第6話 貴様等人間の夢が、現実となる場所だ。
「…… ハッ…!」
青年は勢いよく体を起こした。
肌の浅黒い男に首を掴まれたり殺すと宣言されたりと途方もない夢を見たので、飛び起きたのだ。
だが視界に入ったのは自分の部屋ではなく…。
「……ど、何処だここ。」
薄暗い石造りの部屋。
壁には何ヵ所も松明がかけられていたが、その炎は紫だった。
寝ていたベッドを見てみれば、見たこともないような湾曲した素材で型どられた大きなベッドで、シーツだけは白かったが、触り心地は自分のベッドのシーツよりフワフワでサラサラだった。
広さは15畳ほど。かなり大きな部屋だった。
…え、待て。まてまてまてマテ待ってくれ!?
この…色!?、紫っつーの黒紫!?…の配色って!?
「あの角男の…!?」
ガチャン…
動揺し声を上げた刹那部屋のドアが開き、あの男が入室してきた。
青年は思わずピッと固まり、引きつりながら逃げ道を探したが、嵌め殺しの窓か男が入ってきたドアしかこの部屋に退路は存在しなかった。
「…目が覚めたな。」
「……」
「来い。食事にする。」
「…… へ?」
すぐに殺されると思っていたのに食事と言われ、青年は呆気に取られ思わず聞き返してしまった。
『しまった!?』と口を塞いだが、男は微かに眉を上げ不思議そうにした。
「腹は減らんのか?」
「………」
「…人間も我々と同じ様に毎日食事を摂らねばならない生物だったと思うが、……」
「………」
『いやそこじゃねえよ!?』…という突っ込みを全力で青年は飲み込んだ。
なんせ男は青年を殺そうとしたのだから。
ここが何処なのかなんて分かりはしないが、夢が幻でなかったとしたならば、ここは間違いなくこの悪魔のような男の根城か何かだろう。
つまり下手を打てば、青年は殺されてしまう可能性が高いのだ。
(…てか、だったらなんで殺してないんだ💧?)
「……食事は要らんのか?」
「い、頂きます。」
「…ならば早く起きろ。」
「…はい。」
食欲など無いし疑問も山程あったが、青年は男の言葉に従うことにした。
カツカツとヒール音を鳴らし優雅に前を行く男は、空に浮いていた時より随分小さく感じた。
翻すマントも中世を彷彿とさせる衣服も青年にとってはかなり物珍しかったが、この男にはこれ以上ない程に似合って見えた。
(まあよくよく思い出してみれば、俺の目の前に現れた時も空に浮いてた時よりかはサイズダウンしてた…よな。
…背ぇ高。何センチあんだこいつ。
それにこれ、…ツノ…だよな。
やっぱ角だよな。…悪魔とか鹿とかに生えてるやつだよな…?)
つい目線はそこに集中した。
彼は肌の色や髪の色以外は特に人間と変わりなく見えるが、角だけは人間には無い物なので目を引くのだ。
約10センチはありそうな角は耳の上から生えて見えた。
そしてその角の先まで身長を入れるなら、2メートル近くはありそうだ。
それに男はスタイルも抜群だった。
(どう足掻いてもフィジカルで負けてる。
絶対に勝てない。抗った時点で死ぬわこれ。)
改めて男に従うしかないと実感した瞬間、青年ははた…と足を止めた。
ある種の諦めのような心の区切りがついた途端に心に余裕が生まれ、自分の歩く世界の強烈な違和感に気付いたのだ。
「……は。」
「…ん?」
青年の小さな声に男も足を止めた。
青年は愕然と、この石造りの建物と窓の外に広がる景色に…、絶句した。
「…なんだこの…世界。」
照明という照明が紫色の炎。
窓の外に見える空は灰と紫と黒がマーブルに混ざり、蠢いていた。
大地には花のような物が咲いていたが、どれも黒紫のおどろおどろしい見た目だった。
男は絶句する青年の隣に並ぶと、こともなげに告げた。
「ここは『ファンタジナ』。」
「…ファ、ファンタジナ…?」
「そうだ。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます