第9話 野蛮人だという証拠を。

 青年は自分が殺されないのは確かだと、遠慮なく物申す事を決めた。

只でさえ夢と勘違いするような現実の連続に、これ以上ストレスを溜めてはいられないと結論付けたのだ。


 そして食事を終えた今、冷静になって浮かんできた疑問をぶつけてみることにした。

なんにせよ、これは夢ではないのだから。

様々なリサーチこそが自分を守る糧になると信じた。



「…聞きたいことがあんだけど。」


「なんだ?」


「なんでこんな普通に会話出来てんの?」



 疑問1、言語。

これは抱いて然るべき疑問だった。

青年は普通に日本語を話している自覚があった。

だがここはファンタジナという別の世界だ。

それなのに先の給仕の言葉も普通に理解できたし、気になった。


マグダラは『ああ』…と、忘れていたように眉を上げ答えた。



「私が貴様にここの言葉を植え付けたのだ。」


「……ハ。」


「処理に時間がかかったのかもな?

丸一日も寝られて、そのまま死んでくれればと願ったが、…残念であったな?」



『フザッケんなよ殺すぞ!!!』…と激しく拳をテーブルに落とした青年。

丸一日眠り続けた驚愕の理由、発覚である。



「あーもぉ…マジで死んでくれ。」


「そっくりそのままお返ししよう。」


「優雅に茶しばいてんじゃねえよ💢!?」


「…食後の茶も嗜めぬのか人間は。

まったく、どこまで野蛮なのだか。」


「誘拐先じゃなきゃきっちりしばいてんわ💢!?」


「フン。矮小な貴様等にそんな殊勝な時間を過ごせるとも思えんがな。」


「あーイラつくなあ。」



 次の質問だ。

『ファンタジナとは一体何なのか』。

マグダラは『人間の夢が現実となる場所』と説明してくれたが、それだけでは正直サッパリだった。


マグダラは相も変わらず優雅に茶を嗜み、少々目を吊らせながら顎を上げ、答えた。



「ファンタジナとは、目には見えない地球と対なる小惑星だ。」


「…はい!?」


「お前達の言葉を借りるなら…、別世界、または異世界、または別の星…となるか。」



 マグダラは『後で見せてやろう』とこの話題を打ち切った。

青年は不完全燃焼を感じつつも、仕方なく次の質問に移った。

…これこそ、最大の疑問だった。



「なんで、殺したいんだよ。」


「……」


「それに人を野蛮だの何だの。

…国…惑星?によって文化が違うのなんか当たり前じゃねえのか。

それなのにずっとお前は人間を矮小だの野蛮だのと批判してよ。」


「……」


「放っといてくれればいいだろ。

なんでわざわざ他の惑星の生物を殺したいんだよ。

そっちのがよっぽど野蛮じゃねえのか!」


「……」



 青年が怒りを露にすると、マグダラは肘掛けに頬杖を突き、足を組み、深く息を吐いた。

その目は鋭く青年を捉え続け、青年は殺されないと分かってはいても恐怖を覚えた。



「…確かに?、他の惑星にわざわざ足を踏み入れ殺すのは酷く野蛮な行為だ。」


「っ、分かってんじゃねえかよ!?、だったら」


「だがそれを、お前達人間は続けてきた。」


「…は…。」


「貴様等は血から野蛮だ。

本来の目的を見失い、すぐに他者を攻撃する。」


「ちょ…待てよなんだよそれ!?」


「そして遂にその制裁を受ける時が来たのだ。

ただそれだけの事だろう…?」


「待て…待てって!?」



 青年は勢いよく手を向けてマグダラの言葉を遮った。その息は動揺から荒れていた。



「…俺等が、何を殺した…って?」


「我々だ。」


「…!」


「先に言っただろう。

ここは地球と対なる世界だと。」


「…そんなの、今初めて知ったってのに。

…どうやって人間がここの奴らを殺すってんだよ。」



 マグダラは呆れたように息を吐き、立ち上がった。

そして青年を長い爪先でチョイチョイと呼んだ。



「先の質問に答えよう。」


「……」


「そこに、お前の知るべき答えがある。」




…そこまで言うなら、見てやろうじゃないか。

俺が…俺達人類が……



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る