第3話 唯一答えてくれた人

そもそも俺は子供の頃から風変わりだった。

周りの、他の子が抱かないような感覚を漠然と抱いていたんだ。


その感覚とは、『生まれてきたかった』。

…というものだった。


俺は小さい頃から、物心付いた頃からそれは何度も何度も何度も親に言い続けたらしい。

『生まれてこれて嬉しい』『生んでくれてありがとう』。

両親からすればこんなに嬉しいことはなかっただろう。だが同時に疑問にも感じていたらしく、時折『どうしてなの?』と質問をされた。

何度も質問されたから流石に俺も覚えている。



『何がしたくて生まれてきたの?』


『…えっ…とぉ??』



生まれてきたかった事は確かなのに、何故生まれてきたかったのか。…が、分からなかった。

俺を蝕む焦燥感の正体が、実はこれなんだ。

俺の胸にぽっかりと空いた穴の原因こそ、『何がしたくて生まれてきたのかが分からない』という意味不明な疑問だ。

これが実に厄介で、いつになっても消えてくれないんだ。

子供の頃はまだ良かったさ。『わーい生まれてこれた~!』って単純に騒いでいられたさ。

だが18にもなってみろ。…『俺は何がしたくて生まれてきたんだろう?』とそればかりを考えるようになり、いつになっても自分の方向性が定められず、その内夢が叶わないような…、初めから叶えようがないような空虚感に苛まれるようになった。

埋められない孤独…みたいな。


結果俺はダラダラと生きてしまっていた。

誰よりも人生に燃えていた筈なのに、今じゃ誰よりも鬱傾向。 …ほんと、馬鹿だよな。




プルルルル!


「!」




こんな風変わりな人生思考故に、俺は風変わりな幼少期を過ごすことになった。

幼稚園に通い出した俺は『ねえ何がしたくてここにきたの?』…って聞いて回ったんだ。

つまり、幼稚園児相手に生まれてきた目的リサーチをしたんだ。


小さい頃は自我が未発達だし、俺は皆が自分と同じ様に目的があって生まれてきた。…と思い込み、自分の生まれた目的の参考にしようとそんな質問を繰り返した。

だが答えは帰ってこない。

『?』と首を傾げられたり、『わかんない』とシンプルに答えられたり。


…がっかりしたのを覚えてる。

人の中に答えがある筈がないのに、俺は生まれた目的が分からないことが…やっぱりあの頃から苦痛だったんだろう。




プルルルル… ピッ!



「…もしもし?」


『テストはどうだった?』


「開口一番それかよ彼方。」


『ハハ!、まあ答えなど分かっているがな?

大方六割程度を適当に解答したってとこだろう!』


「ご明察。…そっちは?」


『ん?、当然全教科満点の予定だが?』


「あーイラつくわー。」


『ハハハ!』




…だが一人、たった一人だけ俺の質問に答えた奴がいた。それこそが今電話で話しているこいつだ。

名前は彼方(かなた)。タメの男子だ。


彼方と会ったのは小学校一年の時だった。

幼稚園では惨敗したが小学校ならどうだ!?…と、相変わらず誰もが首を傾げる質問をした俺に…




『ねえ、何がしたくて生まれてきたの?』


『え?』




彼方はまるで、至極当然のように言い切ったんだ。




『僕は自分の家に生まれてきたかっただけだ。』


『!!』


『この血に生まれてくることは決まっていたんだ!、それがどうかしたか?』




…マジでこの喋り方だから。

マジで小一からこんななんだ彼方は。


だが幼いながらに俺は彼の解答に納得していた。

何故なら彼方の家は相当な良家だったからだ。

俺も未だに詳しくは教えられていないんだが、彼の一族は遥か昔、一からここら一帯を開拓したんだとかで…、今でも根強い権力を保持しているらしい。

役所だの保健所だの警察や消防にも顔が利き、当然政治家だのとも繋がってるとか。

だが汚い家業を行っているのか?…と聞かれれば全くの逆なんだとか。

むしろ自治体などが暴走せぬよう見張っていたり?

福祉の不足などに口を突っ込んだり…と、それはそれは良心的なんだとか。

…まあ、それが事実かどうかは俺には計りかねるが、何度も家に遊びに行った感じでは、嘘ではないように感じた。


だってそんな良家の御子息を、普通の幼稚園に入れるか?、公立の学校に通わせるか?

彼方の親も祖父母もとても常識的で優しかったし、面白かった。

なんというか、透明感があった。


そんな家で育った彼方は俺より風変わりだが決して悪目立ちはせず、いつでも何処でも皆の人気者でリーダーだった。

小学校でも中学でもクラスメイトに寄り添い、いつだって元気で、皆をリードしていた。

俺はそんな彼の成長を間近で見ながら、『生まれながらのリーダーってこいつのことだ』とよく思っていたっけ。


…で、彼は今となっては俺の唯一の友人だ。

こいつとは本当に気が合う。…なんでだろう。




『今日この後どうするんだ?』


「そんなん決まってんじゃん。」


『待て当ててやろう♪』


「花見だよ!!」


『なぜ言う!?』




俺は小二に上がる頃には質問を止めていた。

誰も返せない質問だと気付いたからだった。


それから俺は人に関わらなくなった。

別に人が嫌いなわけじゃない。

…両親との死別も要因の一つなのかもしれない。

でも寂しくはなかったんだ。

こいつは俺の涙に、何日も何週間も何ヵ月も…、嫌な顔一つせず必死に寄り添ってくれた。


…ハズイし、今更お礼なんて言えないけどな。






◯ 彼方くんは変わり者ですね~!

ぶっちゃけ青年も変わり者ですけどね、人はみんな違うんだから、それでいいんです。ウンウン♪



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