第12話 乾いた音から…

チャプン!


『『『わあああっ!!』』』




その日もまた、泉から人の創造がもたらされた。

泉の周りには数え切れない程のファンタジナの住民が集まっていた。


この頃泉の一帯には人間の創造物が溢れていた。

中に椅子が並んだ大きな固い箱や、火をつけると燃え続ける不思議な黒い物…など、数え切れない物が草花と共に並んでいた。

それらが列車や石炭という物であるのは、後程知った。

人の創造物が散らばるその光景は、我々にとっては大変喜ばしいものであった。

『たからもの』と、この一帯を呼ぶ程に。


 そして今日はかなりコンパクトな物がもたらされた。

私の掌にギリギリ収まるような、ひんやりと冷たく、細長くカコンと曲がった物だった。




『これなんだろぉ!』


『ヘンなの~ヘンなの~!』


『お前達…気を付けろ?

また怪我をするかもしれんからな…?』




怪我も病気も学びの内。…ではあるが、他者を心配しなくて良いという事にはならない。

『もし負ってしまったならそれも学び』なだけで、怪我をしそうな状態を放置容認していいわけではない。

だから私は皆に『慎重に』と諭した。

だが皆は『分かってるよ~?』と呑気に、いつも通り瞳をキラキラと輝かせていた。




『ボクはお洋服がよかったのに~。』


『ハハ!、すまないな?

私にしか合わんサイズだったからな。

きっと次があるさ?』


『ワタシもつまんなーい!』


『そうふてくされるな?、次があるさ?』




物によってはこうして興味から外れる者が居た。

彼らはむすくれながらその場を後にしたが…。




『カチャカチャ鳴っておもしろーい!』


『ボクもボクも! …本当だ~!

あ、ここ動くよ~?』




大多数がその場に残り、こうしてもたらしを楽しんだ。

私は少しヒヤヒヤしつつも彼らを見守り、踵を返した。

きっと暫くすれば『こんなことが出来たよ~!』『みてみて~!』…と、謎を解き明かした者達がこぞって説明に来るだろうと。

私はその時を待つべく、部屋に戻ろうとしたのだ。




パン!




……だが、乾いた妙な音に私の歩みは止まった。




ドサッ…




振り向いた私の目に飛び込んできたのは、首から血を流し倒れた者と…




『……え?』




愕然と目を大きくする、もたらしを持つ者の顔だった。




「…!」 (…まさか。)


「…お前なら、それが何だったのかが分かるのではないか?」



 それは銃だった。

首を撃たれてしまった者は、どうにもならず亡くなってしまったそうだ。

そして誤って撃ってしまった者は酷いトラウマを抱え、鬱状態になり遠くの洞窟に籠ってしまったらしい。


 マグダラは微かに眉を寄せながら、おどろおどろしい黒紫の湖を囲う柵に触れ、項垂れた。



「それでも…、ここにとって人の創造物は喜び。

全ての経験は学び。

…私はこの世界にもたらされた死を、『これも一つの学びだ』と諭すしかなかった。」


「……」


「来る日も来る日も、…それは気の遠くなる程の年月を諭しに…、かの者の心の癒しに費やした。

だがその間にも当然泉からは次々と創造物が。

…私は迷った。もう禁じるべきなのではと。

危険すぎる故に遠ざけるべきなのではと。

…だが、もし禁じてしまったのなら…ここの者達は何を心の糧に生きればいい…?

唯一の喜びを奪ってまで繋ぐ命に意味があるのかと。

…分からなかった。答えが出せなかった。」


「……」



 苦悶を浮かべ、マグダラは爪の長い手で柵を強く握った。

その瞬間彼から一切の苦悶が消失し、青年に向け続けた鋭い憎悪を全身から発した。



「……だから、いけなかったのだ。」


「……」


「私がそうやってうだうだと悩み、決断を先延ばしにしたから。」


「……」


「だから、…あんな、ことに。」



ザラ…



「…!」


「それは火に近付けただけで大爆発を起こした。

それは触れただけで痙攣を引き起こし、殺した。」


「…っ、」


「それは勝手に空気に溶け、何人もの命を一瞬の内に拐っていった!」


「…」


「それはあの銃よりはるかに大きく!

轟音を立てながら何人もを凪払った!!」




ダイナマイト、毒、神経ガス、大砲。

数え切れない者達が、人間の創造物によって命を落とした。


そして、その日は来てしまったのだ。




『今日は何がくるだろぅ~♪』


『たのしみだねぇ~?』


『………』




もう私は楽しめなかった。

毎日が生きた心地のせぬ日々だ。

だが皆は『死も学び』という理念をしっかりと理解していた。…故に、何度傷付いたとしても創造物を、人を愛し続けた。




チャプン…




『っ、』


『わーい!』


『…ふしぎだね~!、なんだろねぇ~?』




泉から円柱の創造物が飛び出した瞬間だった。




ドッ!!!




それは、本当に一瞬の出来事で。

私は未だ、一体何が起きたのかを理解出来ていない。


ただ、風を感じた。

自然物ではない、人が作り出せるとも思えぬ風だった。


それを『衝撃』と、そう呼ぶというのは、やはり後々知ったことだった。






◯ファンタジナの歴史、いかがでしたでしょうか。

自分的にはかなり重く悲しい過去で、書いているだけで顔がヌーンと沈んでおりました。


さて、泉に出現した円柱の創造物は一体何だったのか。

そしてマグダラが感じた風、衝撃とは何だったのか。

それは次回で明らかになります。

重い内容ではありますが、これもファンタジナにとって大切な歴史ですので、どうかお付き合い頂けると幸いです。


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