第8話 魔王で違いない。
青年は微かに首を振ると目の前の料理に目を移した。
マグダラは頬杖を突いたまま、じっと青年を見つめていた。
カチャ…
青年はフォークを手にし、先ずはサラダと思われる物をフォークに刺した。
紫と深緑の分厚くやたら生感のある物に抵抗ならあったが、『腹が減っては戦は出来ぬ』…だ。
ブルブル…
(なんかスゲー揺れてる…!!)
戦意喪失しかけたが、青年はフォークを口に運んだ。
途端に口の中にドロッ…とした感触が溢れ、爽やかな青臭さが鼻を突き抜けた。
チーン…
「……ムリ。」
「ほう。人間にしては度胸があるな。」
「…ハ?」
「それはこうして…」
マグダラは青年が食べた物を、二人の中心に置かれた小さな炎に翳した。
するとみるみる内にいい匂いが漂い、火から離すとそれなりに良い見た目になっていた。
「こうして軽く炙り食すのだ。」
「………」
「…生で、など、……私は食べた事が無い。」
「早く言えよ💢!?」
青年は口直しをしようと水を探したが、見当たらなかった。
するとその心を読んだのか、マグダラは丸いコップを指差した。
「それだ。」
「…ハ!?」
「なんだ。」
「…いや、これ、…飲むの!?」
「そうだが?」
またもや紫の……ではなかった。
マグダラが飲み物と称した液体は深緑のふわふわした藻のような物が浮いていた。
正直、泥水である。
青年は今度こそ無理…と項垂れた。
(泥水すすって生きる覚悟がまだ出来てない。)
「……ハァ。」
マグダラは小さく溜め息を溢すとふと左手をクルリと回した。
すると彼の手にどこからともなく水差しが現れた。
透明な、本物の水だ。
青年は目を大きく開け、コップに注がれる水をじっと見つめた。
コップが満たされるとマグダラは促すように顎を上げた。
青年は恐る恐る一口飲んだが本当に水で、勢いよく飲み干した。
だがそれにしても気になった。
一体どうやって地球の水を手に入れたのかが。
「……どうやって。」
「?、持ってきただけだが?」
「…持ってき…へ?」
こういったものを何と呼ぶか、青年は知っていた。『魔法』だ。
人知を超えた超能力だ。
「…お前、やっぱり魔法が使えるのか。」
「…うん?」
「ここの…ファンタジアの連中は皆、魔法が使えるのか…?」
「……… …ファンタジナだ。」
青年にとっては至って普通の質問に、マグダラはキョトンと首を傾げた。
そして暫し思考し、不思議そうに口を開いた。
「お前達はそのマホウなる物が使えるのか?」
「…え?」
「マホウとは一体何だ?」
「えっ…と、魔法は、…魔力?ってのがあって、それを使う…こと?」
「ほうマリョクとな。それはどういった物なんだ?」
「えっと、MP……ていって、それは個体で持てる量が決まってて…、それが溜まると…なんかすごい魔法が使えたり…する。」
『って!?、なんで俺は本物の魔法使いに魔法について説明してんだ…!?』…と突っ込みを入れた青年。
だがマグダラは人間にさほど詳しくないのか、全てを鵜呑みにして驚いた。
「ほう。…驚いたな。
人間にはそういった能力が無いと認識していたが、案外にもやるではないか。」
(ああ俺のせいで全人類の印象が…!!)
「……して先の質問の答えだが。
私はマホウなど扱えはしない。」
「だからさっきの水を出した力の事だよッ!?」
また限界に達した青年はズバンとマグダラを指差し告げた。
『さっき何も無い空間に水を出したようなのを魔法って人間は呼ぶんだ』と。
するとマグダラは呆れたように眉を寄せ、更にはつまらなそうに鼻で溜め息を溢した。
「ハッ。そうならそうと早く言え。
少し見直してしまったではないか。」
「悪かったなテメーの人間への理解も大概だがなあ💢?」
「まったく。当たり前に説明するから信じてしまったではないか。
貴様、本の読みすぎなのではないのか…?」
「半笑いで言ってんじゃねえよ💢!」
「…そうか。やはり人間は力を扱えないのか。
ならば驚くのも無理はない…か。」
マグダラは今しがた水を出した能力を、シンプルに『力』と称した。
そしてその力を扱うために必要なのが『泉』だと説明した。
「泉とは内なる力の源のことだ。
皆、泉の大きさは違う。
膨大な泉を有する者が居れば、さして持たぬ者も居る。
そして使用可能な力もそれぞれだ。
空を飛ぶことしか出来ぬ者、物を浮かすしか出来ぬ者が居れば、大抵の事を力で行える者も居る。」
(…つまり、魔法は『力』。
MPゲージは『泉』ってことか。
で、魔法には個性がある。…と。
なんだよ。俺の認識と大差ねえじゃねえか。
……呼び方はこっちのが綺麗だけどさ。)
「力を使いすぎる事を『泉が枯れる、枯渇する』と呼び、逆に力を使えるまで回復する事を『泉が満ちる、満たされる』と呼ぶ。」
(魔力切れとチャージみたいな?
…ほんと綺麗な呼び方すんな。
逆にムカつくわなんか。)
マグダラは一通りの説明を終えると食事を再開した。
青年はマグダラの食べ方を真似て食べると決め、手を付けずじっと食事を観察した。
マグダラは見られていても気にせず食べ進んだ。
青年はいつの間にかじっとマグダラの顔や所作を見てしまっていた。
(ほんっ……とに綺麗な顔してんな。
芸能人何人か見てマジで綺麗だと思ったし、彼方も彼方の親父さんもチョー綺麗だと思ってたけど、こいつは歴代一位じゃん。…なんか次元が違う。
…顎はシャープで、首筋が通ってて。
目鼻立ちもスッとしてて…、何よりも、…瞳が。)
奥深く感じた。
浅黒い肌の中にありながら、スッと切れ長な漆黒の瞳は決して色負けせず、品があるせいなのか深みを帯び、主張して感じた。
黒紫の髪の隙間から覗くその瞳見たさに、サラサラな前髪を上に上げたくなる程だ。
妖艶な色気がまた存在感を引き立てて感じた。
「…食べないのか?」
「…忘れてた。」
青年は見た通りに食事を口に運んだ。
…モンチの肉は、思いの外美味だった。
…なんか、意外とどうにかなるかも。
泥水も、少し飲んでみたら意外と普通だった。
なんかのハーブティーみたいな。
…この様子なら食うには困らなそうだし、どうにか生きてはいけそうだ。
…ザラ!
突然頬杖を突いていたマグダラの手から砂が落ち、青年は目をひんむき眉を引き吊らせた。
「おい今、俺を殺そうとしたろ。」
「…食事中に無粋であったな?」
「そうじゃねえだろ殺すなよ💢!!」
「無理を言うな。
そもそもお前は殺される為にここに居るのだから。」
「言ってろコノヤロウ💢!?」
前言撤回。こいつは…
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