第13話 どうしたって言葉が出なかった

ドッ!!!




……気が付けば私は山の中に居た。

一瞬そこで眠ってしまったのか?と、現状が把握できず首を傾げた。

だが直後には我に返り、慌て体を起こした。




『…何故こんな山に。

私は皆と泉に居たはず  …!!』




山から見えた光景に私は目を疑った。

山を超える…空にも届きそうな程の巨大な雲が、大地から上がっていたのだ。

その雲は丸く、何処までも何処までも膨らんでいった。




『あの雲の辺りは… …』




地形でしか判断出来なかったが、雲は泉の一帯を丸々飲み込んでいた。

いや、そんな規模ではない。

この小惑星のおよそ1/3を飲み込んでいた。




「…………」



 青年は愕然と目を大きく開けるしかなかった。

『大きな衝撃、そして丸い雲』。

その特徴を充たす人類の発明は…



「……核。」


「ああそうだ。」



 人類史上最恐最悪の発明、核。

その破壊力を知らぬ人類は居ないだろう。


そしてそんな物がここで爆発してしまったのなら…

その被害は想像の範疇を超える気がした。


 グッと口を縛り顔を伏せた青年に、マグダラはザラザラと手を錆びさせながら続けた。



「核というのは放射能という有害物質を放つそうだな?

それはここで爆発した核も然りであった。

だがここは地球ではなくファンタジナ。

故に、目に見える形で変化が起きた。」


「…!」


「…そうだ。」


「……この…紫……は…」


「ああそうだ!」



 マグダラは手を振り乱し辺りを指し示した。

青年はもう聞きたくなく、耳を塞いでしまいたかった。



「この世界をこの様に変貌させたのは、貴様等人間なのだ!」


「っ、」


「あの場に居た者は跡形もなく吹き飛んだ!!

生き残ったのは私と洞窟に籠っていた者だけだった!」


「…」


「私は汚染を食い止めようと核が空けた大穴を力で小さく押し殺した!

だが余りの大きさにそれにも限界があった。

そして更に縮小した穴に毒が湧き始めた!!

それが…この湖だ!!」


「……」


「ハ!、これだけの規模の爆発の中、それでももたらしの泉は生きていたぞ!!

まるでっ、我々に人間の創造の犠牲になれと言わんばかりにな!

私は憤激し!、泉を大地深くに埋めた!!

だが泉は今度は島として毒の沼さえ突き抜けてきた!、それがあの中央の小島だ!!」


「……」


「もう何が出てきてもおかしくはない…あの…悍ましい島を!、貴様等の創造物を!、もう二度と外に出さす為に結界を築き封じ込めた!

それが!、この!、柵なのだ!!!」


「……」


「その後新たに生命がこの星にやってきた。

やはり人と同じ姿となったさ。…だが彼らはすぐに変容した。

人間が可笑しな想像をする度に!、皆の体がねじ曲げられたのだ!!」


「…!」


「貴様等人間は今…一体何を考えているのだ!?

何故人でありながら人ならざるキメラばかりを想像する!?

そんなに異形に憧れながら…!、何故人間同士で肌の色の違い程度で殺し合う…!?」


「……っ…」


「貴様等は完璧な存在なのだ!!

人が想像する物は必ず何処かに存在し、そして形となるのだぞ!

何故そんなに大事な事を全て忘れてしまった…!

何故魂の…愛と調和に基づき生きていけないのだ!

