第7話 目的も分からず生きるのは、苦痛すぎて。
「人間の夢が…現実となる場所…?」
「そうだ。」
愕然としながら男を見上げると、パチッと目が合ってしまった。
余りに美しい顔に見とれる暇もなく、青年はパッと目を逸らした。
その胸はバクバクと乱れ、荒れていた。
「…驚いただろう。その反応は至って正常なものだ。案ずるな。」
「………」
「とにかく、ここは地球ではない。
…まあ今すぐに全てを話し聞かせてやっても良いが、腹が減ってはなんたら。…だろう?
お前は丸一日眠り続けたんだ。とにかく腹を満たしてからにしてはどうだ?」
また青年は愕然とした。
まさか丸一日眠りこけていたとは思わなかったのだ。
小さく頷くと、男はまた颯爽と歩きだした。
青年は跡に付いていくしかなかった。
広く長い廊下もまた石造りで紫の炎に灯されていた。
だだっ広い食堂に着いたはいいが、青年は何処に座ればいいのか分からず立ち尽くした。
まるでそこは貴族の食堂のようで、長い長いテーブルに無数に椅子が置かれていたのだ。
奥には数段の階段と一壁面の窓に囲まれた空間もあり、かなり広い食堂だった。
(…テーブルクロスは深い紫色。椅子とテーブルはなんか、豪華なアンティークみたいな見た目だな。…こんな紫尽くしの屋敷…城?に住んでる奴なんてマジで居たんだな。…まるで魔王じゃん。 ……
あ、ここは別世界なんだったか。)
「…座れ。」
「…何処に…すか。」
「……適当で構わんが。」
「……」
男の斜め前に着席すると、すぐに奥のドアが開いた。
給仕か何かかとチラッと目を向けると…
「つ…!?」
青年は思わず立ち上がりかけてしまった。
『異形の者達』という言葉がピッタリな、生物とも分からない者達がトレイや皿を持ちゾロゾロと入ってきたからだ。
手…なのか、タコのような触手のような物を何本もウヨウヨと動かす者。
口から上に鋭い鱗のような物が何本も上向きに飛び出し目も鼻も無い者。
歪なコウモリのような翼でフヨフヨと飛ぶ小さい者。
どれも、確実に人間ではなかった。
パシッ!
だが逃げかけた青年の手首を掴み、男は微かに首を振った。
必死に恐怖に堪えながら青年は着席したが、顔は完全に強張ってしまっていた。
そんな青年の前にも男の前にも、彼らはルンルンと食事を並べていった。
「マグダラ様~お食事です~!」
「今朝は裏山でモンチが捕れましたのです~♪」
「ほう。良い出来だな?」
「「えへへ~♪」」
『モンチ…?』…と頬を引き吊らせ皿に目線を移すと、肉のような物が盛られていた。
(これ、…モンチ?)
「マグダラ様の今朝のお供はか弱そうです~!」
「可愛いけどひ弱そうです~!、どこの出なのです~?」
(うっわ俺の話…!?)
何と返せばと悩む間も無く、男が質問に応答した。
優雅に微笑み、頬杖を突きながら。
「此奴は世界の端で拾ってきた。
古き夢の末裔であろう。
お前達、よくしてやってくれ?」
「わあっ!」
「古き夢ならば納得です~!
どうぞヨロシクなのです~♪」
手と思われる触手を握手を求めるように差し出され、青年は口角をヒクヒクさせながらも震える手を差し出し、握手した。
(……プルプルで気持ちいい。)
『じゃねえよ!?』…と激しく自分に突っ込みを入れたが、どうにか挨拶は無事に終了したようだ。
給仕が居なくなると、青年はどっと疲労を感じテーブルに項垂れてしまった。
「……フッ!」
「!」
「フフ…くっ、…プススススス…!」
「…って!?、笑ってんじゃねえよ!?」
小さな声に何かと顔を上げたら男がうつ向き震え笑っていて、青年は思わず突っ込んでしまった。
ストレスが限界に達したのだろう。
いつもならここで『しまった!?』と口を塞ぐところなのだが、青年は笑われた悔しさや現状に色々と限界で、椅子を鳴らし立ち上がった。
「こっちは取って食われねえかってマジで怖いってのに笑ってんじゃねえよこの…ボケ魔王💢!?」
「フ…くくく! …すまんな可笑しくて。」
「だからそれだよ!?
そもそもなんなんだお前!!
勝手に人をこんな…なんだっけ!?ファンタジーア!?なんかに連れてきやがって!?」
「ファンタジナだ。…なんだその間抜けな名は。」
「耳馴染みがねえんだからしょーがねえだろ!?
てか…お前マジで何なんだよ一体本当になんなわけ!?」
「……して、『マオウ』とは何だ?」
「聞けよ人の話!!!」
怒りが爆発した事で少しだけ冷静になったのか、青年は激しく突っ込みを入れながら、ハッと気付いた。
今しがた入ってきた給仕の者の台詞を。
「…マグダラ?」
「……如何にも。」
「…あんたの名前は、ファナ…じゃ」
ギン…!
マグダラに激しく睨み付けられ、青年は言葉半ばに口を閉じた。
だがマグダラはすぐに目を閉じ、頬杖を突いた。
「我が名はマグダラ。この城の城主だ。」
「……」
「…して、お前をここに連れてきた理由についてなのだが…?」
マグダラはそっと青年を指差すように長い爪の人差し指を上げた。
途端に爪先がサラサラと砂になりテーブルクロスの上に落ちた。
青年は驚きつつもじっとそれを見守った。
「…こうして、貴様に殺意を向けると私が錆びてしまうのだ。」
「………」
「人間を滅ぼさんとする私にとってこれは死活問題だ。
脆弱な存在の癖に何故、如何様にして私の力を退けるのか。
その理由が分からねば人間を滅ぼす前に私が朽ちてしまうだろう?
なんせ貴様も滅ぼされる人間の一人なのだから。
故に…?、貴様をここに連れてきた。
貴様を無事に殺し、人類を滅亡させる為に。」
「………」
「…以上だ。何か質問は?」
『って今俺を殺そうとしてたのかよ…ッ!!』という激しい突っ込みは、心の中で爆発した。
そして青年は力なく着席した。
ああ、もうなんか、…どうでもよくなってきた。
ここまで清々しく殺意向けられるとか…はは。
まあ少なくとも、現状こいつが俺を殺せないのだけは確かだ。
…だったらどうにか生き延びて、逃げよう。
帰るんだ。……家…に… …
『…何のために?』
「……おい。」
「…!」
遠くに飛んでいた青年の意識をマグダラの声が引き戻した。
青年は無言でぐっと口を縛ってしまった。
…戻って、何になるんだろう。
帰りたいさ。…そりゃ、帰りたい。
命の危険に曝され続けるのなんてごめんだし。
…でも、分からない。……分からないんだ。
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