛の余りの気持ちよさと小さな手に握られる感触に『たまらん💖!』…と顔を歪めた。



「一緒に寝たい…。」 (大丈夫だよ?)


「??」


「…それ、メロンに夜のお誘い?」


「!?」 (しまった言葉が逆に…!!)


「…僕を誘ってるの?」



 余りの心地好さにバグを起こした青年は、焦りからアップルとメロンの言葉に反応が遅れた。


とにかく割れた食器を片さねばと掃除用具入れを開けた瞬間、『夜のお誘い?』という言葉がやっと心に響いてきた。



バタンガッシャーン!!



「わあっ!?大丈夫!?」


「もう皆して!、大丈夫ヨワッチ~?」



 言葉が脳に到達した直後には青年はホウキを派手に倒してしまった。

その顔は『………』と固まり、目は愕然と見開かれていた。



(…いま、…なんて?)



 心配そうに近寄ってくれたアップルの手をガシッと掴み、背に乗ったメロンをグルンと持ち抱えると、青年は震えながら問いかけた。



「夜のお誘い…って、なに。」


「?」


「一夜を共にすることだよ?」


「そ、それって、……その、…どういう…?」



 青年の震えを理解せぬまま、メロンはキョトンと真ん丸な目で青年を見上げた。



「マグダラ様が抱いてくれるの!」


「そうだよ?、…ヨワッチもしてくれるの?」


(あ、うん。あいつ殺そう。)





バターン!!!



 その光景はマグダラにとって面白すぎる光景だった。



「どうしたヨワッチ…(笑)?」



 右手でアップルの手を掴み宙に浮かせ、左手でメロンをギュッと抱きしめ厨房から出てきた青年に、マグダラは肩を揺らしながら問いかけた。






◯ ええええ!?

…となりますよね。なんにせよファンタジナで食器洗いはしたくないものです。

…お疲れ青年。 ビチョネバ~……



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