何故、何故…!、何故優しい想像を捨て…、破壊ばかりを創造するのだ…!!」



 余りにも哀しい歴史だった。

余りにも残酷な経緯に感じた。


 マグダラは息を切らせ怒りをぶつけながらもずっと体を朽ちさせていた。

青年への溢れる殺意が止められないからだ。

『こいつさえ殺せれば人間を滅ぼせるのに』と。


だが青年を満たしていたのは恐怖ではなく、虚しさと哀しみだった。



「……先の質問の答えだ人間。

何故私が人間を滅ぼそうとしたのか。」


「…」


「それはな、貴様等人間は奪いすぎた。

故に、責任を取ってもらう。」


「!!」


「貴様等はもう宇宙の為にならん。

この宇宙にとって唯一必要なもの、『愛』。

それさえ捨て去った貴様等に、もう生きる資格などない。」



 青年は『は?』…と微かに声を漏らした。

その顔は愕然としていたが、内側ではチリッ…と怒りの炎が灯された。



「…責任なんて、取りようが」


「だから殺すしかないのだ。」


「……は、いや、…」


「貴様等は醜く野蛮で矮小で救いようがない。」


「っ、……だからって!?、人類皆殺しなんて」


「貴様等人間の咎であろう!?」


「ツ…!!」



 青年を堪え難い怒りが包んだ。

気が付けば彼は怒りのままに口を開いていた。



「フザケんなよ!?、核も大砲も銃も!?そんなん作った奴はとっくに死んでんだぞ!!

それなのに現代の人間に責任を取れってのかよ!?、言いがかりにも程があんだろ!!」


「また…醜い事を。」


「アアッ!?」


「貴様等はいつもそうだ。

罪を言及された時ばかり責任逃れに他者を差し出す。」


「だから…違えよ!?、それが事実なんだよ!!

大概の人間がそんな武器だの兵器だのとは無関係に生きてんだよ!?

皆な!?、自分の人生生きてくのに精一杯なんだよ!?、なんでそれを昔の人間の発明なんかで奪われなきゃなんねえんだッ!?」


「…貴様等は個人主義、だと?」


「ああそうだよ当たり前だろ!!!」


「では問うが、貴様等は国という概念の命令など聞かぬ。…と?」


「…ハ!?」


「政府や社会…とも呼んでいたか。

それらの命令が意にそぐわぬのなら、個人で拒否し、生きていけるのか?」


「…!」




…生きていけない。

どんなに反発しても、決められたことには逆らえない。

消費税にしても…、国の方針というものに関して、どれだけ反対しても、どんな無茶振りだとしても、国が決定した事には否応なしに従うしかない。




「…それ…は、」


「では貴様等は社会主義ではないか!

だとしたなら責任は全員にあるだろう!」


「でも!?、皆本当は」


「貴様も国に従いたくない一人だと?

だとしたならば国と戦ったか?」


「た!、戦いようがないだろ!?」


「何故だ。個人主義だと言うのなら平然と戦い、己を主張すべきだろう。」


「ッ…」


「当ててやろうな人間。

貴様等は政府だの社会だの国だのという正体さえ曖昧な概念には容赦なく責任を突き付け対価を求める癖に、その責任の矛先が個人になった途端に逃げ出すのだ。

それなのに己の身一つで生き抜いていけるような顔をし、主張する。…が、実際には何に楯突くことも己の為に戦う事も出来ぬ臆病者だ。

ホラ吹きなのだ貴様等は。

常に己以外に責任転嫁をし自我を保っているに過ぎない。」


「……っ」


「社会には責任を求める癖に、社会からの責任は拒否をする。

…社会主義と個人主義、どちらなのだ貴様等は。」


「……」


「それは範囲を大きくしても同じ事。

『地球を救おう』などという前向きな風には人間として立ち向かう癖に、『では地球を壊したのは誰か』と問われれば途端に顔を背ける。

貴様等は人間だろう?、人間なのだろう?

だとしたならば迷わず手を上げるべきであろう。」


「……」


「私の求める責任がそれだ。

人間は人間の創造の責任により死滅するのだ。

…何が個人主義だ。

片腹痛い主張は個人主義を通してから言え。

戦いもせずに流されるだけの、社会主義者が。」


「…っ、」


「貴様等人間の創造は……醜い!!

我々はもう二度と貴様等の創造の犠牲にはならない!!」




…何故だろう。

こんなボロクソ言われてるのに。

滅茶苦茶な要求をされているのに、本当にムカつくのに……




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