第8話

トイレから戻る時、ひじきちゃんが気になり、リビングへ

顔を少し出し様子を見て、近づきたくなってしまった。

ゲージの近くに寄ろうとすると


ワンワン


「んふふ〜」


動物は、好きだ。でも飼ったことは、ない。だから、どうしてもと手がひじきちゃんに伸びていく。

撫でていると指の匂いを嗅いでいた。


「初めまして、ひじきちゃん」


ウーワンワン


「え?なんで?!あ!これ?」


もしかしたら、桐谷さんの服だからかもしれない

服の匂いは、桐谷さん

でも手の匂いは、違う人ってなったら警戒もするよな〜


「…仲良くなりたいよぉ〜」


自分は、バカなのかと思うかもしれないが、動物に話しかけてる。

これで伝わったら、いいのにと思っていた。


〔そう言ってくれて嬉しいなぁ〜〕


「え?ひじきちゃん?」


〔ひじきだよぉ〜〕


聞こえてくる声が明らかに後ろだと言うことに気がついて振り向いた。


〔ありゃ、気づくの早いな〜w〕


「そこまでバカでは、無いので…」


〔ならはよ寝なさいwひじきと仲良くしてくれんのは、嬉しいけどな〜〕


とこちらに歩いて来て、犬みたいに手を出して言った。


〔今は、早く治すことが大事だワン〕


「ふふっありがとうございます」


〔やっぱり、村瀬さんは、笑ってる方がええわ〕


「え?それは、どう…」


と話を続けようとしたが、桐谷さんが2.3人見える。

身体の力が抜ける感覚がある。


〔え?!ちょっと!村瀬さん?!〕


「だ、大丈夫、です」


〔大丈夫ちゃうやん、ほら手出して〕


「いいえ、歩けます、から」


〔…もうええ〕


「え?ちょっ?!」


気がついたら、軽く持ち上げられていた。

しかし、それにリアクションする余裕もないほど、クラクラする

そんなことをしていたら、熱が上がってしまったようだ


〔ほら、言わんこちゃない〕


「すみません」


〔今日謝り過ぎやで?どうしたん?〕


「癖です」


〔…俺は、村瀬さんの味方になりたいねん〕


「お気持ちだけで結構です。」


そう冷たくいい、布団を顔まで被った。

恩を仇で返しているかもしれない


〔…〕


「桐谷さんには、関係ないですから」


〔村瀬さんみとると強がってるようにしか見えへんわ〕


「…」


布団の間から見えた桐谷さんの顔は、寂しそうな瞳をしていた。

なんで、そんな顔を貴方がするんですか?

そう言いたかったが、それよりも前に目が閉じた。











〔………さん、……むら、……村瀬さん〕


「…はぃ」


小さい声を上げるのがやっとだった。


〔大丈夫か?なんかほしいもんあるか?〕


彼は、優しい声で聞いてくる

本当に心配してるんだろうな

ありがたいと思いながらも、首を横に振る


〔汗いっぱいかいたなぁ、あ、タオル持ってくるな〕


と桐谷さんは、布団をポンポンと叩いて立ち上がった。

しかし、手が桐谷さんの服を掴んだ。


〔え?村瀬さん?〕


そして、絞り出した声で


「………ま……って……」


そう言葉が出ていた。

多分、この時相当弱っていたのだろう

傍に人がいるから、その人の温度を、人の温かさを感じたかったんだと思う。


〔村瀬さん…〕


朦朧とする意識の中で、服を掴んだその手を桐谷さんは、握り返してくれた。


〔大丈夫です、俺がいますから。〕


大きな手


暖かくて


それでいて


私とは、全然ちがう手


「ありがと…」


気がついたら眠っていた。


〔なにしてんねや…〕

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